地方創生の目玉策?かどうか知らないが、「ふるさと納税」が各地の地方公共団体間で分捕り合戦の様相を呈している。
ふるさと納税は地方創生の妙薬か

ふるさと納税とは?

地方創生のはしりは、1988年から1989年にかけて竹下登内閣で実施された「自ら考え自ら行う地域づくり事業」、別名「ふるさと創生事業」である。普通交付税の不交付団体(財政的に富裕な団体)以外の全市区町村に対し地域振興の名目で、1億円をばら撒いた政策である。「ふるさと創生一億円事業」とも言われる。使途は限定されなかったので、各市区町村は経済対策や観光振興策などに自由に使い切った。笑えるのは、大分県の中津江村(現日田市)。サッカーの日韓ワールドカップに出場したカメルーンのキャンプ地として名をはせた田舎町だ。純金の雌雄の鯛を製作し、雄は2006年に盗難にあったが、雌は2012年に雌雄の購入総額を上回る売価で売却したそうだ。中央集権的な発想に地方は応えることはできなかったが、幸いなことに国の財政が今日のように逼迫した状況ではなかったため、笑い話で終わることとなった。

「ふるさと納税」も、国主導による地方創生の延長線上の施策だ。その根拠は、地方税法にあり、日本国内の任意の地方自治体に寄附することにより、居住地で納めるべき税金のうち2000円を超える分が軽減される仕組となっている。しかも、寄附を受けた地方公共団体から返礼品が贈呈されるため、冒頭の「分捕り合戦」が「返礼品(特産品)贈答合戦」と化しているのだ。「ふるさと納税」をした人も「お得」、寄附を受けた地方公共団体も「収入増」、地元の特産品生産者も「所得増」、といいことずくめのように見える。果たして、バラ色の世界だと言えるのか?

結局はゼロサムゲーム?

2016年6月18日付の日本経済新聞によると、2015年のふるさと納税による寄附金総額は、1652億円にのぼったそうだ。ところが、寄附を受けた地方公共団体は「寄附者への返礼品の調達」に632億円、「返礼品の送料」に42億円、合計674億円もの経費を負担しているという。とりわけ、寄附額が全国最多の宮崎県都城市や長野県飯山市では返礼品の負担額が7割超。42億円の寄附を受けた都城市は肉と焼酎が人気で、返礼品経費は31億円だった。飯山市は寄附額17億円に対して12億円を返礼品に使ったという。何かがおかしい。公的セクターの損得を勘定してみよう。

①寄附を受けた地方公共団体

 →寄附金収入1652億円-返礼品費用674億円=プラス978億円
②寄附者居住の地方公共団体

 →寄附金流出1652億円+地方交付税収入1239億円=マイナス413億円
③国

 →地方交付税支出1239億円=マイナス1239億円
以上を合計すると、マイナス674億円となる。これはどこに消えてしまったのか。
④寄附した人

 →税負担ほぼ変わらず+返礼品受取674億円=プラス674億円

つまり、公的セクター全体で④の寄附者へ674億円を恵与し、①と②の地方公共団体を作り上げているわけだ。

特に、②の寄附者が居住している地方公共団体と③の国の懐事情は深刻だ。ただでさえ社会保障の財源不足に直面しているのに、合計1652億円が出ていってしまう。このマイナスを補うべきは、①の寄附を受けた地方公共団体の978億円を活用した地域活性化策、674億円の謝礼品調達の経済効果や地域経済の発展性、なのであるが、どうも期待できそうにない。④の寄附した人=所得水準の高い高額納税者、の独り勝ちを危惧するのは浅はかなのであろうか。ずる賢い人や高額納税者を優遇する格差拡大を助長する施策に未来の展望はない。英国でEU離脱の国民投票結果となったことや米国の大統領候補にトランプが勝ち上がったこと、いずれも国民の格差の拡大が遠因となっていることを見抜くべきだ。

 総務省は自身のウェブサイトで、ふるさと納税の意義を強調している。曰く、


①納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
   
②生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
   
③自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。



 何とも悠長で呑気な意義である。税金は有限である。限度がある以上、政策にはプライオリティがなければならない。崖っぷちの社会保障と比較しても、それほど優先順位が高い政策とは思えないのだが。今後も「ふるさと納税」を行うのであれば、これらが逆転するような効果の高いものでなければ後悔するだけだろう。何よりも大切なのは、各地方公共団体が、それぞれの地域課題に対して、どう具体的に解決しようとしているのか?そのために、どう財源を確保し、寄附をしてくれる人にどのような貢献をして欲しいのか。それらをわかりやすくメッセージとして打ち出し、施策を継続していくことではないだろうか?そして、返礼は非金銭的報酬であるべきだ。「ふるさと納税」の勝ち組地方公共団体の首長には、「寄附額」の多寡ではなく、地方創生策による地域活性化の成功事例を大いに自慢してもらいたいものである。
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