厚生労働省が発表した2022(令和4)年度のパワーハラスメント(以下、パワハラ)に関する調査によると、雇用管理の実態把握が行われた企業のうち、何らかの法違反が確認された企業が約半数を占めました。パワハラは、企業の対応のまずさから訴訟に発展するケースも少なくありません。今回は、従業員からパワハラの相談があった際、企業はどのように対応していくべきなのかお話していくことにしましょう。
企業の「パワハラ対応」は早すぎても遅すぎてもに訴訟リスクが。その理由と対処法は?

企業はパワハラに対してどのような対応をしなければならないのか

パワハラに関しては、「労働施策総合推進法」(以下、「パワハラ防止法」と呼ぶ)により、企業は「雇用管理措置義務」と呼ばれる対応をしていく必要があります。

まず、就業規則等により、企業は「どういった行為がパワハラに該当するのか」を示します。そして「パワハラを行ってはならない」という方針を明確にし、“職場内でのパワハラを許さない”という姿勢を示す必要があります。それを従業員に周知をすることで、企業のパワハラに対する姿勢を理解してもらい、相談窓口を設置してパワハラに関する相談の受け入れ態勢を整備します。

もし、従業員からパワハラに関する相談があった場合は、事実関係を迅速かつ正確に調査をしていくことになります。調査の結果、パワハラの事実が判明しなかったとしても、再発防止策を講じるところまで措置を求められます。万が一、パワハラの事実が確認できた場合は、行為者と被害者を引き離すなどの配慮をすると同時に、行為者に対しては、就業規則に則った処分を検討することになります。

ここで大切なのは、「パワハラへの対応が早すぎても遅すぎても、企業にリスクが生じる」ということです。それは一体どういうことなのでしょうか。

パワハラ対応が早すぎる場合:聞き取り不十分の処分で行為者が不服を申し立てる

パワハラへの対応は、慎重に行う必要があります。そのため、拙速な対応をしてしまうと、行為者とされる従業員からの訴訟リスクが生じるのです。

たとえば、企業は、従業員に対して安全配慮義務(「労働契約法」第5条)がありますから、パワハラの行為者を職場から排除する目的で解雇を通告することがあります。ですが、行為者自身に「パワハラを行った」という自覚がなかった場合、不当解雇であると主張する可能性があるのです。したがって、パワハラの調査を行う際は、行為者とされる従業員の言い分もきちんと聞く機会を設けることが大切です。

次に、「行為者の言動がパワハラであったかどうか」の判断をするわけですが、仮にパワハラと認められなかったとしても、「行為者の言動が、受取側によってはパワハラであると認識される可能性がある」ということを、行為者に対して指導することが重要です。

一方、行為者の言動をパワハラであると認定した場合は、就業規則に則った懲戒処分を検討する段階に入ります。ですが、いきなり重い処分を行為者に課すことは、行為者の反発を招く可能性がありますので、戒告や訓告などの処分から検討することになるでしょう。それでもなお、行為者に反省の色が見られず、同じことを繰り返すようであれば、重い処分へ移行していくことになると思われます。

このようなことから、パワハラ行為者に対しては、拙速に動かないよう慎重に対応するようにしましょう。

パワハラ対応が遅すぎる場合:判断を待つ被害者が不安に陥る

反面、あまりに慎重な対応は、被害者が不満や不安を募らせることになります。

パワハラの相談があった場合、「パワハラ防止法」では迅速かつ適切な対応が求められています。これは、先ほども述べた通り、企業には従業員に対する安全配慮義務があるからです。そのため、調査や認定に時間をかけすぎると、今度は被害者から訴訟を起こされる可能性が出てきます。実際に、「調査の結論を回答するまでに8ヵ月余りが経過していたのは、安全配慮義務を負っている企業側の債務不履行である」と判断され、企業に損害賠償の支払が命じられた判例もあります。

被害者の立場からしてみれば、企業には早く判断してほしいはずです。もし、事案が複雑でどうしても時間が必要な場合は、経過を定期的に連絡するなどして、被害者の不安を和らげる対策を講じるべきでしょう。

いかがでしょうか。パワハラは人間関係に関わる問題ですので、行為者、被害者ともに「感情」が大きい要素を占めています。企業としては、中立の立場でパワハラへの対応を進めていくことが大切であるとともに、行為者・被害者双方への配慮も、企業のリスク回避のための重要な課題となります。

したがって、企業だけで対応を進めていくのが難しい場合は、人事労務の専門家である社会保険労務士へご相談されてみてはいかがでしょうか。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!