AIによりビッグデータを採用の意思決定に活かす

第1回 AI時代の採用はどうなるのか
守島 テクノロジーを人事業務に適用するというとき、私は特に採用の分野に興味があります。特に人事が、人と組織・業務を「マッチング」するときに、能力や資格など比較的デジタル化しやすい部分と、「この人と一緒にやっていけるか」というフィーリングや組織が大切にする価値観のすり合わせみたいなものがある。それらをどのように切り分けて、テクノロジーを有効に活用していくかということが重要であると思います。
ただ、現在は人間が両方のマッチングを面接などを通じて行っていることが多く、しかも能力・スキルのマッチングに時間を取られて「フィーリング」のマッチングが十分に行われていない。または、組織の価値観とのマッチングを見ると言いながら、面接者のフィーリングのみの合否になっている。結果として、候補者の価値観や考え方と企業のそれとお擦り合わせができていないことも多いと思われます。
そのあたり、テクノロジーの活用でうまく解決はできないのでしょうか。

民岡 おっしゃるとおり、採用において重要視されているのは能力・スキルの面で、価値観や考え方には及ばない状況が多くあるかと思います。能力やスキルはデジタル化し客観的指標で評価できるものですから、そこに時間をかける必要はなくなります。
「IBM Kenexa(ケネクサ)」では、能力・資格・特性をコンピテンシーと呼び、それぞれの企業が考える「優秀人材」を「コンピテンシー体系」によって客観的に表現します。既存の従業員を対象に実施したアセスメントの結果から「優秀人材」の共通項を割り出し、それをコンピテンシー体系で表現するのです。
共通項の割り出しにAIを活用すれば、より高度な人材モデリングを行うことができます。そうすれば、採用における能力・スキル面の評価は簡素化され、フィーリングや価値観に対する議論に時間をかけることができます。また、採用担当者が変わっても「優秀人材」の定義は変わらず、その担当者の主観、あるいは暗黙知に頼った「職人技」による採用を防ぐこともできるようになります。

守島 「優秀人材」について、既存の従業員や現在社内に居るリーダーなどはある程度科学的に分析できると思うのですが、企業にとって本当に必要なのは、5年後、10年後にリーダーになってくれる人、未来に貢献してくれる人材です。その点は、テクノロジーはどう解決するのですか?

民岡 まずは、先ほどの「コンピテンシー」のデジタル化を進めることが重要だと思います。5年後、10年後のビジネス環境、会社のあるべき姿を見据えて、各ポジションに対してどのようなコンピテンシーが必要かを定義します。
例えば、人事本部長というポジションに対するコンピテンシーが定義されていて、それをもとに、いま備えている能力やスキルと目指すべきところとのギャップを明確化し、そのギャップを埋めるための施策を考え、実行します。既存の従業員に対してもこのような取り組みを行うことで、優秀人材を育成することができると思います。Kenexaでは、ギャップを埋めるための学習や適切なアドバイスを提案します。

守島 まず将来的にどのような人材が欲しいか、どのような人材になって欲しいかということを明確にして、それに向けての道筋をビッグデータに基づいて提案してくれる。しかもそれを勘や経験に頼るのではなくて、客観データに基づいて科学的にやっていこうというイメージですね。

民岡 そのとおりです。一旦定義した「優秀人材」が正しかったのか、その定義に従って採用したり、育成したりした人材は、本当に企業に貢献しているか、人材データを分析して検証する必要があると思います。データ分析というと、ちょっと敷居が高く感じられますが、最近では簡単に使える分析ツールもあります。
Kenexaでは、「自然言語処理」のAIエンジンを搭載した分析ツールがあり、知りたいことをテキストの文章で入力すると、分析したかったデータの相関関係をグラフィカルに提示するだけでなく、「こういった角度で分析すると、こういう結果が出ますよ」という新たな角度での分析結果まで提案してくれます。

守島 そういったツールの活用によって得られたインサイト(洞察)は、確かに意思決定のベースにはなるかもしれません。ただ、気になるのは、人のキャリアは、企業の将来の戦略とか方向性といったものだけで決まるのではない点です。つまり、企業の戦略や方向性をいかにして育成計画に盛り込んでいくかは、コミュニケーションを通じて、育成される側の人がどのような希望を持っているかをいかに理解するかも重要です。そういった意味で、企業の戦略等に基づいた、キャリアに関する予測や計画は完全ではないし、完全ではないからこそ人間のクリエイティビティが必要になってくるわけです。
人の未来と企業の未来をどう組み合わせていくのか、いうなれば、テクノロジーと人間とのインターフェースをどのように提供していくのかという点を企業は知りたがっています。そうした部分が、人間の創造性を活用できるところの一つではないでしょうか。

民岡 テクノロジーと人間のコラボレーションは、弊社が最重要視している部分です。IBMは製品を販売するだけではなく、コンサルティングサービスを併せてご利用いただくことができます。製品をどのように活用すべきか、クライアントごとに異なる問題をひもときながらご提案しております。例えばKenexaの機能により、スキルギャップを埋めるための学習や適切なアドバイスが提案されたとしても、具体的な学習内容や受講順序を一人一人の事情や特性に合うようにきめ細かく調整していくという作業は、今のところ人間にのみ為せる業だと思います。この辺りを経験豊富なコンサルタントがサポートします。

採用とフォローアップの課題を解決するテクノロジー

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