先日、従業員150人超のある企業の経営者から、「メンタルヘルス担当者はどのような性格、能力のある人がいいのでしょうか?」とご相談を受けることがあった。よくよく話を聞いてみると、その企業ではメンタルヘルス対策に関わっている人事担当者が突然辞めてしまったとのこと。しかも1年の間で2人目の退職者であったため、経営者も頭を悩ませていたのである。
メンタルヘルス担当者の適性を考えてみる

 辞めた理由を聞くと、 多少の温度差はあるものの、「自分がうつになりそう」ということであったらしい。これはレアなケースかもしれないが、もしかしたら同じ悩みを持っている経営者や人事の責任者はいるのではないかと思い、メンタルヘルス担当者の適性を考えてみることにしたい。

 まず、メンタルヘルス担当者とはどのような立場の人か。ここで言うメンタルヘルス担当者とは、「企業組織内でメンタルヘルス対策を行っている部署に所属している従業員で、実際にメンタル不調者の相談を受けることのある従業員」とし、管理監督者はこれに含まないとする。
そして、適性とは、ある事に適している性質や能力のことである。それを踏まえて、メンタルヘルス担当者の適性は、以下の4点に現れるのではないかと考える。

 適性1 割り切れるタイプの性格
 適性2 傾聴力
 適性3 スケジュール管理能力
 適性4 コーディネート能力

[適性1 割り切りタイプ]
 適性のうち、性質・性格的な要素として、何でも割り切って考えるタイプが向いている。メンタルヘルスに関する相談は、それこそ個人のプライバシーに直結し、しかもナイーブな話であることが多い。同調や感情移入しやすいタイプの場合は、担当者としての役割を超えて過剰関与することもありうる。
 上記の企業の例では、思いやりが強く、情け深い性格の担当者だったと聞いている。過剰関与しすぎた結果、自らもメンタル不調気味になったと考えることもできる。性格的に仕事は仕事、オフはオフ、ときちんと切り替えができる人が向いているのではないだろうか。

[適性2 傾聴力]
 能力的な要素では、傾聴力が必要である。傾聴とは、カウンセリングやコーチングの際に用いられるコミュニケーションスキルのひとつであるが、要は相手の話をしっかり聴くことである。ここで言う「しっかり聴く」とは受容的態度・共感的理解をもって聴くことであり、さきほどの同調や感情移入とは意味が異なるので注意が必要である。傾聴は、接客や営業等のあらゆる職種に必要なスキルであるが、メンタルを扱う職種の場合には特に身に付けておきたいものである。
 ただし、担当者はカウンセラーではなく、あくまでメンタル相談者の窓口という役割である(ことが多いであろう)。しっかりと話を聴いたうえで、その後の対応(上司に報告、産業医に連絡等)につなげる必要がある。その点を勘違いしないようにすべきでもある。

[適性3 スケジュール管理能力]
 能力的な要素では、スケジュール管理能力も大切である。メンタルへルス体制・対策が企業内で確立されている場合には、それらをきちんと実行していくことが求められる。いざメンタルヘルス問題が生じた場合には、罹患者の状況確認、診断書の提出の有無やその連絡、休職発令や休職通知、産業医や主治医との連絡、復職計画など、やるべきことは多い。そのような細かな手続きをきちんとスケジュール通り行うことが大切である。そうすることによって、罹患者の方に予測可能性を与え安心感を与えることになるし、その他の従業員にも会社がきちんと対応してくれるのだという信頼感を与えることになる。
 反対に、メンタルヘルス問題への対応で、会社としてのメンタルへルス体制が整っておらず個別バラバラな対応である場合、従業員は不安になり、会社に対して不信感を募らせる。そのため、メンタルへルス体制が整っていない企業は、まずは早急に制度作りをするべきである。

[適性4 コーディネート能力]
 最後に、コーディネート能力(調整能力)も必要である。メンタルへルス対策は、担当者がひとりで抱えてできるものではないし、するべきものでもない。メンタルへルス体制を築いた上で、チームとして機能するものである。チームメンバーには、担当者やその上司、産業医、主治医、あるいは従業員や経営者などが含まれるが、各メンバーの役割を理解し、うまくコーディネートすることが大切である。

 以上のように、メンタルヘルス担当者は、性格的に割り切れるタイプで、傾聴力・スケジュール管理能力・コーディネート能力が高い方に向いているといえる。貴社のメンタルヘルス担当者はいかがであろうか。合致ポイントが少ないようであれば、相談を受ける側から、相談をする側に回ってしまうかもしれない。

三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫

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