経済のグローバル化や少子高齢化の進展などによって、戦略目的を達成する上で必要な「人材の確保」は最も重要な経営課題となってきた。日本企業の実に83%が人材不足を課題としており、グローバル平均の38%を大きく上回っているのだ(*)。一方、AI(人工知能)の発達やビッグデータアナリティクスなどにより、これまで実現できなかった「サイエンス」の視点を導入した採用や人事マネジメントが可能になってきた。経営環境が大きく変化する中で、人事は成長の源泉となる人材の確保や人事マネジメントにどのように取り組み、どのような方向性を目指していけばいいのだろうか。
第1回 AI時代の採用はどうなるのか
戦略的人的資源管理論を専門とする一橋大学商学研究科教授の守島基博氏と、日本アイ・ビー・エム株式会社でフォーチュン・グローバル500企業の半数以上が採用する人材マネジメントツール「IBM Kenexa(ケネクサ)」を担当する民岡良氏が、人事の課題とテクノロジーを活用したソリューションについて対談した。

*マンパワーグループ調査(2015/6/22)

テクノロジーの進展と今後の人事のあり方

第1回 AI時代の採用はどうなるのか
民岡 守島先生は戦略的人的資源管理論の専門家であり、日米の企業の人事について実践的な研究をされてこられました。そして、かなり早い段階から「人事にはクリエイティビティが求められる」と主張されてきました。昨今、飛躍的にテクノロジーが進化していますが、現代の人事がすべきことは何でしょうか。

守島 人も企業も、環境が変化した時には新しいことを試みることが必要です。日本の人事は過去30年以上、主に工場現場で働く人材の育成と活用をものすごく上手くやってきました。また、そのやり方をホワイトカラーに適用して、新入社員から中堅の育成、活用までは成功しています。そうして足腰の強い組織は作れたけれども、リーダーやトップをつくることが上手くなかったので、組織を率いるリーダーが不足しています。そこがいまの大きな課題だと思っています。

民岡 ビジネス環境がものすごいスピードで変化し続ける昨今、組織に変革をもたらすことの出来る人材や強力なリーダーシップを発揮出来る人材の獲得・育成が必要ですね。そのためには、今こそ人事がクリエイティビティを発揮すべき時ではないでしょうか。一方で、人がクリエイティビティを発揮するためには時間的な余裕や心のゆとりがなければ難しいのではないかと感じます。AI(人工知能)やビッグデータを活用して、頼れるところは頼っていいという環境が整えば、その時間をクリエイティブな仕事に振り向ける素地ができると思うのですが。

守島 そうですね。いま人事に求められるのはデータを活用する「サイエンス、つまり科学」の視点です。「AIが進むと人事はどうなるか」という議論のなかで、「AIなどの優れた技術が利用できれば、人事の仕事を効率化してくれる」という考えがあります。しかし私は、効率化によって生まれた時間を使い、どうクリエイティビティを発揮するか、それを考えるのがより重要だと考えています。さらにその先の段階では、機械と人間がコラボレーションしていくようになるでしょう。ですからこれからは、技術に任せられるところは任せていくことが大切で、本来人事が行うべきクリエイティブな仕事をできない人事担当者は淘汰されていくでしょう。

民岡 昨今「AIが人間の仕事を奪う」とまことしやかに囁かれていますが、確かにクリエイティビティを発揮できない人間からは仕事が奪われる。これはやむをえないと思います。ただし、総論として人間がAIに取って代わられるということには、そう簡単にはならないのではないでしょうか。人材不足がますます深刻化する中、これからは人間が不得意とする作業でAIが得意とする作業はAIに任せ、人間は人間にしかできない「発想力」「創造力」「熱いハート」が求められるような分野で力を発揮することになると考えています。

AIによりビッグデータを採用の意思決定に活かす

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