戦略人事というワードが聞かれるようになってしばらく経つが、真にその価値を発揮できている人事が果たしてどれだけあるだろうか。「戦略」には客観的根拠にもとづく判断が必須であり、いかに人事のプロであろうとも経験・記憶・勘だけで成し得るものではない。これからの人事には「データ利活用」スキルが必須要件となっていくだろう。

人事は経営そのものに影響を与える存在に

人事の価値とは何か。人事の機能は大きく「戦略」と「オペレーション」に分けられる。前者は要員計画やグループ人事ガバナンス、タレントマネジメントなどが含まれる。後者は採用や評価の実務、労務管理や給与計算といった運用業務がメインである。最近の傾向でいうと、オペレーションはアウトソース化やAIへの代替が進み、人事機能はより「戦略型」にシフトし始めている。
では、戦略型人事になるためには何が必要なのか。経営戦略と連動した組織・制度設計を行うこと、事業変革のパートナーとして各種人事施策を推進すること、これらは当然ながら重要だ。しかし、これからの人事に期待される役割はそれだけにとどまらない。グローバル化や社会情勢の変化、それにともない人々の価値観や働き方が多様化する中では、人事のあり方そのものが企業価値を左右することになる。人事はもっと経営判断そのものに影響を与える存在になるのではないか。

人事は事業戦略に主体的に関わるべき

人事の影響力について具体的な例を1つ挙げてみよう。ある企業が〇〇エリアに新たに進出するといった場合、これまでは新拠点の構想そのものは経営の役割であり、事業戦略を受けて人的リソースの確保や労務管理体制を構築することが人事の役割だった。しかし、これからの時代の戦略型人事は、そのエリアに進出すべきか否かの事業判断そのものに関与する。新たな拠点を任せるリーダーにはどのような経験・素質を持った人物がふさわしいか、競合に先行できる生産・物流組織をどう構築すべきか、人員構成に偏りがないかなど、人事・組織のあらゆる側面で分析・助言を行う。
このように、真の戦略型人事とは経営の一角を担う存在であり、それこそがこれからの人事の価値ではないか。人事が経営判断をトップと共に行う立場となるのであれば、人事のリーダーは経営者と同じ目線を持たなくてはならない。市場や競合の動きに目を光らせ、人事・組織観点から将来の適切な見立てができるかが問われるようになる。社内の論理や前例に捕らわれず、客観的な目で自社を評価し、将来の成長に寄与する一手を打つことが果たしてできるだろうか。

データ利活用はこれからの人事の標準装備

かつての人事は経験・記憶・勘を頼りに判断を下してきた。過去はそれでもよかったが、技術革新やグローバル化が急速に進み、複雑で見通しが立てにくいこれからの時代、それでは通用しない。すなわち、人事のリーダーには高度な分析・評価スキルが求められることになる。すでにマーケティングやロジスティクスの領域ではデータの活用が当たり前であるように、近い将来人事が分析機能を持つことが当然という時代が来るだろう。
感度の高い企業はデータの有効性・重要性を認識し、活用を進めている。データから退職リスクの高い人材を判別し効果的な対策を打ちたい、社員のパフォーマンスを高める配置パターンをモデル化したいといったニーズも確実に増えてきている。戦略型人事に求められるのは、自社の企業価値を高めるために組織・人事観点から何ができるかだ。データはその一助となるに違いない。
パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部 マネジャー
西尾 紗瞳
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