弊社は、2015年度から新中期経営計画をスタートさせました。この5年間は、日本企業が今後世界で勝ち残れるかどうかを決定づける、大事な時期だと考えています。
第7回 Change Acceleration その1
 人材と組織の開発が、企業の変革を加速させる鍵であり、その役割を果たすためには、人事・人材開発部門内だけではなく、トップを巻き込んで社内各部署との連携・連動が必要であり、我々のような外部機関の力も取り込んで、取り組みをスピードアップさせる必要があります。そこで、私たちは「We are Change Accelerators. We are One Team」 という新ビジョンをかかげ、今、日本企業がこの数年で早急にバージョンアップすべき人材と組織の開発領域は3つある、と定義しました。

 この3領域で新しい価値を創造することで、日本企業の進化に貢献していきたいと思っております。

 本稿ではまず、1.Building Stronger Executive Team (強いマネジメントチームを作る)について、その考えるところと、代表的なソリューションをご紹介する機会とさせていただきます。

エグゼクティブリーダーにフォーカスすべき

 この数年、経営トップは失われた20年の後始末を終え、次の成長の種を蒔くべく、果敢に手を打ってきました。大胆な事業ポートフォリオの組み替え、本社のスリム化、原価低減、環境適応、クロスボーダーM&A、新興国市場の開拓、グループ企業の自立化など、多くの難題に矢継ぎ早にチャレンジしてきました。一言で言えば構造改革であり、例えれば、荒れていた田畑をもう一度整備し、その土地に合う種を蒔いたのです。

 これからの経営陣の使命は、これを確実に収穫し、会社を一段上のステージに上げ、さらにその先の成長に向けてイノベーションを起こすことです。

 しかし、世界は時を止めてはくれません。じっくり収穫している暇はないでしょう。おそらく4、5年で勝敗が決まってしまうようなスピード感ではないでしょうか。

 この4、5年で勝敗が決まるとしたら、今、力を発揮しなければならないのは、今、企業の舵を握っているエグゼクティブリーダーなのです。

 また、昨今のコーポレートガバナンス改革もエグゼクティブの最強化を迫っています。日本企業は、成長投資、環境や社会への貢献、株主還元のバランスを高い次元で取るコーポレートガバナンス態勢を、ステークホルダーから明確に求められるようになりました。特に海外投資家が求めてくるのが、グローバルメジャー企業と比較して、相対的に低い利益率を高めることです。

 世界に伍して戦える企業であることを市場に訴えるためには、世界標準の枠組みで戦うことも必要になります。今や企業のエグゼクティブは、自分の事業の売上げやシェアだけを見て頑張る、ということでは務まらない時代になったのです。

 さらにいえば、次のリーダーの枯渇感の問題もあります。これはエグゼクティブが本気で動かなければ、ずっと解決しない問題です。なぜならリーダーはリーダーにしか創れないからです。しかし「リーダーのポジションにはいるが、リーダーを創れない(つまり人を育てられない)リーダー」がいることも事実です。リーダー育成は組織の中のカスケード(小さく連なった「滝」)です。どこかが切れてしまったら、その下に水は流れません。

 人材の育成、特にリーダーの育成ほど重要な使命はありません。

 繰り返しますが、この勝負は4、5年で決まりかねません。今のエグゼクティブリーダーの覚醒を促し、彼ら彼女らの「パフォーマンス向上」と「リーダー育成力の向上」にフォーカスを当てるべきです。

エグゼクティブにこそメンタリングが必要

 エグゼクティブのパフォーマンスとリーダー育成力の向上に直結する有効な施策とは、何でしょうか。企業トップのメッセージにそのヒントを見つけることができます。

「教養番組のような研修ではリーダーは育たない。自分なりに成長戦略を作ってみて、それを叩き合うというやり方。経営戦略本部で他事業の再生計画にアサインさせる。」(日立製作所中西宏明元社長)

「自分の領域の中の後継者をどう育成するか。次世代をどのように充実させるか。一人称で自分の部下をみて育てることが大事。」(資生堂前田新造元社長)

「(会社がうまく回っていると)みんなで分担すれば結果が出る。こうなると人を育成、見抜く場所がなくなってくる。次世代経営者を育てるための社長の重要な役割の1つは、〝アジェンダセッティング〟、つまり会社を大きく変えるような課題を投げかけること。」(コマツ坂根正弘元会長)※「野村マネジメント・スクール創立30周年記念シンポジウム」資料より一部抜粋

 つまり、トップから与えられた大きなテーマを抱え、自ら動いて自らの解をつくって表明し、周囲に叩かれる、という経験を幾度も繰り返し、そのたびに自分の視野を広げ、洞察力を磨き上げていく、というプロセスが大事なのだと思います。さらに、このプロセスが、トップからエグゼクティブへ、エグゼクティブからミドルへ、という2つのレイヤーで起こせているかどうかが、極めて重要なのではないでしょうか。

 こう考えた時、まず思い浮かぶのが、欧米メジャー企業の経営者の育成プロセスです。CEO職は日本企業に比べてかなり若く、50代前半は当たり前で、40代も珍しくありません。彼ら彼女らの多くは30代に事業全体、経営資源全体に責任をもつ経験を有しています。その経験を何度か繰り返して、上にあがっていきます。つまりミニ社長を何度も経験しながら、経営のプロフェッショナルになっていくのです。

