労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか《下》

メンタルヘルス不調や過労死により、労働者や遺族から損害賠償請求を受けた時は、早期に過労死の原因を調査することが重要だ。前回は、「信頼」を基礎とした対応をすることを再三強調したが、原因究明に基づく的確な初動こそ、誠実な対応と言える。そうした初動 が遅れると、「二次クレーム」が 発生する恐れがある。労働者側の請求に理由があれば、企業としては陳謝し、示談の申し入れをすることになる。争う事案であっても、裁判への影響を考慮し、方針を慎重に検討することが望ましい。

労働者側請求対応における初動の重要性

労働者や遺族が損害賠償請求をしてきたとき、これを放置していても解決するわけではない。消極的な対応姿勢が労働者側に伝わると、企業の対応の不満に起因する「二次クレーム」が発生し、裁判に発展する可能性が高まる。

そのため、人事労務担当者としては、積極的に労働者側からの請求と向き合わなければならない。そうでないと 、労働者側の真意を測ることができなくなる。真意や事実の認識に誤りがあると、解決方針を見誤るばかりでなく、適時に対応することができず、結果的に労働者側の不満が増大することになる。

初動において、労働者側の真意を汲み取りつつ、早期に事実の確認、病気や死亡の原因に関する調査を開始すべきである。そして調査の結果が出たら、労働者側に対して早期に報告すべきだ。この時、決して事実の隠蔽や虚偽報告をしてはならない。

特に、労働者が死亡した場合、その遺族は計り知れない精神的な苦痛とともに、何が原因であったのかを知りたいという気持ちが強い。にも関わらず、調査拒否をすると感情悪化につながるし、調査をしても不十分な結果では、当然、遺族の不満を増幅させ ることになるだろう 。

万が一、初期対応が遅れたのであれば、陳謝することを躊躇しないほうほうがよい。陳謝したからといって法的な責任が直ちに発生するわけではないので、陳謝すべき内容を明確にした上で潔く陳謝したほうが、被害者感情が和らぎ、解決に結びつくことがある。

適切な対応をすれば、いつかは解決することができる。初動が遅れると、何より解決に時間がかかることになるし、対応の遅延自体が二次クレームとなる恐れがある。これらの ことを念頭に置いて対応することが肝要だ。

労働者側請求対応の解決方針

事実調査の結果、メンタルヘルス不調や過労死が業務によるストレスに起因するのであれば、労働者や遺族の損害賠償請求には正当な理由があったことになるので、企業としては陳謝することになる。逆に、労働者側の請求に理由がないと判明したのであれば、裁判で争うことになるだろう。

いずれにせよ「陳謝する事案」か、それとも「争う事案」かという企業責任の有無を決めなくてはならない。調査結果が判明したら、労働者側の心情を理解しつつ、裁判に至った場合の影響を予測し、早期に方針を決めることが肝要である。

「陳謝する事案」であれば、早期に情報を開示して、労働者側の真意を汲みつつ、損害賠償をする方針で申し入れをしたほうがよい。その際、企業として誠意のある解決案を示すべきだろう。

「争う事案」であっても、裁判になると企業のイメージダウンにより売上の低下に影響するといった観点から、見舞金や解決金を支払うとの 示談を申し入れるなどの対応策を検討することが必要だ。

示談交渉や裁判となり、紛争に発展した段階では、「信頼」というだけでなく、「危機管理」と「企業防衛」という視点を取り込んで検討しなければならない 。

しかしながらその場合でも、反論の時期や表現によっては、労働者や遺族の被害感情が悪化することがあるので、十分留意されたい。

企業としては迅速な対応を第一とすべきだが、かと言って、企業が解決を急ぎすぎると、その内容が企業側にとって不利なものとなることがある。人事 労務担当者は、交渉のプロではないので、弁護士に交渉を委任することも検討したほうがよいだろう。
つまこい法律事務所
企業のためのメンタルヘルス対策室
弁護士
佐久間大輔

著者プロフィール

HRプロ編集部

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