DXの時代に経営改革を担うのは「CFO」
日本企業も欧米に倣って、経理や財務部門の責任者に「CFO」(最高財務責任者)を置き、社内の数字の分析等を使いながら、経営の中枢として経営戦略の策定や実行を担っていくことになります。従来CFOは、投資やM&Aといった経営を改革する成長ドライバー(成長の原動力)に対して、牽制しブレーキを踏む役を担っていました。しかし、会社全体で経営改革を推し進めなければいけないVUCAの時代においては、逆にアクセルを踏みこむ役割を担うようになっているようです。本稿では、企業経営において重要性が増している「CFO」について取り上げます。

DX、イノベーション、社外の力、そしてCFO

本コラム「VUCA時代の人財、経営戦略論」では、第1回(※1)で「コロナ禍は経営改革のチャンス」として、DXに明るい経営人財の確保・育成が経営改革の鍵であることを示し、第2回(※2)では「イノベーションを起こす経営者の育成のための社外戦略」としての「経営者コーチ」について述べ、そして前回の第3回(※3)は「社外取締役」について言及しました。

今回は、こうした考えの延長線上で「CFO」の新たな役割について述べていきたいと思います。私自身、ベンチャー企業でのCFOの経験(正直、当時は若くて経験が不足しており大した仕事は出来ませんでした)、そして大企業でのCFO補佐的な経験があるので、そうした経験も踏まえて書いていきます。

日経新聞の記事に見るCFOの理想像とは

日経新聞で『〈市場と企業〉第3部 財務力を磨く』と題しCFOについて取り上げた2本のシリーズ記事があります。1本目は3月11日掲載の記事『経営改革CFOが担う〜投融資判断や戦略けん引、外部出身者が6割〜』(※4)です。2本目は3月13日に掲載され、『いでよ「デジタルCFO」、データ分析の精通、経営の中核 縦割り意識誕生、誕生の壁に』(※5)との見出しが付いています。

この2つの記事を合わせ読むと
・経営改革を達成するためには適切な投融資の判断が必要であり、
・それを判断できるのは、データ分析に精通したCFO
・そうしたCFOは従来あまり日本企業にはいなかったが、金融、コンサル、ファンドなどの外部出身者によって、そうした人財を確保する企業が出始めている
・しかし、そもそも(経理《財務》部長/担当役員ではなく)CFOと名乗っているのは、上場企業では増えてきているとはいえまだ1割に留まっている
・経営判断のベースになる社内の主要な財務データを一覧で見られるような仕組みの構築については、企業内の縦割り意識が邪魔をしている

といった具合に“あるべきCFO像”を提示しながら、そうではない現状への課題について指摘しています。

日本企業における経理(財務)業務とはどういうものだったのか?

私は外資系企業にも2回勤務していたことがあります。外資に比べた場合、日本企業における経理(財務)責任者の業務内容については違和感がありました。

日本の企業の経理(財務)の典型的な業務を列挙すると、大雑把に「経理処理」「決算」「税務」「資金繰り」と言ったものであり、上場企業あるいはIPOを目指す企業であればこれに「有価証券報告書」の作成やIR(投資家への情報開示)が加わるといったものです。要するに、法令で求められている書類の作成(財務会計)、社内の戦略策定のための数字の把握(管理会計)、そして投資家のためのディスクローズ資料・・・要するに「資料作り」に終始してきたといえましょう。

しかしながら欧米でのCFOは、「CEO」(最高経営責任者)に次ぐ役職の「COO」(最高執行責任者)とも並列のポジションにあります。そして、時にはCOOをサポートあるいは牽制したり、またCEOの後継者をCOOと争ったりというように、CFOは経営陣の一角として経営を遂行していく極めて重要な役職なのです。その役割は、財務や経理に関する数字や資料を揃えるとか、資金繰りといった旧態依然としたものばかりではありません。

社内の数字の総元締め的な位置にいるために「数字に明るい」「数字を根拠にした判断」といった特徴も持ちながら、正に経営層の一人として、戦略策定、戦略実行を全社的な見地から行っていく立場なのです。

私が日本企業の財務の責任者という役割に覚える違和感は、まだまだ日本の企業社会では、そういう経営に関する認識が希薄であったことによるものに他なりません。

笑い話になりますが、2000年代に私がベンチャー企業のCFOに就任した当時、横の繋がりを作ろうと、とあるCFO協会への入会申請をしたところ、「あなたは(経理の専門家ではないから)入会に値する素養がない」と断られました。

時は流れ、その協会は最近会員のための「経営企画スキル検定」なるものを始めており、上記記事の中で協会の幹部が「日本企業は経営計画の立案や統制プロセスに対する財務部門の関与が少なかった」と話していました。

CFOに関する協会を名乗っていた組織が、そうした認識に至るまでの時間の経過こそ、「失われた20年」そのものだったような気もします。

これからのCFOに求められる業務とは?

