平成29年の労働安全衛生調査(事業所調査)の結果では、前年1年間(平成28年 11 月1日~平成29年10月31日)に、メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者の割合は0.4%、退職した労働者の割合は 0.3%となっている。産業別にみると、連続 1ヶ月以上休業した労働者は「情報通信業」及び「金融業、保険業」が1.2%と最も高く、退職した労働者は「運輸業、郵便業」が0.5%と最も高くなっている。このようにメンタルヘルス不調による休職者または退職者が出ると、事業に支障が出るのは言うまでもない。
メンタルヘルス疾患で従業員が休職する際、気をつけるべきポイント

近年、一般的な事業所でも、人事部などの管理部署などに限らず普通の事業部門の中から「メンタルヘルス問題」、「メンタルヘルス不調」あるいは「メンタル」といった言葉が聞こえてくることが珍しくなくなってきた。ここで原点に立ち返り、メンタルヘルス不調とはいったいどのような状態のことなのか、今一度明確にしておこう。

本来、メンタルヘルス不調とは「うつ病等の精神疾患」を指す。しかしながら実際はもっと幅広い意味で用いられており、「身体疾患以外で体調を崩している状態のこと」を総称してメンタルヘルス不調と呼ぶことが多く、一般的な定義があいまいになっている。

さまざまな形で催されているメンタルヘルス不調に関するセミナーでも、「メンタルヘルス不調は、うつ病や適応障害といった精神障害である」として対策を説明するものもあれば、「メンタルヘルス不調は、ストレスにより心のバランスを崩した状態である」としてその対策を説明するものと、2種類ある。

安易に「メンタル」という言葉だけを使っていると、どちらが自社にとって必要な情報なのか、関係者間でも意見が食い違うことがある。ある会社では管理職同士が「うちの部下がメンタルで」と話し合いを持ったが、それぞれの定義が異なっていたため、ほとんど議論が進まなかったというケースもある。そのようなことが生じないよう、きちんと社内で定義をすり合わせ、共通の認識を持っておくことが大切だろう。

では、いざメンタルヘルス不調になった従業員が実際に休職をするとなった場合、どうしたらよいだろうか。

これについて講演会などでお話しさせていただくとき、「休職する際のルールがしっかりと決まっていますか?」と尋ねると、多くの場合、すぐに手が挙がることは少なく、挙がったとしてもごく少数である。

しかしもっとも大事なのは、この【まず、どうすれば休職できるかを明文化しておくこと】なのである。

例えば、「主治医の診断書の提出を以って、会社が休職を命じる」といったように就業規則にきちんと定めることが大切だ。ポイントは「命じる」ということである。

多くの企業で、メンタルヘルス不調の定義と同様、休職や復職に関する事項もあいまいになっており、何となく休み始め、何となく途中から診断書が提出され、何となく復職していて、何となくまた休みがちになる…というようなケースが見られる。そのため、【休職とは、あくまでも解雇を防ぐための猶予措置である】という原則を忘れないようにする必要がある。

診断書が提出され、会社が休職を命じる際には、休職通知書を発行するのがよいだろう。その中には、社会保険や住民税の扱いや、休職満了期間などの記載は欠かせない。それによって後々のトラブルを防ぐとともに、休職者の不安も払拭し、結果、早期の復職も期待できる。

またその際に復職の条件もきちんと定めておくとよい。当事務所では顧客企業に、
1.主治医から所定労働時間働けることの許可
2.産業医の許可
3.上記を踏まえ会社の許可
が出た時に初めて復職発令が出る旨、必ず説明するようにしている。休職も復職も会社が命じることが大切なのである。
多くの場合、休職者は復職を焦るあまりに、早すぎる復職→また休職を繰り返す、という悲劇を起こしている。そうなると企業側も働く側も、お互い不幸になってしまう。
メンタルヘルス疾患で従業員が休職する際に気を付けたいポイントとして、【会社がきちんと命じることになっているか】ということを念を押してお伝えしたい。


koCoro健康経営株式会社 代表取締役
Office CPSR 臨床心理士・社会保険労務士事務所 代 表
一般社団法人 ウエルフルジャパン 理 事
産業能率大学兼任講師
植田 健太

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