メンタルヘルス対策についてお客様にお悩み事を伺うと、「職場復帰支援」に関することは、「お悩みトップ3」に入るといっていいだろう。
今回は、国内グループ連結従業員数20万人を超える巨大カンパニーを束ねる人事ご担当者(産業保健・衛生分野ご担当)の松島(仮名)さんに、インタビューを実施した。
巨大カンパニーの「職場復帰支援強化」への挑戦

「オリジナルリワークプログラム」の立ち上げ

松島さんは、約6年前に現場の工場から現在の人事勤労部門に着任された。直近の主なミッションは、グループ全体の健康経営・メンタルヘルスケア推進、ストレスチェックを活かした職場活性化支援、産業保健体制や産業保健業務システムの整備である。

さて、今回取り上げたいのは、松島さんが立ち上げから中心的に関わった、「オリジナルリワークプログラム」についてである。
2013年当時、メンタルヘルス不調で休職した社員のうち、復職してもまた再休職してしまう「繰返し休職者」が、グループ全体で約半数と高い割合で存在した。このことを重要な課題と認識した松島さんは、様々な対応策を講じた。そのひとつが「オリジナルリワークプログラム」であった。
特筆すべきは、外部の施設に休職者を通わせるのではなく、社内に専用会場を作ってしまったことだ。「箱」を独自で持つことにより、試行錯誤を繰り返しながら、自由にプログラムを組み立てることができる。専任講師として、復職支援に詳しい社外の臨床心理士を招いた。
主なプログラム内容は以下である。

 ・生活リズム、労働基礎体力の改善
 ・グループワークを中心としたコミュニケーションの訓練
 ・認知行動療法をベースとした自己分析、ロールプレイ
 ・復職前のロードマップ(自身の対処マニュアル)作成

また、以下を通じて、関係者の連携にも力を入れた。
 ・講師と関係者(上長、産業保健スタッフ、人事勤労部門)とで定期的に進め方を協議
 ・毎月の受講状況レポートによる情報共有
 ・家族会開催による、本人家族との関係性構築

最短で6か月、長くて1年程度で受講者はリワークを「修了」する。

受講者たちはどう変化したのか

「寄らば大樹の陰……いわばそんな社員の気質が、職場復帰時にも影響していたのかもしれません」。松島さんはそんなふうに語る。
自分の問題であるのに、どこか受け身の姿勢の人や、それ以上に「定年までこの会社で働き続けるのが当たり前」という考えが「大前提」である人が多かった。そのため、このリワークプログラムが始まる前は、「本人は何となく戻り、職場も何となく受け入れ、そして再発する」ということを繰り返していた。
そこで、 松島さんも講師も、リワークプログラム受講期間中に本人が自分自身と向き合うことを徹底的に支援した。「厳しかったと思いますよ」、と松島さんは苦笑する。
なぜ、メンタルヘルス不調になったのか、自分が本当にやりたい仕事は何なのか、どんな職場で働きたいのか、そして、自分にとって本当の幸せとは何なのか……。
受講開始当初は講師を逆恨みしたりと、トラブルになるケースもあったが、日々、同じ受講者と語り合い、つらくても自分自身を見つめ続けることで、本人たちにだんだんと「素直さ」が現れてくるのを松島さんは感じたと言う。素直に、真っすぐに、自分の現状を認識する。それができるようになったとき、何か壁を乗り越えたような清々しい表情を見せるのだという。
その結果、しっかりとした意志を持って職場復帰をした社員と同じくらい、新しいキャリアを選んだ社員が出た。笑顔で内定報告をしてくる人も多かった。

現在は、「オリジナルリワークプログラム」の成果をベースに、少しずつ形を変えながら、全国的な職場復帰支援策へと進化させ、取組みを継続している。

松島さんが仕事人として大切にしていることに「現場現物主義」ということがある。制度やプログラムや箱を作ればそれで良し、ではない。作った制度の中で、社員がどう感じ、どう変わっていくのか。本当に社員のためになっているのか。それを松島さんはこれからも現場で検証し続ける。
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