中村 昭典著
アスキー新書 780円
親子就活 親の悩み、子どものホンネ
いわゆる「就職本」というジャンルは1990年代のはじめに生まれ、業界本、SPI本、面接本と複数のカテゴリーを派生させてきた。そしてこの数年で「就活本」というカテゴリーが発生した。現在も大学生協を中心に売れ続けている「就活のバカヤロー」はその代表と言っていいだろう。

これまでの就職本は、就職活動のノウハウ、心構え、テクニック、知識を教えるものだったが、新カテゴリーの書物は「就活」そのものをテーマにし、著者も採用PR業界の人ではなく、30代前半の若いジャーナリストが多い。自分の足で取材し、発見したことを切れ味鋭い文章で書くからおもしろい。

ただ長らく採用PRに携わってきた者として言えば、間違いもある。一番気になるのは就職協定。就職協定は産業界の主要企業が、新卒採用が過熱しないように取り決めた紳士協定で、1952年から存在したらしいが、1962年に一旦廃止になった後、1972年に復活している。1986年から1995年まで続いた就職協定では、8月20日会社訪問開始、11月1日内定解禁とされていた。「就活本」の若いジャーナリストたちの中には、この就職協定が「実施されていた」と勘違いしている人がおり、そう書いている本が複数存在する。違うのだ。今ほどひどくないとは言え、その頃だって就職協定は有名無実だった。

だれかがこの点を正す必要があると思っていたが、「親子就活」で詳しく解説してあった。いったん書物の形になると、記述が誤っていても一人歩きしがちだから、本書の指摘は重要だ。ちなみに若いジャーナリストが勘違いした理由はマンガだ。1990年前後のマンガには、夏になってから就職活動する様子が描かれている。このマンガ自体が間違っているのだが、一般人が「新卒」を描こうと思って調べれば、就職協定というものがあり、当然守られていると勘違いするのも仕方がないことだろう。

さて「親子就活」という書名を見て、就活学生を持つ親をターゲットにした本ではないかと思う人は多いだろう。たしかに親の年代(40代~50代)で、しかも新卒採用について無知な読者を想定している。新卒採用を知らなかった人でも、この20年、30年に起こった職場の変化を通観し、正社員中心の新卒採用の時代から、正社員と派遣+パートが混在するに至った背景を理解できるだろう。

しかし本書を読んでもっとも多くを学ぶことができるのは、親ではなく人事担当者ではないかと思う。あるいは新卒採用関係者だ。現在の若手人事が本書を読むと知らないことだらけで発見の連続だろう。

数十年にわたる新卒採用の歴史、教育現場の変化が一読して理解できる。若手人事の場合、新卒採用で使われる言葉の意味もよく知らないだろう。本書は説明が丁寧だ。インターンシップ、オープンキャンパス、インターンシップ、エントリーシートなど通常は無定義で使用されるが、もともと新卒に無知な親の世代を対象としているので、わかるように説明されている。

もちろん学生が読んでも自分たちが就職するこの社会についてイメージを掴むことができるだろう。読んで損のない一冊として推薦したい。
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