マネジメント研修を受講したマネジャーの皆様の感想を聞くと、「普段、メンバーに自分の思いを伝えていなかった・・・。これから必ず思いを伝えたい」という人が大勢います。研修の中で、年度初めの面談のトレーニングなどをするのですが、
「今年は、上から~といった目標が降りてきている・・」
「方針が~だから、○○をやらなくてはいけない」
「あなたはもう10年目なんだから、1億はやってもらわないと困る」
といったセリフが次々とできます。
  言っていることが間違っているわけではありません。
トレーニングでメンバー役をやっている人も、「は、はい・・」と特に言い返すこともなく聞いている。
 しかし、何かが足りない・・・。そう、上司自信が自分の「思い」を語っていないということが多いのです。
「上から降りてきている」「~をやらないといけない」というのは、「思い」ではなく、「やるべきことを伝えている」だけです。「思い」というのは、自分の意思です。


「私は~をやりたい」
「チームを~のような状態にしたい」
「あなたに~を実現してもらいたい」

という自分ならではの意思を、熱意を、込めて語ることです。


 メンバーにとって上司は大切な存在です。「この人についていってよいかどうか」と常にじっくり観察をしています。
 上司に意思がなく、上から言われたことをそのままやっている、メンバーがやっていることに興味がなく、ミスしそうになったときだけ口を出してる・・・。
そのような状況ですと、「この上司は、何も考えていない」「チームに対して責任を感じていない」という評価を下されてしまいます。

 
 一方で、「今年の全社方針は、新市場の開拓だ。うちの支店のエリアには、まだまだ多くの未開拓企業がある。特に製造業が多いのが特徴だ。
今年は、製造業にターゲットを絞って徹底的に新市場を開拓するぞ!」と熱い口調で思いを語る人がいます。迫力に「え?」と感じることもありますが、「上司は本気だ、我々も本気でやるぞ!」とメンバーの心に火がつきやすいのは間違いありません。


特に、「竹下、あなたには今年何としても1億達成してもらいたい。
それが、私の今年の目標の一つだ。そうして、来年度は正式にこの支店のNo.2としてリーダーになってもらいたいんだ」とメンバーへの思いを語ることは特に大切です。
 普段、仕事上のコミュニケーションを図っていても、「上司が自分のことをどのように思っているのか」は、なかなか分かりません。
思いが伝わらないと、メンバーが必要以上に上司の顔色をうかがうようになり、仕事に身が入らなくなることさえあります。
 時には、「一生懸命やっているのに、評価されていない」とふてくされる
メンバーさえ出てきます。


 そんな時、「とんでもない奴だ」と非難する上司がいますが、往々にしてそのメンバーに対する「上司の思い」が伝わっていなかったケースが多いのです。

 ただ、多くの上司は「私の思いはメンバーに伝わっている」と思い込んでいます。
しかし、1対1の場面で、メンバーに対する「思い」を「熱く」伝えていない限り、実際には思いは十分に伝わっていないと思ってください。
 また、一度伝えた思いはだんだん薄れます。少なくとも、4半期に1回程度は改めて思いを伝える場面を設けるのが理想です。


思いを伝える場面として、最初に考えられるのが「年度初めの個人対話」です。
今は、年間の目標や計画を決めるために、面談を義務付けている企業が多いようです。
しかし、この面談において、「じゃあ、書いてきたシート見せて。えっと、目標は・・・ダメじゃないか、○○が抜けてるよ。○○を付け加えておいて。あとは、大丈夫だな。じゃ、これでいいか」といった程度の軽い面談で済ませているケースも多いのが現実・・・。


 まずは、上司として自分の部門やチームの方針(今年のかける思い)を「熱く」語り、メンバーから質問をもらって、理解を促進します。
その上で、「この方針を実現するために、何が必要だと思う?少し一緒に考えてくれ」と、一緒に考える時間を設けます。
 この「一緒に考える時間」が、思いを浸透させるためには欠かせません。
私たち上司が話した方針を、ただ聞いているだけでは「理解」に止まります。
心に浸透させるためには、一緒に「ああでもない、こうでもない」と話し合うことが必須です。
話し合っているうちに、メンバーは「どうすれば、この方針を実現できるのだろう?」と考え始めます。
一度、「どうすれば・・・」と自分事として考えれば、最初のステップはクリア。
私たち上司の思いが、心に浸透し始めた証拠です。


ただ、個人面談でメンバーの心に浸透し始めた思いも、日数が経てば徐々に薄れていってしまいます。
そこで、私たち上司がやることは「繰り返しトーク」と「見える化」です。


 「繰り返しトーク」とは、読んで字のごとく、繰り返し話すということです。
例えば、朝礼の場で、例えば会議の場で、毎回のように「思い」を話し続けます。
メンバーが「また、同じこと話してるよ」とあきれるくらいでちょうどいい。
何度も何度もしつこく話し続けることで、少なくとも「上司は本気だ」「いつもこのことを考えているのだ」ということを分かってもらえます。
 また、「しつこいな・・」と感じるくらい話して、人間は初めて頭の中に常に意識するようになるものです。


 「見える化」は、いつも思いが見えるように視覚化しておくということです。
最近は、自分のノートパソコンのデスクトップに、今期の目標と方針を貼り付けている人も多く見かけます。
一番簡単な方法は、紙にプリントアウトして職場の壁に貼っておくことでしょう。
できれば、「今年は、○○を達成するぞ!」など、勢いのある言葉に直して表現することが理想です。
 これも、古典的なやり方ではありますが、頭に焼き付けるという意味では大変効果的ですね。


 思いを伝えて、メンバーの心に常に火をともし続けるためには、私たち上司自身が燃え続けていることを伝えることが大切です。
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