前回のコラム(平成28年1月18日付)では、「ヒトの行動はコントロールできる!」と題して、行動分析学の「強化」「消去」「弱化」という3つの行動原理を活用した組織のマネジメント手法を紹介した。実践してみれば意外と単純な方法ではあるが、ケースによってはうまく機能しないこともある。今回は、これらの行動原理のスパイスとも言える、効果的なテクニックをいくつか披露しよう。
ヒトの行動をコントロールする“テクニック”

三つのテクニック

一つ目は、「60秒ルール」である。これは、ヒトの行動が「強化」されるか、「消去」されるか、「弱化」されるかは、行動の【直後】に何が起こるかで決まる、というルールである。
【直後】の時間的単位が60秒である。つまり、1秒でも早く行動に反応した方が効果は高まるのである。「強化」の例では、仕事で今月のノルマを達成した社員に「来年は大幅昇給間違いなしだな」などと【直後】に褒めてやれば、ノルマ達成の行動は「強化」されるし、「給料もらっているのだからノルマ達成は当然だ」などと言ってしまえば、その行動を「強化」することはできない。また、「弱化」の例では、規則を破った社員に「そんなことしたら懲戒処分されるぞ」などと【直後】に叱れば、規則を破る行動は「弱化」されるし、忘れた頃に叱れば、その行動はなかなか「弱化」されない。このように、ある行動を制御したいときは、【直後】に適切なリアクションを起こさなければ効果が半減してしまう。

二つ目は、「連続強化と部分強化」である。ある行動のたびに「強化」することを「連続強化」、何回かに一回「強化」することを「部分強化」という。
「連続強化」は行動を早く身に着けさせる効果があり、「部分強化」は行動を維持させる効果がある。下図は、「学習曲線」と「強化」の相関を表しているが、新入社員の指導教育基準として活用できそうである。即ち、入社初期には「連続強化」を使って必要な行動を早く覚えさせ、ある時期からは「部分強化」を使って独り立ちを促すのである。間違った方法として認識しておかなければならないのは、「連続強化」を長期間続けないこと、そして「部分強化」にあたっては「強化」の頻度を急激に下げないこと、である。前者は、いつまでも「連続強化」を続ければ、「強化」されない(褒められない)と自律的に動けない社員に育ってしまう。後者は、いきなり「強化」を止めてしまえば、それが「消去」に転化し、社員の適切な行動がなくなってしまう可能性が出てくる。これらの使い方には注意しておかねばならない。



三つ目は、「トークン」(token)である。これは、「証拠、記念品、代用貨幣、引換券」などと訳されるが、言わば「何らかの価値あるもの(行動)を象徴する代替物」のことである。

例えば、ポーカーのチップ、パチンコの景品は見えないもの(貨幣)を見える化するトークンの一種である。このようなトークンは、ある行動の「強化」の機会を増やし、「強化」そのものを効果的に行う手法として機能する。社員が、「良い仕事」をしたときに、景品と交換可能な○○カード(トークン)を都度配付する、などはその典型的な例である。何もしなければ目には見えない「感謝」や「称賛」を見える化したり、前述の「60秒ルール」を併せて活用することにより、さらに行動を強化することが可能となる。よく知られている事例では、ディズニーランドの「ファイブ・スター・カード」があるが、多くの会社で行われているであろう「サンクス・カード」もトークンによる行動強化対策である。是非、取り組んでみたい。

以上、三つのテクニックを述べてきたが、これら以外にも「ABC(Antecedent Behavior Consequence)分析」「シェイピング」「行動のきっかけとなる刺激」「チェイニング」「ルール支配行動」など、ヒトの行動3原理を制御するテクニックはまだまだある。特に管理職の方々は、今一度自らの行動を振り返り、部下の行動をより良くコントロールしていただきたいものだ。
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