今年12月、労働安全衛生法が改正されて「心理的負担の程度を把握するための検査」、いわゆるストレスチェック制度が始まる。これは労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するため、医師・保健師等によるストレスチェックを行い、その結果に基づく医師による面接指導等を行おうとする制度である。仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が年々増加している傾向において、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが益々重要課題となっているため、制度化されたものである。

 まだ施行されていないため、実際の運用に関しては予断を許さないところであるが、施行にあたり関連通達も出され、詳細が少しずつ分かり始めたこともある。それらを踏まえて施行後、想定されることを以下に書いてみたい。
ストレスチェック制度は、機能するのか?

労働者の受診義務がない!?

 今回のストレスチェックは労働者に受診義務はないが、特別な理由がない限りは全ての労働者がストレスチェックを受けることが望ましい、とある。受診義務がないということは、果たして現場で本制度が機能するのかどうか、特に中小企業等で機能するのかは、疑わしいところである。

あえて言うならば、ストレスを感じながら忙しく働く、本来もっとも受診すべき労働者層が業務の忙しさのためにストレスチェック制度を受診しないともなれば、なんとも皮肉である。また、当然法律的には不利益取り扱いを禁止しているが、ストレスチェックを受診すると、会社から不利益な取り扱いを受けるのではないか、と危惧する労働者が受診しない可能性も否定できない。この制度を機能させるためには通達にもあるが、会社として本制度は、「メンタルヘルス不調の労働者を把握することを目的とした制度ではない」ということと、「メンタルヘルス不調の未然防止」ということを周知徹底していくことが期待されるのは言うまでもない。

やぶへびにならないのか?という現場の声

 今回、国がストレスチェック制度の内容として57項目の「職業性ストレス簡易調査票」を用意している。内容としては「時間内に仕事が処理しきれない」「勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならないと思っている」「かなり注意して集中する必要がある」「イライラしている」などだ。この内容を見た私の周囲の経営者および総務担当者の正直な感想は「これ、誰でも該当するのではないですか?」
「偽って、ストレスがあるという人が出てくるんじゃないですか?」
「どう考えても、やぶへびだ!」
などというものである。現場は、戦々恐々としているのが事実ではないだろうか。

またストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者に対して、労働者からの申出に応じて医師が面接を行い、ストレスその他の心身及び勤務の状況等を確認する、となっている。通達によると、面接指導の対象となる労働者とは、衛生委員会等において調査審議し、事業場のストレスチェック制度に関する規程において定めた基準及び方法により高ストレス者として選定された者であって、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者であること、となっている。ここでいう面接指導を受けさせる基準をどのように設定していくのかも、各企業で考えていく必要がある。企業としては、面接指導の結果によっては残業時間の削減など、一定の就業上の措置を取らなければならないこともあり、何かと慎重な対応が期待される。

実際に施行しないと実務上の運用が分からない側面もあるが、昨今のメンタルヘルス不調者の著しい増加を考えると、各企業においてはこの制度を前向きに機能させるべく、業務実態に合ったストレスチェック制度の構築が期待されることは、言うまでもない。

社会保険労務士  糀谷 博和

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