斉藤智文著
日本経済新聞出版社
1,680円
世界でいちばん会社が嫌いな日本人
本書のタイトルに違和感を持つ人は多いと思う。日本人の「会社への帰属意識」「仕事への意欲」が高いことは常識だったからだ。世界一労働意欲の高い国民と言われたこともあった。しかしそんな伝説は風化してしまっているようだ。
本書第2章「日本の働きがいは“世界最低”」では、ギャラップ社の「職場への帰属意識や仕事への熱意レベル調査」(朝日新聞2005年5月13日付)が紹介されている。対象国は、シンガポール、フランス、中国、ドイツ、オーストラリア、イギリス、カナダ、ブラジル、アメリカ、日本の10カ国。読むと驚く。

日本では、帰属意識と熱意が「非常にある」人はわずか9%、「あまりない」は67%、「全くない」は24%。会社を愛し、仕事に熱意を燃やす人は1割に満たないのだ。
どの国でも「非常にある」人の割合は少ない。最多のアメリカでも29%にとどまり、以下ブラジル22%、カナダ19%、イギリス19%と続き、フィンランドは日本と同じ9%と低いが、「全くない」も9%と少ないので、全体的な帰属意識と熱意は日本が最低なのだ。
本書ではギャラップ者の調査以外に、野村総合研究所、日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所、警察庁の自殺者統計、労務行政研究所のデータを引用し、社員のモチベーションが低下している実態を客観的に説明している。

日本人の会社や仕事へのモチベーションが低下し始めたのは、著者によれば1998年。平均給与が下がり始め、GDPがマイナスを記録した年だ。前年の1997年には消費税が5%に上がり、ヤオハン、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が経営破綻している。
著者はこの頃から社員に冷たい会社が増え始めたという。それ以前の会社はうまく回り、社員にとって安心できたが、次第に職場が窮屈になっていった。規則も増えた。どういう規則かというと「やってはいけない」規則だ。
どの会社にもごく一部だが問題を起こす可能性の高い人はいる。その一部の人のミスを防ぐために窮屈なルールを強いている。そして職場の居心地が悪くなっていった。

職場の空気を左右するのは上司である。本書には、部下と職場をダメにする管理者の特徴を上げている。
・失敗は部下のせい、成功は自分のもの:誰かを悪者にすれば、自分の身を守れる
・「見える化」が大好き:数字しか口にしない
・何でもメールで伝えてくる:自分の言葉を持たないので説得力がない
・部下を「ちゃん」づけで呼ぶ:本人はそう呼ばれたくない
・届きそうもない目標を押しつける:高すぎる目標はストレッチではなくストレス
・無用な管理をする:余計な精神的ストレスを増大させる
どの会社にもこういう上司は多いだろう。とくに「見える化」は経営コンサルの常套句。「見える化」すればなんでも解決できるかのような風潮があるので、管理職が無意味に使いたがる。
そんな職場の空気を、第一生命が行っている「サラリーマン川柳」が伝えている。
・「課長いる?」 返ったこたえは 「いりません!」
・「意見言え」 言ってやったら にらまれた
・自分でも 出来ぬ目標 出す上司
職場だけではない。経営も生活習慣病にかかっている。本書は6つの症状を取り上げている。
・「禁止事項」が多い
・現場の生の声を知らない
・経営者だけが特別ルール
・悪い情報が隠される
・何でもかんでも革新しようとする:自社の強みを忘れるべきではない
・前年対比ばかりでビジョンがない
これらの生活習慣病の症状を見ると、表層的な「見える化」が本質を隠蔽しているように思える。
本書は第4章まで現在の日本企業の病巣をあぶり出しているが、第5章以降はポジティブな内容に変わる。まず「職場が生き生きする10の条件」を定義する。
それは「対話のある職場」「誠実な職場:倫理観、顧客主義」「任せる職場」「成長できる職場」「認める職場」「配慮のある職場(ワークライフバランスのとれる職場)」「公平な職場」「仕事の意義が見出せる職場」「息抜きや楽しみのある職場」「将来の方向性の見える職場」の10項だ。
ただこれらはいずれも抽象的である。そこで国内外の「働きがいのある会社」29社の事例が12項目に分かれ、具体的に紹介されている。アメリカ企業が突出して多いが、日本企業も3社が取り上げられている(堀場製作所、リクルートエージェント、アサヒビール)。
著者は約25年にわたって世界200社以上を訪問し、人と組織の働きがいについて研究してきたそうだが、そのエッセンスが記されている。本書の眼目はこの29社の紹介にある。

ダイソン、グーグル、ダノン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ハーレーダビッドソンなどの著名企業がなぜ成長し続けてきたのかが理解できる。
12項目のキーワードを紹介しようする、「価値観の共有」「ワーク・ライフ・バランスの徹底」「ダイレクトな対話」「FUNの追究」「ユニークさと元気」「認め、感謝し、称える」「家族のような温かさ」「明快な哲学」「つねに他社に学ぶ」「強い愛着心」「多様さを歓迎」「たゆまない向上心」た。
アメリカでは勤続年数の長さを誇りに感じる人がたくさんいる。食品スーパーのスチューレオナルドでは胸につけている名札に勤続年数が記されている。木材加工のウェアーハウザーではデスクの上に勤続年数(~Year)が書かれたプレートが置いてあるそうだ。そして企業は、社員の平均年齢が高く勤続年数の長いことを自慢している。
29の事例を読んで、「欧米だからできること。日本では無理」と考える人事は多いかもしれない。しかし昔の日本企業を思い出すと似たような文化があった。そんな企業文化を日本は捨て今日に至ってしまったような気がする。
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