退職予定の社員から、本当の退職理由をはじめとする「職場や仕事に対する本音」をヒアリングする「退職者のケア」。2024年1月8日付コラム『退職者のケアのすすめ』第3回では、中堅社員やミドル社員が退職をする場合の「退職者のケア」のポイントを整理した。シリーズ最終回となる今回は、高齢社員・シニア社員のケースについて考察してみよう。

退職を決意した「高齢社員」や「シニア社員」が若い社員には言えないセンシティブな本音【退職者のケアのすすめ:第4回/全4回】

高齢社員にありがちな「体力的にきつい」という退職理由

高齢社員やシニア社員が退職を申し出る場合、典型的な理由の一つは「体力的にきつい」というものだろう。若い頃と同じタイムスケジュールで勤務を続けたくても、体がついていかないというのだ。

年齢の高い社員がいかにも申し出そうな理由であり、体力面の問題が退職のきっかけになるケースは少なくないだろう。しかしながら、“本当の退職理由”が別に存在するケースも多いので、しっかりとヒアリングを行うことが必要である。

ただし、高齢社員やシニア社員の“本当の退職理由”を知るには、退職する人材の年齢に近いヒアリング担当者を選任することが大切である。高齢社員が若年の人事担当者に“本当の退職理由”を告げるのは、容易ではないからだ。

高齢社員から見れば、20代の社員は自身の孫子(まごこ)ほどの年齢である。そのような若者に対して、高齢社員が自身の胸の内をさらけ出すのは「ばつが悪い」「恥ずかしい」などの思いから困難だ。同年代の社員・年齢の近い社員がヒアリング担当者であれば、話しづらいことも話せる場合が少なくないものである。

本当の理由は「トイレが我慢できない」だった高齢社員のケース

実例を紹介しよう。とある企業で高齢社員が体力的な問題から退職を申し出た。ところが、辛抱強くヒアリングを実施したところ、ようやく“本当の退職理由”を聞き出すことができた。本当の理由は「研修中にトイレを我慢できなくなることがあるから」であった。

その企業では業務品質向上のため、座学形式の研修が頻繁に行われていた。その研修時間中にトイレに行きたくなることが少なくないというのである。もちろん、研修時間が取り立てて長いわけではない。研修時間の途中には休憩時間も欠かさず設けられている。

ところが、休憩時間にトイレに行っても、年齢のせいかしばらくするとまた行きたくなることがあり、研修の終了まで我慢することが大変だった。失禁しそうになったこともあったため、やむを得ず退職を決意したのである。

年齢が高くなると、それまでは想像もしなかった心身の変化に戸惑うことがある。自身の努力では解決できない体の悩みを抱えるケースも少なくない。

しかしながら、若年社員はこのような状況に実感が湧きづらい。そのため、仮にこのような問題を“本当の退職理由”として聞き取れたとしても、事の重大さを理解するところまでには至らないものである。

一方、年齢の近い社員の場合にはこのような話は自身の身に置き換え、共感を持ってヒアリングを行うことが可能である。退職予定の高齢社員も、若者に対しては恥ずかしくて言えないような問題でも、年齢の近い社員であれば話しやすいものだ。

なお、前述の企業はこの件を契機に研修の所要時間や運用方法、カリキュラムの見直しを実施し、高齢社員が安心して研修を受けられる環境整備を行っているところである。

ぜひ確認したい「年下の上司」の対応

高齢社員やシニア社員の退職では、「職場の上席者の態度が気に入らないから」という点が“本当の退職理由”になることがある。

現在、多くの職場で社内でのポジションと実年齢の関係とが逆転をしがちである。年齢が上の社員が必ずしも職場で上席者の立場にあるとは限らず、多くの職場に「年下の上司」と「年上の部下」という関係が存在する。高齢社員が勤務する職場ではこのような関係性が生まれやすいため、高齢社員に対する「年下の上司」の対応に問題があるケースも少なくない。

「年下の上司」の中には「自分が上司である」「相手になめられたくない」などの思いから、高齢社員に次のような態度をとるケースも見られる。

●偉そうに振る舞う。
●見下したような態度をとる。
●命令口調で話す。
●友達言葉(いわゆる“ため口”)になる。
●横柄になる。


「年下の上司」のこのような態度を高齢社員が快く思うはずもなく、堪えきれずに退職を決意することがあるものだ。このようなケースでは、当該上席者に対して「年上の部下」に対するマネジメントスキル教育などを実施する必要があるため、「年下の上司」の対応に関する情報はぜひとも収集したいものである。

高齢社員自身が職場のトラブルメーカーになっていることも

ただし、高齢社員から「職場の上席者の態度が気に入らないから」という退職理由が聞き取れた場合に、一方的に「年下の上司」側に問題があると早合点しないようにしたい。高齢社員が自身の好ましくない言動について「年下の上司」から指導を受けており、そのことに対して逆恨みのような心理状態に陥っているケースもあるからだ。このような現象は、年齢が高くなってから採用された中途採用の高齢社員に見られることが多いようである。

例えば、中途採用の高齢社員の中には、職場で次のような言動をとるケースがある。

●採用直後から、新しい職場の業務の進め方に異議を唱える。
●一般社員として採用されたのに、他の一般社員に対して上司のような言動をとる。
●自分よりも「年下の上司」、「年下の先輩」の指示に素直に従わない。
●男性社員の指示には従うが、女性社員の指示には素直に従わない。
●「年下の上司」、「年下の先輩」に対し、丁寧な言葉遣いで話せない。


そのため、高齢社員から「職場の上席者の態度が気に入らないから」との退職理由が聞き取れた場合には、当該上席者や職場の他のメンバーにもヒアリングを行い、職場での高齢社員の言動も確認が必要である。

その結果、問題を抱えているのは高齢社員の側であると判断できた場合には、退職する高齢社員が次の職場ではトラブルメーカーにならないよう、「新しい職場でとるべき好ましい言動」についてアドバイスをするのも本人の今後に役立つであろう。
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