厚労省の「キャリア形成促進助成金」は今年4月1日から「人材開発支援助成金」に名称が変更された。名称だけでなくその内容にも変更があったわけだが、大きなポイントとしては労働生産性が向上している企業に対して助成率または助成額を引き上げるとした点だ。評価軸に生産性の評価を入れたのは、政府が推し進める働き方改革を反映したものだといえる。
人材育成から人材開発に

能力開発の現状と問題

同省では平成13年から「能力開発基本調査」を実施している。企業の方針などを調べる「企業調査」、事業所の教育訓練の実施状況などを調べる「事業所調査」、個々の労働者の教育訓練の実施状況等を調べる「個人調査」から構成され、平成28年度公表の調査では企業調査が約7,300社、事業所調査が7,200事業所、個人調査が約24,000人であった。

この平成28年度調査によると、能力開発の費用について、OFF-JT、自己啓発支援ともに「過去3年間の実績で増加した」と答えた企業に比べ、「これから今後3年のうちには増加見込みである」と答えた企業の方が多くなっており、能力開発を重要視する企業が増加していることがわかる。



しかし、一方で、人材育成について何らかの問題を抱えている企業は72.9%にものぼり、その内訳としては1位が「指導する人材が不足している(53.4%)」、次いで「人材育成を行う時間がない(49.7%)」、3位は「人材を育成しても辞めてしまう(43.8%)」となった。


この点を労働者側から見ていくと、「自己啓発を行う上で問題がある」とした労働者は正社員で78.4%、正社員以外で70.3%となっており、その問題点として最も多かったのが「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない(正社員:59.3%、正社員以外:39.4%)であった。



また、助成金活用に際しては事業内職業能力開発計画(以下 開発計画)の作成、選任をつけることが前提であるが、この開発計画について「いずれの事業所においても作成していない」企業が75%、職業能力開発推進者の選任状況は「いずれの事業所においても選任していない」企業が73%にものぼった。

上記から、多くの企業で人材育成や能力開発の重要性は理解しているものの、人材不足や業務過多によって日々の業務に忙殺され、その計画すらままならないというのが実情であることがわかる。

体系的な中長期の人材育成計画の重要性

ここまで人材育成の現状を見てきたが、「時間がない」、「指導者がいない」を解決するには人材育成の仕組みづくりが必要である。
少子高齢化による人材不足や長時間労働問題など、企業は働き方改革を迫られている。中長期的な人材育成計画を実施し個人の能力を上げ、生産性を向上させること、企業の成長を妨げることなく長時間労働是正やワークライフバランスの確保をしていくことが重要となる。だからこそ、立ち止まる時間をつくり、進むべき道を考え、将来の自社の姿と現状のギャップを埋める方策を立てなければいけないのだ。

冒頭に記した「人材開発支援助成金」の変更にはこうした背景があるのだ。そして、新たな評価軸である生産性は以下の計算式で求められる。



生産性を示すための、雇用保険被保険者“一人当たり”の基準である。
自社にはどのような問題があるのか、状態は良いのか悪いのか、他社はどうなのか……。多くの比較項目を分析することで問題を浮き彫りにし、具体的な解決の糸口を見出すことが大切だ。この指標をもって、確かな計画を立てていく必要がある。

計画の重要性をお伝えするため、松下幸之助氏の著書『道をひらく(PHP研究所)』から「旗を見る」という逸話をご紹介する。射撃の練習で、的にはずれたか否か、旗を振って示してもらうことで、次のねらいを修正するという話だ。
「毎日の働きについても、そのような旗がふられている。見える旗もあるが見えない方が多い。その見えない旗を見極めて、毎日の成果を慎重に検討していくところに仕事の真の成長があり(中略)この見えない旗をよく見極めるだけの心がけをつねに厳しく養え」と松下氏は述べている。

人が育つ会社であるためには、変化への対応ができる人材育成の仕組みをもつこと。的と旗とレジリエンスが重要である。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!