「労働災害防止計画」とは、昭和33年から労働者の事故防止と健康保持のために、国がこれまで13回にわたって更新してきた中期計画です。この計画によって職場での事故は減り、現在は労働者の健康のほうに目が向けられるようになりました。2018年から始まった13次労働災害防止計画では、特に産業医に強くスポットが当てられています。これを踏まえて今回は、第13次労働防止災害計画における産業医の役割について解説します。
第13次労働防止災害計画と産業医

第13次労働災害防止計画での産業医の役割

第13次労働災害防止計画は、平成30年4月から5年間にわたって労働災害防止対策を進めるために国が定めた中期計画です。この中には「産業医」という言葉が、計14回も出てきます。では、この言葉がどのような場面で使われているかを少し整理してみましょう。

まず、高ストレスやメンタル不調者に対する健康相談に関してです。約3割の労働者が、職場に仕事上の不安・ストレス・悩みについて相談できる相手がいないと感じており、彼らが自ら相談に来やすい体制を整えることが重要となっています。

また、病気を治療しながら就労する「両立支援」に関する部分でも産業医という言葉が出てきます。普通の医者(臨床医)は、医療のことしか分からないので、産業医のように本人の状況と職場とのすり合わせをする人間が必要となってくるのです。

例えば、胃がんで手術をした従業員などは、食事を一日数回に分けて摂らなければなりません。致し方ないことなのですが、周囲から、「しょっちゅう仕事を抜けるのは甘えている」と思われることもあります。このような事態は、本人の同意を得て主治医からの診断書をもらい、同僚等にきちんと説明することで収まることが多いです。

また、脳梗塞後に復職した従業員などは、歩行のバランスに問題が残ることがあります。そこで産業医は、当該従業員の通勤ルートを確認し、混雑した駅で乗り換えがある場合には、ルート変更や会社の就業規則に基づくフレックスタイムなどの具体策を提案します。

現在では「両立支援コーディネーター」といった職業も養成されていますが、病気の理解という意味では、やはり産業医を上回る存在はいないと思われます。

優秀な産業医とは

第13次労働災害防止計画においては、過重な長時間労働やメンタルヘルス不調等により過労死等のリスクが高い状況にある労働者を見逃さない、ということに重点が置かれています。

最近の研究によると、週の労働時間が55時間を超えると、心臓や脳の病気にかかりやすいことが分かってきました。また長時間労働は、メンタル面でのリスクとなるうえ、労働効率も下がります。

そのため、例えば、月の残業時間が45時間を超える人は全員産業医と面談を行うことを努力義務にしようとする意見も出てきています。

これを実現するには、質・量ともに優秀な産業医が、多く市場に出てくることが求められます。

産業医は、労働者の健康を守るだけでなく、会社の価値に貢献してこそ、存在意義があります。上記に挙げたようなことをきちんとやってくれる産業医こそ、まっとうな産業医です。
また上記の目的を果たすため北九州にある産業医科大学(国策で産業医を養成する大学です)が全国で実践講座を開くことになっています。

“健康経営”という考え方が広がるとともに、産業医のニーズはこれまで以上に高まっています。今後、日本の産業医療はますます発展し、会社の業績向上への一助となっていくでしょう。


合同会社DB-SeeD 
日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント
神田橋宏治

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