不調者への対処には、関係者や専門家の有機的な連携が必要

メンタルヘルスの不調や発達障がいが疑われる従業員に対しては、管理監督者や人事労務管理スタッフでは対処しきれないことがある。そのため、産業医といった産業保健スタッフが早期に介入した方がよい。その際に、不調者に対する就業上の措置が労働契約変更に当たる場合、産業保健スタッフは、労働法の解釈や労働契約の評価が問題となることを、企業と不調者との共通認識にしておかなければならない。また、精神科医や心療内科医が主治医として職場復帰の可否や就業上の措置に関する診断書を作成する際も、同様の共通認識を持たせることが望ましい。

自殺を防げなかったケースでは、産業保健スタッフを軸にした、人事労務管理スタッフや主治医との情報交換、連携がなされていなかった場合が多く見受けられる。メンタルヘルス不調者の事例性・疾病性が正確に把握できずに自殺という最悪の事態にいたってしまった場合、職場に影響を及ぼすだけでなく、遺族との間で裁判ともなれば関係者間の意思疎通が不十分であったことを理由に企業の損害賠償責任が肯定されうる。とくに、発達障がいについては、人事労務管理スタッフの指導や管理監督者のフォローアップができていたのか、という点が司法判断に影響を与える。そのため、産業保健スタッフとの連携はここでも鍵となるのだ。

企業は、「障害者雇用促進法」第36条の3に基づき「合理的配慮の提供」が義務づけられている。この趣旨からすると、業務内要因と業務外要因とで相乗作用が起きてしまうことを予防するためには、関係者間の共通認識に基づいた連携を基礎として、職場での適正配置といった合理的配慮の提供を、メンタルヘルス不調者との間で協議することが肝要である。この場合、「合意」にまでいたる必要はないが、なるべく労働者の「同意」を得ることが望ましい。

一方、産業医や主治医などの医療職は、医学的知見のみならず、法的な観点も踏まえてメンタルヘルス不調者本人に対応し、企業に助言した方がよい。そのため、法的問題やトラブル発生の懸念がある事例では、早い段階で、裁判例や紛争解決の視点から弁護士の意見を聞いて紛争の発生や拡大を回避した方がよい。また、日常的に労務管理の相談・指導をおこなっている社会保険労務士から助言を得ることも有効である。紛争予防の場面では、社会保険労務士が弁護士の意見を取り入れて企業を指導した方がよい。うつ病による休職者や発達障がい者に関しては、就労支援事業所のジョブ・コーチの導入も望まれる。

このように、専門家が有機的に連携して人事労務管理スタッフをサポートすることで、メンタルヘルス不調者に対して合理的な配慮を提供することは可能だ。この配慮の提供によって、労働トラブルを予防することもできるのだ。

関係者や専門家の連携は、メンタルヘルス対策にとどまらず、従業員の治療と仕事の両立への支援に役立つ。がん離職防止や障がい者の雇用、さらに、育児や介護などの家族的事情によってメンタルヘルス不調をきたした従業員への支援にも有用である。そのために、各専門家が学際的に継続的な協力関係を築くことが大きな効果をもたらすと思われる。このネットワークづくりが人事労務管理スタッフの役割であろう。


佐久間大輔
つまこい法律事務所 弁護士
企業のためのメンタルヘルス対策室
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