小山 昇著、前田 英三郎監修
主婦の友新書 800円
人事課がなくなる日―現役カリスマ社長の脱「好き嫌い」人事術
カリスマ経営者としてビジネス誌にしばしば登場するから、「小山昇」という人物を知っている人はかなり多いだろう。著作も多い。
2010年だけで「経営計画は1冊の手帳にまとめなさい」「無担保で16億円借りる小山昇の“実践”銀行交渉術」「人を信じても、仕事は信じるな!」「『儲かる仕組み』をつくりなさい」「『強い会社』をつくりなさい」と立て続けに出版し、12月の最新作が本書である。

小山氏は武蔵野という会社の経営者。ダスキン事業を基盤とし、中小企業の経営サポート事業を行っている。武蔵野では型破りな施策を実践している。社員が毎朝会社をピカピカに磨き上げ、近隣の清掃にもボランティアとして取り組んでいる。そして人事課がない。人事課がいらない理由を小山氏は冒頭に説明しているが、本書の眼目はそれではない。
「儲かる人事」を実現するために、会社の「健康診断」をしなさいと小山氏は主張している。

どこの会社でも顧問税理士はおり、財務諸表の分析によって安全性、収益性を診断している。ところが社員と組織の「健康度」や「機能性」を診断し、その結果を反映させることで「儲かる人事」が実現している会社はほとんど存在しない。
武蔵野は2008年、2009年と過去最高益を更新している優良会社だが、その秘密は組織診断を実践し、経営に反映させているからだと小山氏は説明する。その組織診断とは何か?

武蔵野が導入しているのは「エナジャイザー」という診断ツールだ。Webで検索すると同名のリチウム電池がヒットするが、それではない。クレスと言う会社が開発し、日本生産性本部が提供している人と組織の診断ツールだ。
新卒採用でおなじみのSPIテストも人の診断ツールだが、エナジャイザーはちょっと違う。まず「社長を含めた全社員がテストを受ける」必要がある。社長も組織の一員だからだ。
テスト自体は簡単。まずWeb上で計算させる。4と2を足すと6、用意された回答から6を選ぶ。7と9を足すと16だが「下一桁を答えなさい」という条件なので、これも6になる。こんな計算を数分ずつ3セット行う。15分程度で終了するこのテストで「情報処理特性」がわかる。仕事の速さ、正確さ、安定性などの能力が数字で把握できる。
その後にアンケートがある。好きな形容詞を回答するだけの簡単なものだが、これで「内的価値観」がわかる。そして仕事の向き不向きがわかる。
そして回答した形容詞の組み合わせから「会社・職場・仕事価値観」がわかる。これは職場環境全体に対する社員の思いを示している。

テストの結果は、数値化されたデータと、そのデータから読み取れる社員の傾向、適性や問題点を指摘した診断書になる。
本書によれば、採用時にエナジャイザーを使うことで社員定着率が劇的に上がるそうだ。また社員の適性にマッチした配属が行えるので生産性も向上する。さらに相性の悪い組み合わせ、相性のいい組み合わせもわかる。

本当に社員の能力と心の状態がわかり、組織を最適化できるならすばらしい。ただしコストは高い。Webで調べると「~100名まで」で262万5000円、「101名~200名まで」は1人2万1000円、「201名~」は1人1万5750円。
もっとも本書で紹介されている導入事例では「1回で100万円を超える費用」と書かれているから、人数によって多少の値引きがあるのかもしれない。それでも大きな出費だ。
ただし他のコストと勘案してみると安いとも言える。間違った採用をしてしまうと、3カ月で100万円程度の無駄な支出を強いられることになる。社員が辞めれば補充採用にもコストがかかる。退職と新規入社が繰り返される組織は、職場が安定しない。エナジャイザーを使えばそれらの無駄を未然に防げると本書は主張している。
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