 日本企業でもこうしたことが可能になりつつあります。ホールディングス制やカンパニー制は、事業の将来性と収益性を見極める「投資家的機能」を企業内につくったといえます。経営者が株主に鍛えられるのと同じように、各事業の責任者ポジションに就いた者をホールディングスやカンパニーのトップが鍛える構造になっているからです。サバイバルポジションといえます。さらに相次ぐM&Aや、海外地域統括本社の設置、グループ各社の自立経営なども、ポジションの数自体の増加につながっています。経営のプロを育成する土壌が整いつつあるのです。

 では、サバイバルポジションに就いたエグゼクティブリーダーをどうサポートすべきでしょうか。

 そこまで上がってきたエグゼクティブとはいえ、何もサポートがなく本人任せでは、パフォーマンスは十分に上がりません。

 そこで、私たちの提案は、エグゼクティブこそメンタリングを受けるべき、メンターをつけるべき、ということです。優れたリーダーが育つプロセスには、必ずと言っていいほど優れたメンターの存在があります。自分のことは自分ではよく見えません。特に先の見えない不安と闘う毎日を送るエグゼクティブこそ、自分を叱咤激励してくれるメンターの存在が必要なのではないでしょうか。

 弊社では、こうしたエグゼクティブのメンタリングを「戦略メンターExecutive Strategic Mentor(役員・事業トップ層向け戦略メンター)」と呼び、元プロ経営者やコンサルティングファームのパートナー以上の経験を有するプロフェッショナルがマンツーマンでサポートするサービスをスタートさせました。一言でいえば、「プロ経営者を数ヶ月、あなたの上司にしてみませんか?」というサービスです。

 いわゆるエグゼクティブコーチングが、人間性やマインドを主に扱うのに対して、戦略メンターは優れた上司役として、当人の成長とパフォーマンスの向上を適切にサポートすることができます。

 エグゼクティブであっても、これまでの経験の偏りによって抜けている知識領域があります。あるいは急に見る範囲が拡大し、今自分が何がわかっていて、何がわかっていないのか、という整理が必要な場合もあるでしょう。マンツーマンのメンターなら、こうした個々人のニーズにダイレクトに応えることができます。

 そして何より、ストレッチゴール設定のサポートができることが、戦略メンターの真骨頂です。「対前年比何%」ではなく、担当事業や組織のポテンシャルと現在地を冷静に見つめ直し、将来に向けた成長戦略を描き、それを何度も一緒に叩いて磨き上げていくプロセスです。これによって、今のポジションのままでも「修羅場経験」をつくることができます。

 「コーチングには何か物足りなさを感じる。」そんなエグゼクティブにこそ求められているサービスだと思います。

エグゼクティブリーダーにこそ「ワンチーム」が必要

第7回 Change Acceleration その1
 一方で、エグゼクティブが直面する変革は、失敗への恐怖との戦いでもあります。この恐怖心に打ち勝つために、最も重要なものはチームの存在だと思います。

 信頼しあった仲間が一つの目的に向かうと、一人ひとりはよりパワーアップできます。ワンチームになれた時、チームの力は個人の力の総和を超えます。これはエグゼクティブであっても同じです。また、エグゼクティブ達がワンチームになっている状態ほど、メンバーを安心させるものはありません。エグゼクティブのパフォーマンスを高めるもう一つの公式は、強い「ワンチーム」をつくることです。

 そしてワンチームをつくる鍵は「チーム品質の見える化」です。弊社ではエグゼクティブリーダーのチーム力を簡便に診断できるサーベイ「Executive Team Capability Assessment(ETCA)」を開発しました。
第7回 Change Acceleration その1
 例えば、「一体感」は高いのに「多様性」が低いというスコアの場合、仲は良いのですが、健全な批判が起きにくいため、いわゆる〝なあなあ〟なチームになっている可能性があります。あるいは、「推進力」が高いのに「発信力」が弱いと、社内外への説明責任が足りず、曖昧な状態のまま物事が進んでしまうチームになっているかもしれません。

 このように、エグゼクティブチームの状態を見える化し、お互いがそれを意識するだけで、チームの空気ががらりと変わります。エグゼクティブのオフサイトミーティングを行っている組織も多いと思いますが、その前に本サーベイを受けておけば、議論は具体的になり、その後の一人ひとりのアクションにつながるものになります。

 また、このサーベイを定期的に行っていると、自然と質問項目が頭に入り、次第にその項目を意識して行動するようになるという効果もあります。そのため、サーベイはシンプルな設問文で、項目数は20個程度で設計しています。ボードメンバーのチームでも、担当役員と部門長のチーム、あるいは事業部長とマネジャーによるチームでも、いずれのレイヤーでも使える設計となっています。

 この数年で勝負が決まってしまうという危機感をもち、今、エグゼクティブのパフォーマンス発揮を徹底的にサポートすること、そしてワンチームをつくり、ワンカンパニーを実現すること。これが、我々日本企業がグローバルレベルの戦いに勝ち残る第一のポイントだと確信しています。
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