うつ病や適応障害で休職された方の復職支援については、厚生労働省からガイドラインが示されていますが、産業医の積極的な利用という点に関しては、あまり踏み込まれていない内容となっています。医学的な知識を持つ産業医が、本人、主治医、職場の間の橋渡し役をすることで、将来の見通しが立ちやすくなります。そこで今回は、復職支援に関して産業医ができることをお話しします。
職場復帰支援における産業医の役割

厚生労働省の描く復職支援のガイドライン

うつ病や適応障害で休職された方の職場復帰支援は、対応を誤ると時としてトラブルになる場合があります。これに関しては、厚生労働省が出している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下「手引き」)が参考になりますので、まずはおおよその流れをご紹介します。

Step1 労働者から管理監督者に主治医による診断書が提出され、休業が始まります。ここで主に、傷病手当金の説明や最長有給期間の説明などを行います。

Step2 労働者から職場復帰の意思が伝えられると、職場から主治医に対し「復帰可能」の診断書を求めます。ですが主治医は、日常生活における病状の回復程度から職場復帰の可能性を認めているに過ぎず、産業医等が主治医から情報を収集することが重要です。

Step3 今までの状況や職場の受け入れ態勢をもとに、就業の可否を決めます。可となった場合事業内スタッフや、人事担当者、上司等で職場復帰日と帰ってきて行う仕事、フォロー体制等について話し合います。

ここまでの流れを踏まえて、事業者による復職の最終決定を行うStep4 、そしてその後のフォローアップといった Step5へと続いていきます。

産業医はもっと活用できる

産業医の視点から見て、この「手引き」で少し首をかしげたくなるのは産業医が出てくるのが遅いところです。

これはあくまで私の感覚ですが、本当に全く動けないうつ状態の“極期”を過ぎたら、本人は少し話せるようになります。そうなったら、本人が嫌がらなけば会社で、嫌がるようなら社外の会議室などで、月1回1時間くらいずつ、本人と産業医で面談を行います。

このとき主治医への挨拶状と病名、今後の見通しを書くようにします。こういった作業をしていくことにより、復職の最終的な形が早い段階で見えてきますし、主治医と産業医の信頼関係も構築されます。

休職の要因として特に多いケースは、仕事の内容が本人に全く合っていないか、上司との関係が極めて悪いか、です。もしこれらの要因がない内因性のうつ病であっても、やはり産業医による月1回の面談によって、回復具合が分かり、将来の見通しも立ちます。

職場内に状況を悪化させる原因があるのであれば、それを取り除かずに復職した場合、再休職する可能性が高くなります。産業医の役目は、何が問題なのかを早い段階で目星をつけ、主治医にも伺いを立てた上で、対策を打つことです。

主治医は基本的に、目の前の患者のこと以外は知らないことが多く、特に職場の細かい事情などは全くわかりません。加えて、医者は、同じ医者相手だとスムーズに話し合いが進むという傾向があります。

主治医の意見を人事部・総務部の分かりやすい形に落とし込むこと、現場から出てくる質問で簡単なものは自分で判断し、複雑なものであれば主治医の意見を伺った上で判断し、現場に伝えること、それが産業医の仕事です。

現場に関することと疾患に関することの両方の知識を持ち、主治医ときちんと連絡が取れるという意味で、産業医を早い段階から上手に使うことが、よりスムーズでトラブルのない復職につながる秘訣だと思います。


合同会社DB-SeeD
日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント
神田橋宏治

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