これからのCFOに求められる新たな業務については、具体的には以下のようなものです。

(1)企業の成長という企業本来の目的を可能にするための経営計画への関与、貢献
(2)その場合の資金調達、投資計画への関与、貢献
具体的には、どこまで投資して良いか、投資すべきか、そして投資資金をどのように手当てするのかといったバランスシート的な発想、そしてM&Aを含んだ投資戦略の細部に渡る専門的な知識による成功に導く関与、貢献
(3)経営戦略策定に資する社内データの整備、それに基づく戦略そのものの策定、実行


とにかく現在の日本企業が置かれている状況は、経営改革による旧来経営からの脱皮、そしてそのドライバーとなる投資についての適正な実行、であると私は考えており、その点CFOという役割の一層の重要性は増加していきます。
そして、そうしたことができる人財の確保・育成が急務となるでしょう。

「最近の大企業でのCFOの補佐的な業務」という私の経験について書きましたが、大学教授という職に就く前の4年間ほど、社員1万人の大企業のCFO(肩書的には、取締役財務部長)の補佐的な仕事をしていたことがあります。

その部署では、もちろん経理業務、決算/税金関係業務、IR的な社外広報、資金繰り/余資運用、外国為替に関する業務がメインの仕事を行っていましたが、私が仕えたCFOは、経理のたたき上げタイプの財務マンではなく、むしろ業務開発、営業、企画といった部署の経験の長い方で、旧来の財務の枠に捉われない、全社の経営戦略への貢献という観点で、財務部の業務の拡大、軸足の移動を意図していました。

この部署で、社内で財務関係に明るく、経営戦略の寄与できるような業務展開が出来る人材を探していました。折しも私がニーズに合致し、二人三脚で会社の経営にまで及ぶ新たな財務業務の展開を進めることになりました(上記その取締役をCFOという肩書もないのに、私が「CFO」と呼んだのはそういう事情があったのです)。

大企業で経験したCFOの新たな業務領域

私がその取締役と一緒に行った新たな領域というのは、
・それまで全社的なルールや基準が乏しかった与信管理体制の刷新、確立
・全社的な経営改革に関する財務数字の分析による理論づけ
・投資計画策定における財務的な観点での基準の明確化
・M&Aにおける財務の観点からの技術的なサポート
・事業開発部門に対する開発促進に向けた啓蒙、サポート
・経営トップ(CEO)に対する社外からの知見を採り入れた、経営に関する参考意見

といったことでした。

私がいた2010年代前半のその会社は大きな経営戦略の変更を企図しました。それに対して、CFOと私は、元々「牽制機能」≒ブレーキとして経営をチェックするという旧来イメージでの財務部門ではなく、経営改革に対してアクセルを踏むことに対して、それなりに貢献しました。それは、比較的保守的で経営改革といったことが苦手という社風の中で、やるべきことへの認識によるものでした。つまりは、「ITの進化」や「少子高齢化の進展」といった時代の大きな変化がすぐそこまで来ており、改革が必要であると捉えていたのです。


しかし、残念ながらビジネスモデルの大きな変革や社員の意識変革といった、当時手を付けなければいけなかったことの徹底は志半ばで途絶え、私自身も、大学教員への転職のためその会社は退社することになります。その後の会社状況の変化については新聞紙上等でフォローする程度に留まりました。

昨年来のコロナ禍で、その会社が属する業界には激震が走り、現在大変な苦境に陥っています。当時経営の中枢に少しだけ近いところにいた者として、あの当時に、もっと激しく経営改革が進んでいたら、というほろ苦い気持ちを今感じます。

話が少し逸れてしまいましたが、このコロナ禍は時代の変化のスピードを加速し、抗うものを飲み込んでしまうほどの勢いを示しています。

VUCAの時代、CFOという役職を名乗る財務のプロが増えていき、そしてCEOやCOOと共に経営改革の先頭に立っていく日本企業が今後増えていくことを希っています。

本記事について、良くわからないなど、ご質問、ご相談があればご遠慮なくコンタクトしてみてください。
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