私はこれまで多くの学生の面接をやってきましたが、正直に白状すると面接官としての自信はありません。以前勤めていた会社で採用した学生で、面接時はA評価だった人があまり振るわなかったり、C評価だった人がすごく活躍したりと、本当に面接では分からないなと思います。これは私だけの評価ではなく、他の面接官も同様でした。見た目の優秀かどうかだけでは、その人が会社に入って頑張れるかどうかは分かりません。企業風土との相性もあるし、上司との相性もあるでしょう。
また、適性検査を扱っている某大手企業の元社長が、
「面接や適性テストで人間が分かるなんてことはあり得ない。せいぜい5~10%程度の差でしかないと認識すべきだ。それでも野球の打者で2割5分と3割~3割5分の打率の差は大きいように、確率を高めることの意味はある」
――と昔言われていたことを思い出します。
人は見た目だけでは分かりません。働かせてみないと本当に分からないと思います。面接で人間が見抜けるなどと過信しないように気を付けたいものです。そういう意味では、実際に働く経験をする長期のインターンシップで採用を決める、というアメリカの主要企業の新卒採用方式は見習うべきだと思います。
企業がアピールしたい魅力、学生が重視する魅力のギャップ
さて、話は変わりますが、企業がアピールしたいことが学生から評価されず、学生は違う情報を求めている…ということは多々あります。今回はそのギャップを見て、企業がどうすべきかを考えてみたいと思います。これは、採用ホームページ、入社案内、会社説明会ツールだけのテーマではなく、社員と学生の面談や面接のシーンでも重要なポイントです。学生が求めているものを把握しつつ、学生とのダイレクトなコミュニケーションの中でどのように自社の魅力をアピールするべきか、考えていただく材料を提供したいと思います。昨年末に、企業には「自社でアピールしたい魅力」を、学生には「志望企業を決める際に重視する魅力」を、それぞれ同じ項目でアンケート調査しました。「仕事の魅力」「会社の魅力」「社会的責任の魅力」「雇用の魅力」「採用活動の魅力」の五つの軸で項目を聞いてみました。今回は、その中でも特に重要である「仕事の魅力」と「会社の魅力」に注目してみたいと思います。
「仕事の魅力」について
企業が「仕事の魅力」で最もアピールしたいのは、「若いうちから活躍できる」ことで44%もあります。しかし、学生のほうはというと、文系で9%、理系で8%と非常に大きな差が見られます。企業側がこのギャップを分かった上で、あえて「若いうちから活躍したい」学生を引きつけたいと意図しているとも言えますが、これほどギャップが大きいと、訴求対象が限られてしまう可能性もあります。「面白法人カヤック」という会社があります。社名自体がすでに面白いのですが、「たのしくはたらく」をモットーとし、実にさまざまな工夫で仕事を楽しもうとしているのが、会社ホームページを見ていると伝わってきます。また、採用活動自体が実に面白そうなのです。「事前合格可能性判定」「世界最速!3秒エントリー!ワンクリック採用」「自己PR不要!志望動機不要!卒業制作の作品をエントリーシート代わりにして選考を行う」「全国を回るバスの中で会社説明会を行う、旅する会社説明会」など、採用という仕事を楽しんでやっていることがよく分かります。一見するとふざけているようですが、私から見ると本当によく学生のことを考えています。学生の楽しい仕事がしたいというニーズにもマッチしており、優れた採用広報の見本とも言えます。
ただ、一般の企業にこのまねをしたほうがいいと言うつもりは全くありません。そうそう面白い仕事というのはないでしょう。逆に、仕事の厳しさを徹底して前面に出し、そのような中でこそプロが育つのだと、ガツンとアピールすることも「あり」です。要は、「楽しい仕事がしたい」という学生のニーズを把握した上で、どのようなスタンスで臨むか、を会社と社員が共有して採用活動に臨むことが大切だということです。
「会社の魅力」について
企業側で最もアピールしたい「会社の魅力」は「技術力」で35%となっています。回答企業のベースとなるHRプロ会員企業の約3割が製造業、2割が通信・IT業であり、それらの企業が技術力をよりアピールしていることは間違いありません。一方で学生のほうを見ると、文系で「技術力」が魅力と答えたのが4%なのは仕方ないとして、理系でもその割合は23%、1位ではなく3位(2位とほぼ同数)にとどまっています。文系・理系ともに1位は「経営者・ビジョンに共感」で、それぞれ49%、33%となっています。しかし、得てしてそのようなB to Bの製造業では“トップの顔”が見えにくく、会社としてビジョンを伝えることがあまりうまくないところが多いように感じます。世界的な技術を持ち、収益性の高いビジネスモデルを持っているメーカーが、こと新卒採用については非常に苦労をしているという話はよく聞きます。採用プロモーションや学生とのダイレクトなコミュニケーションの中で、いかに経営者が採用活動に積極的に参加できるか、また採用に関わる社員が自然にビジョンについて語れるかチェックしてみてください。
「その他の魅力」について
「社会的責任の魅力」については、企業、学生ともに「事業自体が社会貢献」が最も高いことで共通しています。また、企業側では「女性活用の姿勢が強い」が6%であるのに対して、学生は文系で21%、理系で14%と高く出ており、ギャップが見られます。- 1