「今年の10月から共済年金が厚生年金に統合される」という話をご存知だろうか。これを『年金一元化』という。年金制度が一元化されることは、3年前の平成24年8月に決定しており、いよいよこの10月からスタートとなる。ところで、『年金一元化』は民間企業にも何か影響があるのだろうか。
高齢社員の雇用時に気を付けたい『年金一元化』の影響

『年金一元化』により“年金調整ルール”が変わる?

わが国の年金制度では、全国民が加入を義務付けられる「国民年金」と、民間企業で勤務する場合に加入を義務付けられる「厚生年金」の2つの制度への加入を求められる。また、公務員の場合には「国民年金」と「共済年金」の2つの制度に加入をすることが求められている。このように、民間企業の社員であるか、公務員であるかによって加入する年金制度が異なるのが、わが国の年金制度の仕組みである。

しかしながら、民間企業の「厚生年金」と公務員の「共済年金」の制度内容を比べると、同じ“国の年金制度”であるにもかかわらず「共済年金」のほうが有利な点が多いという特徴がある。そのため、公平性に欠ける点が以前から問題視されていた。

そこで、働いている組織・立場によって加入制度が異なる仕組みを改善し、雇われて働いているのであれば等しく同じ制度に加入し、受け取れるものも同じにしようというのが『年金一元化』の趣旨である。具体的には、公務員の「共済年金」が民間企業の「厚生年金」に統合されるため、9月まで「共済年金」に加入していた公務員は、この10月からは民間企業に勤務する人と同様に「厚生年金」に加入をすることになる。

 このような説明を耳にすると、「公務員の年金が民間企業の年金に統合されるのだから、民間企業側は特に影響を受けないのでは」と考える人もいるようだが、必ずしもそうではない。公務員として働いていた期間がある高齢の人を雇用する場合には、一元化の影響を被ることがあるので注意が必要である。『年金一元化』により、年金を受け取りながら勤務をする場合の“年金調整ルール”が変わるためである。

寝耳に水の年金カット!

わが国の年金制度では、民間企業で働いて厚生年金に加入している場合には、年金額を減らすという仕組みが用意されている(詳細は平成27年5月29日付HRプロニュース「高齢社員の在職老齢年金はこう計算する」を参照)。具体的には、「年金の1ヵ月分」「給料の1ヵ月分」「過去1年間に受け取ったボーナスを12で割った額」の3つの金額を足し、基準となる額を超えると年金の減額が行われる。この基準額は65歳未満の場合には「28万円」と決まっている。

 ただし、公務員としての勤務経験のある人が「“共済年金”を受け取りながら民間企業で勤務」している場合、年金を減額するかどうかを判断する規準額は、この9月までは「47万円」が採用されている(65歳未満の場合)。「“厚生年金”を受け取りながら働いている」場合は、「28万円」を超えれば年金が減るのに対し、「“共済年金”を受け取りながら民間企業で働いている」場合は、「47万円」を超えるまでは年金が減額されないわけである。つまり、公務員経験者が民間企業に再就職をした場合には、65歳未満であれば、民間企業一筋で働いてきた人よりも“年金が減りづらいので有利”というのが従来の仕組みである。

 しかしながら、『年金一元化』により公務員の「共済年金」は民間企業の「厚生年金」に統合され、それに伴い「共済年金」のほうが有利だった仕組みは、10月からは原則として「厚生年金」側のルールに合わされることになる。先ほどのケースも、65歳未満の人が「“共済年金”を受け取りながら民間企業で働く」場合、「“厚生年金”を受け取りながら働く」場合と同様に「28万円」を超えれば年金のカットが始まることになる。

 ですから『年金一元化』後は、公務員経験がある場合は民間企業で勤務していても満額をもらえていた“共済年金”が減額される、という事態に陥る可能性がある。年金の減額を緩やかにするための激変緩和措置も用意されてはいるが、公務員経験がある民間企業社員にとっては、まさに“寝耳に水の年金カット”になる。また、私立学校の教職員が加入する「共済年金」もあるので、私立学校での勤務経験がある民間企業社員にも同様の事態が起こり得る。

年金のカットを嫌った高齢社員が、勤務条件の変更を求めるケースも出てくるであろう。混乱を避けるためには、従業員のプロフィールをよく確認し、該当者に対して丁寧な説明を行うことが大切である。

コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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