2019年に経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長が、相次いで終身雇用の見直しについて発言し、話題となりました。経済界の重鎮のこれらの発言は、日本型雇用システムが色々な意味で限界に達していることを意味していると言えるでしょう。
さらに新型コロナウイルスの影響で、こうした変化の動きに一層拍車がかかっているように見えます。そして、その背後には、企業と働く「個」の関係の変化が見て取れます。これからの人事はこうした傾向を踏まえたうえで、雇用の仕組みや人事施策を考えていかなければなりません。本講演録では、学習院大学経済学部教授の守島 基博氏、「ONE JAPAN」共同発起人・共同代表の濱松 誠氏の講演の内容をまとめ、「組織」と「個」の関係がどのように変わってきたのか、その背景や新たな雇用の在り方を探りつつ、人事に求められる役割について議論した内容をご紹介します。

講師

  • 守島

    守島 基博 氏

    学習院大学 経済学部 教授

    1986年 米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。1990年 慶應義塾大学総合政策学部助教授、1998年 同大大学院経営管理研究科助教授・教授を経て、2001年 一橋大学大学院商学研究科教授。2017年より学習院大学経済学部教授。2020年より一橋大学名誉教授。厚生労働省労働政策審議会委員、中央労働委員会公益委員などを兼任。 著書に『人材マネジメント入門』、『人材の複雑方程式』(共に日本経済新聞出版社)、『人事と法の対話』(有斐閣)などがある。



  • 濱松

    濱松 誠 氏

    ONE JAPAN 共同発起人・共同代表

    1982年京都生まれ。2006年パナソニックに入社。海外マーケティング、人材・組織開発、そしてベンチャー出向等を経て、2018年の末、パナソニックを退職。2012年、本業の傍ら、組織活性化をねらいとした有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。その後、志を同じくする仲間たちと出会い、2016年「ONE JAPAN」を設立、代表に就任。現時点で54社・1500名が参画。共創、人材育成、土壌づくり、意識調査等に取り組む。日経ビジネス「2017年 次代を創る100人」に選出。2019年、夫婦の夢だった世界一周を実現。現在は企業のアドバイザーなどをしながら、起業準備中。



  • 寺澤

    寺澤 康介

    ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長

    1986年慶應義塾大学文学部卒業。同年文化放送ブレーン入社。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。常務取締役等を経て、07年採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ株式会社、2015年4月ProFuture株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。8万人以上の会員を持つ日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、約1万5千人が参加する日本最大級の人事フォーラム「HRサミット」を運営する。

雇用が変わる、人事が変わる ~企業と働く「個」の関係変化にどう対応するか~

変わる組織と人の関係のもとで人事部門が考えるべきこと / 学習院大学 守島 基博氏

「組織」と「人」の関係を変える3つの背景とは?

今、「組織」と「人」の関係は大きく変わり始めています。その変化の背景には何があるのでしょうか。
まず第一に、言うまでもなく変化を大きく促したのは、新型コロナウイルスです。新型コロナウイルス感染拡大は、
テレワーク、在宅勤務、Web会議など社員の働き方と組織運営を急激に変えました。厚生労働省-Line調査による
全国のテレワーク実施率は、3月下旬の13%から、4月中旬には28%まで上昇しており、緊急事態宣言解除後に多少の揺り戻しは
ありましたが、今後もテレワークが広がっていく可能性は高いでしょう。例えば、経団連が出したガイドライン(テレワーク・在宅勤務の継続、週休3日制、時差出勤、ローテーション勤務、変形労働時間等を奨励)や、日立、富士通、カルビーといった先端的な企業がテレワークへの移行を宣言したことも、大きな後押しになると思います。
テレワークが広がると、組織そのものが、よりバーチャルでフラットなものに変わるでしょう。これからの組織は、「自律・分散・協働型」が一般的になってくると思います。そうなると次にマネジメントの概念も変わります。従来の階層と監視によるコントロールではなく、リモートで働く見えない部下に対するコミュニケーションやコーディネーションがより重要になるでしょう。そして働く人たちも、これまでのように組織に対して忠誠を誓ったり、コミットメントしたりするよりも、自己の職務に関心を持つようになると思います。要するに「組織エンゲージメント」から、「職務エンゲージメント」へ変わるということです。日本型の雇用モデル(メンバーシップ型)は、組織エンゲージメントを重視してきましたが、今後は職務に対してどこまでコミットするか、エンゲージするかが問われると思います。

次に、組織と人の関係が変わり始めている背景には、経営戦略の大きな変化があります。現在、環境変化の中で、「経営のグローバル化」、「イノベーションを中核とした成長戦略」、「M&Aを中心とした成長戦略」、「経営におけるAIやICTなどの活用」、「サービス型ビジネスの進展」など、経営戦略の変化が急速に起こっています。しかも、その変化のスピードがものすごく速くなっている。戦略が急速に変化すれば、当然今までとは異なる能力や経験をもった人材が必要となり、同時に人材マネジメントや人材管理の在り方も変えていかなければなりません。

そして3つ目の背景は、人そのものが変わりつつあるということです。例えば、価値観の変化(ワークライフバランス重視のミレニアル世代が近い将来のマジョリティに、さらに若者たちは大企業や雇用を望まない)やダイバーシティの浸透などによって、個を尊重する風潮がより一層広がっています。実際、近年では仕事よりもプライベートを優先したいと考える若者が増えてきました。こうした変化は当然、組織と人との関係も変えるでしょう。
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