スポーツクラブには様々なフィットネスのクラスがある。 
ある女性インストラクターのヨガのクラスには断トツに男性の参加者が多い。
彼女を“憧れの人”、と呼んでいる、参加者の一人にその魅力を尋ねたところ、意外な答えがかえってきた。
やさしい声に包まれる

“声”はコミュニケーションの重要なツール

彼の答えは、「声がいい。あの優しい声にずーっと包まれていたい」とのこと。さらに、「男はね、ああいう声には、コロッと参っちゃう」であった。
美しくて、優しい対応が人気の秘密かと考えていた私には、想定外の答えだった。

翌日、アンテナの感度をいっぱいに上げて、彼女のクラスに出た。
“包まれていたい声”、はソフトで、やや高めに響き、雑音がない。会場を華やかにする声、と分析した。 感じのよい声、話し方と表現するよりも、いわゆるモテ声と言った方が分り易いだろうか。優しいが、お母さんの子守歌より緊張感がある、色気もある声。ぐっと人の心をつかむ。

この出来事を機に、改めて声に注目した。
“やさしく包まれる声”を判断基準に、周辺チェックをしてみると、家族や友人、職場の人々などの聞きなれているはずの声が新鮮に聞こえるのである。 

さらに世界を広げて聞いてみる。
どのような声が人を魅了するのか。自分はどのような声に魅力を感じるのか、どのような声にしたいのか。著名人達の話し方を“声”にポイントを置いて聞くと非常に参考になる。幸いインターネット上では、オバマ大統領はじめ、国内外の様々な著名人、社会的に多大な影響力を持つ人々のスピーチを聴くことができる。話の内容以外に、姿勢、口の開け方、スピード、声の澄み具合、響き、高い、低い、太い、細いなどの聞き心地、また聴衆の反応に着目すると必ずや発見がある。ドラマのナレーション、映画も参考になる。アナウンサーの正しい声より、生の人間を感じる、様々な色合いをもつ声に耳を傾ける。経営者のイメージ、成功者のイメージ、職業や地位のイメージも声と一体になっている。“らしさ”、の声のイメージが摺り込まれてことを感じる。反対に声から“らしさ”に近づけるという道もある。素材は豊富だ。

最後は自分の番である。自らの声を確認する。“包まれたい声”か、録音して聞いてみる。
最も聞きたくない声だが、これが始まりである。相手は“私の声”を私と一体に捉えて、記憶していくのである。

メラビアンの法則*では第一印象に残る要素の9割は見た目・声だという。 
知ってしまった以上訓練開始である。プライベートでもビジネスでも魅力のある、その人らしい声は、円滑なコミュニケーションを交わす有効なツールである。磨かなくてはもったいない。また、体形や目鼻立ちを変えるのは困難でも、声は訓練のし甲斐がある。何よりも自分の気分がよくなる。 

元気のない時は元気な声を、暗くなりそうな時は明るい声を、頭にきても優しい声を、と自分自身を訓練する。手軽でお金がかからず、効果は大きい。但し、顔を洗うように、基本トレーニングを習慣化する必要がある。できればプロのチェックも受けたい。

ヨガなどフィットネスのインストラクター達の声は音色の違いはあるものの、おしなべて美しい。美声には呼吸法、表情、骨格のストレッチ等が土台であること、レッスン自体が声トレになっていることを、彼女達は身を持って証明している。そして生徒たちを惹きつけなければならない。

教材やボイストレーニングの教室もある。
4年程前、中谷彰宏氏の“あなたのファンをつくる7つのポイント”というセミナーを拝聴したことがある。内容も楽しかったが、何よりも中谷氏の声が印象に残っている。体づくり、ボイトレもしていらっしゃるそうで、彼の声自体に力があり、聴衆を元気にしてしまう。

新人を迎える、異動など新しい人間関係が始まる季節だ。
元気な声に加え、メンタルに支障を抱えやすい現代においては、“やさしい声で包む”感覚も身につけたい。声はコミュニケーションの重要なツール。ワンランク上を行く自分らしい魅力ある“声”を手にいれ、社会人として上手にコントロールできるようになりたいものである。

よい言葉、聞き心地のよい声が健全な職場を醸していく、というアプローチもある。
我が職場の人と組織を包む“声”に耳を澄ましてみてはいかがだろうか。
*メラビアンの法則
視覚・聴覚・言語で矛盾した情報が与えられた時、人がどれを優先して受けとめ、相手の感情や態度を判断するのか、という実験で得られた法則。

実験結果によると、初対面での印象で残るのは、話の内容・言葉遣いは7%、態度・表情は55%、声と調子は38%。
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