2022年(令和4年)4⽉から改正⼥性活躍推進法が全⾯施⾏され「多様な人材が活躍できる職場環境」を作る取り組みが各企業で進められています。人的資本経営における「非財務情報」のうち、DE&I項目の女性活躍推進の進展度は社会的責任という観点から企業を見る上で注目される要素です。しかしながら、日本では働く場⾯、特に管理的⽴場にある⼥性の割合は国際的に⾒ても低いのが実状です。
DE&Iを表す「非財務情報」――日本で女性活躍推進が進みにくい理由は“ロールモデルの不在”

「社内出身の女性取締役」の比率がその会社の「本心」

私が独立前、最後に経理部長としてIPO(株式上場)をさせていただいた会社の社長は女性でした。その社長のSNSを見ていると、「正月に経営者の方達が集う賀詞交換会に参加しても、いつもほぼ男性ばかりで、女性活躍はまだまだ遠いな………」ということを嘆かれています。ここ数年、コロナ禍で賀詞交歓会は自粛していたでしょうが、来年くらいからはまた各所で再開されると思います。賀詞交歓会での女性比率は、女性活躍がどの程度進んだかのバローメーターになることは間違いありません。なぜなら、いくら一般社員や管理職や執行役員に女性比率が増えていても、登記簿謄本に登録される「取締役」は、性別に関係なく、特に大企業であればあるほどそう簡単になれるものではありません。そこに女性が登用されてこそ、はじめてその会社の「本気度」が見えるのだと思います。

現在、「社外取締役」や「社外監査役」に女性を登用する企業は上場企業でも多くなってきています。その中に「社内の社員から登用された女性が一人でもいるのか、それとも一人もいないのか」というポイントも同様に会社の女性活躍に対する「本心」が透けて見える部分だと思います。リベラルな社風であると表面上見せていても、取締役が十人いて、社内から登用された女性の取締役が一人もいなければ、やはりまだ「道半ば」なのだと思います。

ただ、理系の学生はまだまだ男性の比率が高いという現実や、製造業のように単純に男女比の役員比率を50%:50%にすることは困難な業界もあります。そのような実態を踏まえると、非財務情報で開示される数字の大小だけではどこまで女性活躍が進んでいるかということは単純比較できない側面は出てきます。しかし、男女比が100%:0%、つまり「一人も女性がいない」というような開示項目があると、そこはクローズアップされざるを得ないでしょう。「本心では女性を重要ポストに登用したがらない会社」という印象を持たれてしまう懸念はあると思います。

男性中心では気づきにくい「女性社員のためのロールモデル」の視点

このように女性活躍は経営陣側の対応が大前提にはありますが、女性従業員の立場からも「将来は管理職や役員を目指したい」と立候補するような人材を育てていくことも大切だと思います。ある大企業の女性管理職の方達にインタビューをさせていただいたときに、「私たちの世代はロールモデルとなる女性上司がいませんでした」ということを皆共通しておっしゃっていました。

ある方は、「尊敬できる上司はたくさんいます。ただ全員男性なので、目標にはしていますが、私は女性なので、ロールモデルにはなり得ないところもある」とおっしゃっていました。また別の方は「女性上司はいましたが、とても真似できないような激務の勤務体系でしたので、その方をロールモデルとすることはできず、“自分自身がロールモデルになる”という信念を持ってやってきました」とおっしゃっていました。

その時に私は、男性の場合は自動的に「尊敬できる上司=同性=ロールモデル」となる確率が非常に高い環境が多いので、「こういう先輩や上司みたいに将来活躍したい」と、具体的に頭の中でスムーズに描くことは容易ですが、女性の場合はそれが容易ではなかったのだな、と今さらながら気付かされました。「具体的な目標が描けるか」というのは、非常に重要だと思います。インタビューさせて頂いた方達は皆さん40代で、おそらく今後はその世代を中心に取締役になる方が多数出てくることでしょう。そうなると、今後はそのロールモデルを目にした次世代の女性社員が、目標や将来像をより描けることができるようになり、道筋も整ってくるのではないかと思います。

外部人材がスムーズに活躍できる仕組み作りやマインドセットの切り替えを

ただ、ロールモデルとなる女性管理職が今全くいない、育ててこなかった会社の場合はどうしたらいいでしょうか。その場合は「キャリア採用(中途採用)」が良いと思います。現在は社外取締役や社外監査役に女性を登用する動きが大企業を中心に目立ちます。同様に管理職などもキャリア採用で登用することで、若手女性社員から見た「ロールモデル」を重点的に配置することができると思います。

ただし、大企業のキャリア採用に関しては注意点があります。それは、「当社のやり方にまずは全て合わせてください」という指導をしてしまうと女性活躍は進みにくい、という点です。ベンチャー企業などの場合は、経営者がキャリア採用された人に対して、「当社を見渡してみて、改善点があったらどんどん提案して直してくださいね」というスタンスで採用することがほとんどですし、外部から入る人にはむしろその役割を期待しています。キャリア採用で入社した女性こそ女性活躍を促進する提案をすれば、提案が受け入れられやすい環境も多いと思います。

一方で大企業の場合はキャリア採用で入社した人は、変革をするより「まずうちのやり方やルールを覚えてほしい」というところがほとんどでしょう。そのため、キャリア採用の女性が女性活躍の促進のための提案をしても、「入ったばかりなので、やり方を覚えてから提案したら?」など、「社内政治」に時間をとられてしまうことが予想されます。実際に、そこで疲弊してしまいって、結局、「性別関係なく普通に活躍できる」非大企業に転職していってしまうケースもあります。

大企業の場合、生え抜きの正社員重視でキャリア採用やフリーランス、業務委託の人材を社内の組織に取り入れたがらない思想の会社もまだまだ多いですが、非財務情報の女性活躍の数字が他社より良くない場合は、その理由が「社内の思想」からくるものなので、社内人材だけでその数値を早期に改善していくのは現実的に困難です。そのような場合は社外の目線を持つコンサルタントなどの専門家に相談をして、その会社の「思想」を改めて検証し、軌道修正をしながら非財務情報の数字を改善していただくと良いと思います。
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