「差別の禁止」と「合理的配慮の提供」という考え方をもとに、障害者が働きやすく、能力を発揮できる環境づくりが、事業主には求められています。障害者の雇用・就労に関する法制度を研究する福島大学 准教授・長谷川珠子氏のご講演とともに、法政大学 名誉教授・諏訪康雄氏をファシリテーターに迎えたトークセッションで、障害者雇用法制の基本と、ダイバーシティ・マネジメント全般に関わる差別禁止と合理的配慮について学びます。

講師

  • 長谷川

    長谷川 珠子 氏

    福島大学 准教授

    福島大学 行政政策学類 准教授。兵庫県出身。東北大学大学院 法学研究科 博士課程 修了。博士(法学)。専攻は労働法。日本学術振興会 特別研究員(PD・東京大学大学院 法学政治学研究科)、内閣府 政策統括官付参事官(障害者施策担当)付上席政策調査員などを経て現職。労働政策審議会 障害者雇用分科会委員などを務める。著書に『障害者雇用と合理的配慮 日米の比較法研究』(日本評論社)、編著に『詳説障害者雇用促進法〔増補補正版〕』(弘文堂)など。



  • 諏訪

    諏訪 康雄 氏

    法政大学 名誉教授/認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク 理事長

    1970年に一橋大学 法学部 卒業後、ボローニャ大学(イタリア政府給費留学生)、東京大学大学院 博士課程(単位取得退学)、ニュー・サウス・ウェールズ大学 客員研究員(豪州)、ボローニャ大学 客員教授、トレント大学 客員教授、法政大学 大学院 政策創造研究科 教授、厚生労働省・労働政策審議会会長等を経て、2013年から法政大学 名誉教授、2018年から認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク 理事長。専攻は、雇用政策法・労働法。主な著書に『雇用政策とキャリア権』(弘文堂)、『雇用と法』(放送大学教育振興会)、『労使コミュニケーションと法』(日本労働研究機構)、『労使紛争の処理』(日本労使関係研究協会)、共著に『外資系企業の人事管理』(日本労働研究機構)、編著に『キャリア・チェンジ!』(生産性出版)などがある。

ダイバーシティ・マネジメント全般におよぶ「差別禁止」と「合理的配慮」の重要性

日本の障害者雇用施策の全体像
福島大学 准教授 長谷川 珠子 氏

障害者雇用に関する法整備の現状

日本では、「障害者雇用促進法(促進法)」にもとづき、主として以下の3つの雇用施策が進められています。

(1)雇用義務制度
(2)差別禁止・合理的配慮提供義務
(3)職業リハビリテーション


1960年に促進法が制定された当初、(1)の対象は身体障害者に限られ、また、民間の事業主について、障害者雇用は努力義務にとどめられていました。その後、1976年の促進法改正で法的義務となり、同時に「障害者雇用納付金制度」も導入されることとなりました。これによって現在の雇用義務制度の骨格ができあがったといえます。ただし、雇用義務の対象を身体障害者に限る対応はその後も続き、知的障害者は1997年の法改正によって、また、精神障害者については、2013年の改正によって、ようやく雇用義務の対象となりました。このように、(1)雇用義務制度は、非常に歴史のある制度であるのに対し、(2)の差別禁止と合理的配慮は2013年改正で導入された新しい制度です。施行は2016年4月ですので、導入後4年半しか経過していません。

(1)の雇用義務制度は、障害者を特別に扱うこと、すなわち、ある意味では「たとえ職務遂行能力が基準に達しなくても雇用すること」を事業主に求めるものですが、(2)差別禁止は「障害者を平等に、能力に応じた取り扱いをしなさい」というものです。その能力は、“合理的配慮”を提供したうえで測られなければなりませんが、この合理的配慮も障害者の特別な扱いを事業主に求めていると言えなくもありません。特別な取扱いと平等な取扱いという、性質の異なる2つの概念が一つの法律のなかに並存しているわけです。

また、障害者雇用については、解雇に関するルールや安全配慮義務、その他の労働関係法令の適用も受けることになります。このような複雑な問題の中で困難を抱えている現場も多いのではないかと思います。
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