前回はマイナンバーって何? マイナンバーはどう使われるの? そして実際にマイナンバーはいつ頃から使われるの? というお話をいたしました。それでは実際にマイナンバーは企業の業務にどのような影響を与えるのでしょうか?

マイナンバーは住民票コードと違って企業に関係あり

第2回 なぜマイナンバーは企業に関係があるのか?
経営者の皆さんと話をしていると、「マイナンバーって会社には全然関係ないでしょ?自分にもマイナンバーが来るだけだから。パスポートを取るときには住民票の提出がいらなくなるとか、そんなものでしょ?」など、マイナンバーについて勘違いをしている方が多くみられます。
 
 今回の執筆にあたり、マイナンバーについての識者であり『マイナンバー制度と企業の実務対応』(日本法令)の著者である富士通総合研究所の榎並利博主幹研究員(以下、榎並氏)にお話しをお伺いしました。そのなかで、榎並氏はこのように語っています。

「企業のマイナンバーの扱いについては、かなり誤解があります。というのは10年ほど前、住基ネットで住民票コードという番号制度ができましたが、そのとき民間企業には一切関係ありませんでした。だからそれと同じだろうと思っている企業さんが多いのです。しかも、マイナンバーは社会保障と税の手続きで使いますよ、でも民間の方はビジネスでマイナンバーを使えませんよと言われているので、企業には関係ないと思っている人が多くいらっしゃるのです」

「しかし実は、マイナンバーは住民票コードとは性質がガラッと変わって、社会保障、税関系の手続きでは民間企業もきちんと使っていかなければならない。法律上の義務がある番号になっているのです。民間企業は自分のビジネスでマイナンバーを使えるわけではないのですが、それらの行政関係の手続きにおいては、社員のマイナンバー、あるいは取引先として個人のマイナンバーといったものを記入していかなくてはならないということです」

この誤解を解くには、これは企業が政府の一部の事務を代行していることを説明する必要があります。

企業は政府の事務代行をしている

「企業は政府の事務の代行をしています」と聞いても、ピンと来ないのではないでしょうか? では具体的にはどういうことでしょうか。榎並氏によると

「たとえば企業は、『源泉徴収』『社会保険料の個人負担分の代行納付』『雇用保険の個人負担分の代行納付』といった事務を行っています。実はこれらの業務は、政府が個人から直接徴収を行う代わりに企業に納付事務を実施させているのです。これは法律で定められており、企業は政府の事務の実施をすることが義務付けられています。(根拠法:所得税法、厚生年金法、健康保険法、雇用保険徴収法など)」

「これらの事務手続きの際には2016年1月(社会保険は2017年1月から)よりマイナンバーを利用することが求められてきます。そのために企業はマイナンバーを従業員や源泉徴収の対象となる個人取引先などから収集しなくてはなりません。『企業がマイナンバーを扱う』ということは、政府の事務を実施するために扱うことになってくる、ということなのです。法律では、企業を『個人番号関係事務実施者』という言い方をしています」

 このような話を聞くと、「ああ、なるほどね!」と頷いていただけるでしょう。

マイナンバーは厳重な管理が必要となる

「マイナンバーは“個人情報”のうち“特定個人情報”の範疇に入ると定義とされており、厳重な管理を求められます。個人情報保護法の場合、5000件を超えた個人情報を所有する場合に初めて個人情報取扱事業者ということで法律の規制対象となりましたが、マイナンバーでは従業員を1人雇っていれば他人のマイナンバーを使うことになるので、全部の企業が対象になるわけです」と榎並氏。つまり、すべての企業でマイナンバーの厳重な管理が求められるのです。

マイナンバー法は個人情報保護法の特別法

法律面では、マイナンバー法は個人情報保護法の特別法として位置づけられています。マイナンバー保全に関しては、基本的には個人情報保護法の規制の範疇に入り保全を要求されますが、個人情報保護法と違うのは「5000件を超えた個人情報を持たなくても対象となる」「死者のマイナンバーも保護の対象になる」という点です。
いずれにせよ、マイナンバーは厳重な管理を求められますから、企業はマイナンバーを受け入れて使用する準備を進めていかなければなりません。
次回以降では企業がしなくてはならない準備について触れていくことにしましょう。

まとめると・・・

1.マイナンバーは、住民票コードとは違うもので使い方も違う
2.企業がマイナンバーを使う理由は、企業が政府の事務代行をしているから
3.マイナンバーは個人情報保護法の規制の範疇になる

(第3回へつづく)

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取材協力:株式会社富士通総研 経済研究所 主席研究員 榎並利博
1981年東京大学文学部考古学科卒業、同年富士通株式会社入社。1996年富士通総研へ出向。新潟大学・中央大学・法政大学の各非常勤講師および早稲田大学公共政策研究所客員研究員の兼務を経て、現職。専門分野は電子政府・電子自治体、地域活性化、行政経営。最近の研究テーマは、マイナンバー、地域イノベーションなど。

執筆協力:エヌ・ラボ株式会社 代表取締役 中島啓吾
NTT、野村総合研究所、モバイル関連事業を得て現職。
BtoBの売上拡大のためのコンサルティング、クラウドサービスの企画、内部統制構築など、ビジネス・企画支援を行う傍ら、社会保険労務士としてマイナンバー、セキュリティの支援も行う。
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