伊東朋子 著
東洋経済新報社 1470円

 本書の内容はタイトルに言い尽くされている。人材マネジメントが大転換し、人材マネジメントを所轄する人事部の意識変革が必要になる、という趣旨だ。
 もう少し正確に言えば、人材マネジメントの転換と人事部の意識変革が必要だが、日本企業の多くが人材マネジメントを転換しておらず、人事部の意識も旧態依然のまま。著者は、そんな実態に警鐘を鳴らしている。
大転換する人材マネジメント
著者の伊東朋子氏は理系出身の人事コンサルタント。明確に言葉を選び、きびきびと叙述するので趣旨はわかりやすい。

 冒頭のPrologueで伊東氏の問題意識は、はっきりと述べられている。「環境変化のスピードに対応しきれない日本企業」、「戦略的に組織の人材を活用していくという視点が不足している人事」、「管理的・保守的な考え方をする傾向が強い大手企業の人事」、「戦略と革新性が不足している人事施策」、「日本は特別、自社は特別、人事は特別」と手厳しい。
 著者の指摘は厳しいが、正しいと思う。そして人事担当者の多くも「このままではいけない」という問題意識を持っている。しかし変革に踏み出す人事はまだ少ない。問題意識の段階で、日本の人事は停滞している。
 なぜ停滞しているのか? これまでの人事システムは、高度成長期から続いてきた。このシステムは新しい時代の人事へと変革を迫られているが、その背景や方向が整理されておらず、人事自身に迷いがあるので、根本的な変革ができないのではないだろうか。
 本書を読めば、いま起こっている時代変化、その変化に対応するための方向がはっきりわかる。人事部の意識変革への起爆剤となることを期待したい。

 本書の構成は、Prologue、Chapter01~04、そしてEpilogueとわかりやすい。人事関係者なら、内容に心当たりがあるだろうから、一気に読み進むことができると思う。
 わたし自身がもっとも面白く読んだのはChapter03だ。Chapter03は、米ミシガン大学ロス・ビジネススクールのデイビッド・ウルリッチ教授が説く「HRの4つの役割」を紹介している。ご存じの方も多いと思うが、人事の役割を規定したもので「戦略のパートナー(戦略的HRのマネジメント)」「管理のエキスパート(企業のインフラストラクチャー〈制度や構造〉のマネジメント)」「従業員のチャンピオン(従業員からの貢献のマネジメント)」「チェンジエージェント(変革の推進者)」の4つである。ウルリッチ教授は、従来のHRが果たしてきたのは「単なる制度、基準の番犬」に過ぎないと否定し、4つの役割を提起した。
 最近の人事セミナーでは、この4つの役割が引用されることが多く、かなり多くの人事担当者には既知の知識かもしれない。しかし内容を細かく説明するセミナーは少ない。本書の解説は丁寧なので、一つひとつの役割の意味がよくわかる。

 ウルリッチ教授は「HRの4つの役割」を実行するために必要な能力要件として「HRコンピテンシー」を定義している。しかしこのコンピテンシーを紹介する本やセミナーは少ない。
 HRコンピテンシーの最新版は、ウルリッチ教授の調査研究グループが今年発表した「2012 Human Resource Competency Study」だ。Web検索すれば原文を読むことができる。本書はこの最新版を取り上げている。
 HRコンピテンシーは6つある。「人事の戦略者(Strategic Positioner)」、「信頼される実践者(Credible Activist)」、「組織力の構築者(Capability Builder)」、「チェンジチャンピオン(Change Champion)」、「HRのイノベーター/インテグレーター(HR Innovator and Integrator)」、「テクノロジーの提案者(Technology Proponent)」の6つだ。
 最後の「テクノロジーの提案者」とは、従業員同士を効率的につなぐためにテクノロジーを活用することである。たとえばソーシャルメディアを使ったコミュニケーションチャネルに投資することだ。ソーシャルメディアの登場はこの数年のことだが、最新版だけあってこのような新しいテクノロジーにも目配りされている。
 6つのコンピテンシーの詳細については、本書を読んでもらいたい。これからの人事に必要な能力について知ることができる。
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