労働に関わる紛争において「不法行為」、「損害賠償」、「使用者責任」、「公序良俗」といった言葉が使われることがあるが、これらはすべて民法で登場する言葉だ。そもそも「雇用」に関する条文は、民法第623条以降にある。それに加えて、労働基準法、労働契約法などの労働法が規定されているわけだが、民法と労働法とはいったいどのような関係にあるのか、基本的な点を整理したい。
労働法と民法との関係について

民法の原則を、労働法によって補っている。

基本的なこととして、私人間の関係を規律する法 は、私法と呼ばれ、その一般法が民法である。そしてその特別法として、労働法などが規定されている。

民法では、「対等な私人」同士が「申込み」と「承諾」によって「自由に契約」が結ばれることが原則である。極論すれば、双方が合意さえすれば、自由な内容の契約を結べるということになる。

しかし現実には、労働者は使用者に比べ、圧倒的に交渉力・情報量・経済力において不利な立場に置かれている。そのため、民法の原則をそのまま当てはめると、対等な私人同士の契約とは言い難い内容のものも可能となってしまう。

そこで、労働法によって、契約の内容に一定の制限を設けることで、労働者の保護を図り、「対等な私人」同士の契約という、民法の原則に寄り添えるよう補っている。

使用者側から見れば、労働法は労働者保護に偏っている、という印象が強いようだが、単に保護しているのではなく、上記のような原則に則った上で保護されているのだということは、認識しておかねばならない 。

また、契約に至った場合、取り決めの内容を互いに遵守する義務を負うのは当然のことであるが(民法でいう債権と債務)、それに付随して負う義務というものも存在する。元々は民法第1条2項におけるいわゆる 信義誠実の原則(信義則)に基づくものだが、労働契約の中では、「職務専念義務」、「情報提供義務」、「安全配慮義務」などが当てはまる。

要するに、いったん労働契約を結んだならば、労働者には「労務提供義務」が、使用者には「賃金支払義務」が債務として課され、それらに付随して上記の他「秘密保持義務」などの債務も負うことになり、それらのいずれかが履行されない場合は、民法でいう「債務不履行」(民法415条)として、場合によっては「使用者責任」(民法715条)「不法行為」(民法709条等)へと繋がるという構図である。

労働法に与えている民法の影響と関係

では、民法における原則が、労働法の規定にどのような影響を及ぼしているかを、いくつか例を挙げて示したい。

労働契約法第9条に、就業規則の不利益変更には労働者の同意が必要という規定がある。民法上 、契約には遵守義務が互いに課されるが、不利益な変更を一方的にすることが許されるような契約が前提となっていないため、その原則に基づき、このような規定がなされているのである。

また、一定の要件を満たした有期契約労働者が無期転換の申込みをした時点で、使用者はその申込みを承諾したものとみなされる無期転換制度についても、労働者側が申込みをして初めて成立する制度となっているのは、やはり「申込み」と「承諾」という民法の原則によるためである 。

他、男女雇用機会均等法に よって女性という理由のみで不当な差別をすることが禁じられていることや、同一(価値)労働同一賃金についても、民法第90条でいう「公序良俗違反」の規定が影響している。

ところで、冒頭述べたように、民法は私法の一般法であり、労働法は特別法である。よって特別法のほうが優先されるが、この労働法は、基準や禁止事項を定めた強行規定である一方、実際に紛争が起きた時に何をどうするかといったことについては、あまり規定されていない。

そこで、裁判では、紛争がどういうものなのかを民法(不法行為、債務不履行等)から要件に照らし合わせて該当するものを選んで損害賠償を求める、という形になっている。

このように、労働法に民法の原則を反映することで対等な関係を実現し、もしそれが叶わない場合は、労働法もしくは民法の規定によって救済を求める、というのが、労働法と民法の基本的な関係である。

いよいよ今年4月から働き方改革関連法の一部が施行されることになる。こうした労働法と民法の基本的な関係を知ることで、なぜこうした法律や新たな義務(賃金差の説明義務など)が必要とされてきているのか、理解を深めることができるだろう 。

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