3.想起される日本型人材マネジメント -新たなチャレンジ-
横串調整型人材要件を満たすためには、自社における一定の勤務経験が所与の条件となる。外部から採用したとしても、要件を満たすためには一定の時間が必要となるだろう。長期勤続を実現し、評価制度・育成(登用・配置含む)を通じて上記要件を満たす人材を確保するというのが、初期的な取り組みになる。評価制度は社員を方向付け、動機付けるためのツールである。ゆえに評価項目に要件獲得に繋がる項目を設定し、評価サイクルをまわしていく中で、あるべき姿と実態のギャップを埋めるための育成施策を講じるという取り組みである。人材要件を鑑みると評価すべき項目例として以下が考えられる。
1短期的成果ではなく、事業拡大計画の質/中長期の成果
2定量的な業績ではなく、定性的な貢献度及び熱意・社内対人関係
3想定される重点課題ではなく、都度発生する重大問題への対応・解決
4社内キーパーソンとの関係構築等、行動・スキル重視 etc.
育成は、定型的、かつ、一般化されたスキルより、経験を通じて向上するスキルの保有が求められるため徒弟的なOJT及び全体目線の修得、自社の理解、社内人脈構築を促進するためのローテーションが主体となるであろう。
さて、ここまで書いてお気付きの方もいらっしゃるであろうか。横串調整型人材の要件と確保するための施策は、実に日本型人材マネジメント―その定義については議論の余地はあるが―を想起させる。
中国人材は離職率が相対的に高く、1つの会社で通用する経験・スキルより外部市場で価値となる経験・スキルに対して関心が高かった。ゆえに上記のような評価項目や育成は親和性が低く、明確な指揮命令系統・階層構造から導かれる職務を基準とした人材マネジメントの展開がこれまで中国における日系企業のチャレンジであった。
しかし、最近は中国労働市場も変化し、長期雇用、ローテーションも施策次第では実現可能になりつつある。中国において長期雇用を前提とし、グループ全体からの貢献期待に応えるためにも、中国人材による横串調整型人材の確保も本気で考える時期に来ているかもしれない。
もちろん中国は日本ではない。そして、中国人材全員が横串調整型人材になる必要はない。既に職務基準の人事制度が導入されている場合は、既存制度との整合性・バランスをとる必要もある。また、横串調整型人材といっても中国においては評価コミュニケーションやキャリアパスの提示が日本以上に重要なことに変わりない。中国で日本型人材マネジメントを展開する難しさは存在する。ただし、これまで以上に市場攻略・グループへの貢献が求められている中国だからこそ、新たなチャレンジとして、日本型人材マネジメントを通じた横串調整型人材の確保に挑んでみる価値があるのではないか。