酒井 穣著
光文社新書 777円
「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト
人材育成の本は多いが、役に立つ本は少ない。著者の経験に基づく個人的な見解であったり、時代遅れで杓子定規な方法論であったりする。そんな本に飽き飽きしている人にとって本書は刺激的だろう。

著者の酒井氏は自分の頭で「人材」とは何か、「いかに育成したらいいか」を考えて本書を書いたものと思われる。たとえば「評判」に関する考察はとても新しい。

全社員を同じように育成しようとしても効果も意味もない。だれを育成するかの「ターゲット人材の選抜」がたいせつだが、その際の指標として酒井氏は「評判」の重要性を指摘している。

「評判の良い人材というのは(もちろん例外もありますが)、基本的に自己の責任範囲を超えて、周囲の皆のために自分の何かを長期間にわたって犠牲にしてきた人材」。

たしかにその通り。しかし人材育成や人事評価で「評判」に着目する企業はどれだけあるだろうか?

また酒井氏が勤務するフリービットでは読書手当が制度化されていることにも驚いた。たぶんそんな企業はほとんどない。読書手当の理由は「読書をすることこそが学習の根幹」であり、「本を読むことが好きになってしまえば、それだけで人材育成の半分までもが完成」だからだ。言われてみれば納得できる。
どの企業でもいますぐ実行でき、もしかすると人材育成に最も効果的かもしれない。ただし、人事部から「読書手当」という提案を取締役会に出しても、通るかどうかはおぼつかない。そもそも人事部段階でためらうだろう。だから日本企業で人は育たない。
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