長谷真吾 著
技術評論社 1,659円

書名でわかる通り、就活本である。就活本にはいくつかのジャンルがあり、自己分析という名の自分探し、業界研究という経済の理解、SPI対策という学力アップ、エントリーシートの書き方、そして面接対策という実技指導がある。職種研究は、就職ガイダンスの一部ではあるが、他のジャンルに比べると少ない。
「合う・合わない」で仕事は決めなさい
本書は、もともと多くない職種本の一冊であるが、職種本の多くが、外面から職種を解説しているのに対し、本書は価値観に重きを置いて解説しており、個性的だ。
 業種によって、外資系か日系かによって、ビジネスモデルによって、社風によって価値観は変わる。外資系銀行と邦銀で価値観は違う。ヤフーと楽天は同じような事業を展開しているが、楽天の規律は厳しく、ヤフーは自由だ。自動車メーカーのトヨタとホンダは異なる社風だ。そんな事例を通じて、価値観について解説しており、説得力がある。

 本書が依拠しているのは、EI理論だ。Emotional Intelligenceは心の知能指数を指しており、主要な価値観として、人間関係、自律性、多様性、創造性、社会貢献、刺激、名誉、昇進、報酬の9つを定義している。人と仲よく仕事をしたい人もいれば、一人で頑張りたい人もいる。コツコツと丁寧に仕事をしたい人もいれば、新しいアイデアを思いつくことが楽しくてたまらない人もいる。それが価値観だ。
 人事を悩ませている問題のひとつに若年離職がある。入社3年以内に3割が離職してしまう。本書によれば、離職現象が起こる最大の理由は価値観のミスマッチ。
 本書は就活生の立場で価値観を論じているが、採用側でもEI理論を使うことはできる。面接の印象で価値観を計るのは難しいが、EIテストでもそれ以外の適性試験でも、学生の価値観を可視化できるはずだ。人事担当者にとっても有益な本だと思う。

 就活生は職種を知らないが、大人も自分の職種以外についてあまり理解していないはずだ。ジョブローテーションによる人材育成を制度化している企業もあるが、数は少ない。人事担当者に関してはHR総合調査研究所が行ったデータがあり、約半数が「他部署」の経験を持っているが、25%は一貫して人事畑、約2割が人事専門職として中途入社している。おおざっぱに言って、半数近くの人事は他職種の経験がないという計算になる。
 もちろん人事畑一筋でも、他職種に関する知識はあるはずだが、それほど深く理解しているわけではないだろう。本書を読むと、職種が要求する価値観がわかるから、配属を決めるのに役立つと思う。
 たとえば流通業の「バイヤー」で合う価値観は自律性。人間関係を重視する人間は交渉相手を考慮しすぎるので向かない。バイヤーと似ている職種は総合商社の総合職だそうだ。
 しかし流通業でも「店長」はまったく異なる価値観になり、合うのは昇進の価値観。合わない価値観は自律性だ。似ている職種は、サービス業の店舗責任者だ。
 人事、経理、総務というスタッフ職の説明もある。人事で合わない価値観は人間関係だそうだ。その理由は、関係性を重視すると、経営と現場の板挟みになるからだ。その通りかもしれない。
 本書には78職種が取り上げられている。なかには「本当にそうかな」と賛同しかねる記述もあるが、ひとつの見解として読めばいいと思う。職種についての理解を深めるのに役立つだろう。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!