もう昔のことになるが、1970年代までの日本では「作れば売れた」。これを「プロダクトアウト型」のビジネスモデルという。組織形態はトップダウンだった。続いて1980年代になると、消費者のニーズにあった製品やサービスを提供する「マーケットイン型」ビジネスモデルに変わった。組織はボトムアップ型になる。
そして21世紀になると激変の時代に突入する。マーケットニーズ、コミュニケーションメディア、テクノロジーが変化、拡大、縮小し、市場と企業はグローバル化していく。そしてビジネスモデルは「コンセプトアウト型」に変容した。そして組織形態は、組織の最小単位「チーム」が顧客にきめ細かく迅速に対応する「コンセプトアウト型組織」へと進化する。
つまり現代企業の最大の課題は、いかに「チーム」を組織するか、にある。しかしチームは辞令で組織できるわけではない。意志をもって「創る」ものなのだ。そのチームビルディングの過程、要素、成長段階について、インパクトジャパンのデベロップメントトレーニングコンサルタントである戒能氏に聞く。

コンセプトアウト型ビジネスモデルに必須の「チーム」

--「チーム」という言葉は古くからありますが、組織の単位としてチームという言葉が使われるようになったのは、比較的最近のことだと思います。 なぜいま「チーム」なのでしょうか?

第5回 変化が日常というビジネス環境への適応力。
チームという言葉は、サッカーチーム、野球チームなどに使われ、日本語として定着しています。しかし組織やビジネスの用語として日本において本当の意味で使われ始めたのは2000年代に入ってからのことで、それまでは「課」「係」「グループ」などと同義で使われていました。
「チーム」が、組織の最小単位として重視されるようになった背景には、タテ型組織の効力が減少して無力化し、現場の対応力が重要になったからだと思います。なぜ現場が重要になったのかと言えば、「変化が日常」になったからです。今日ではあらゆる職位、職種で決まり切った手続きで同じことを繰り返すルーチンワークはとても少なくなっています。
つねに「どういう顧客」に「どんな価値」を提供するのかを考え、実行しなければ成長どころか存続すらできないのです。簡単に言うと、ビジネスモデルがプロダクトアウト、マーケットインからコンセプトアウトに変わったということです。コンセプトアウト型組織に必須なのがチームなのです。
第5回 変化が日常というビジネス環境への適応力。
コンセプトアウト型組織

チームを阻害するメンタルモデル、古い組織観

--インパクトジャパンでは研修プログラムのひとつとして「チームビルディング」を提供しています。なぜチームをビルディングしなければならないのですか?

「変化が日常」となっている現代では、従来型の「部」「課」組織は恒常性を失い、組織内の全ての集団は、すばやく結集し、行動し、自ら変容し続ける「柔軟な運営」が求められています。それを実現するのがチームです。
チームは自然に「できる」ものではなく、意志を持って「創る」ものです。しかし「創る」という認識を欠いたまま、チームを名乗り、単なる「烏合の衆」として期待外れに終わってしまう事例はたいへん多いと思います。
多くの失敗は、潜在的な思い込みです。チームを阻害するメンタルモデルはたくさんあります。たとえば、
「リーダーは全てをマネジメントしなければならない」というリーダー観
「和を以て尊しと為す」という対人・集団観
「チームの組織構造は決められたもの」という組織観
「目標はリーダーが決めるもので、メンバーは従うもの」という目標観
「(チームになっていないのに)自分たちはチーム」だと思っているレベルの低いチーム観
これらは、これまでの日本企業の組織で有効だったメンタルモデルですが、コンセプトアウト型組織「チーム」では阻害要因になります。

形成期、葛藤期、統一期、機能期、衰減期という5つの発展段階

--「チーム」はどのように創られ、成長していくのですか?

人間が生まれてから大人に成長していくように、「チーム」にも発展段階があります。5つの発展段階を説明しましょう。
まず「形成期」があります。この段階はチームメンバーが集まった段階であり、最低限の約束事によって成立していますが、相互理解はありません。期待感はあるものの、周囲を観察している段階です。コミュニケーションレベルも表層的です。
つぎの葛藤期は、「違い」が明確化する段階です。意見(感情)のコンフリクト(衝突)が起き、リーダーに対し厳しい評価がなされます。この葛藤期は非常に重要で、自分と相手(チームメンバー)の本質的な差異を浮き彫りにし、その差異を乗り越えることで、「グループ」から「チーム」へと変化し始めるのです。
葛藤期を乗り越えれば統一期になります。意味解釈を共有し、メンバー各自の機能が明確になり、チームに明示的・暗黙的な規範が生成されます。
最初の形成期は擬似的チームです。葛藤期と統一期は潜在的チームであり、いわば「チーム未満」です。次の機能期からが「真のチーム」です。機能期にはいると、メンバーは職務に集中・没入できるようになり、メンバーの補完関係が構築されます。そして業務の効率化が可能になります。
ただし機能期がそのまま継続するものではありません。個体の生命が老いていくように、チームも衰減期を迎えます。チームで上げた成果の分配問題が発生し、メンバーが離脱・離職し、求心力が低下していきます。そしてチームの役割は終わるのです。
第5回 変化が日常というビジネス環境への適応力。
第5回 変化が日常というビジネス環境への適応力。
図:職務への集中

チームを発展させるための3つの要素

--チームを真のチームにするものはなんでしょうか?

チームは形成されさえすれば自然と発展していくものではありません。チームを発展させるための要素は多岐に渡りますが、抽象度を上げて分析していくと、3つの本質的な要素に帰着します。チームの進むべき方向(Vektor)・チームを支える機能(Function)・メンバー間の関係(Relation)の3つです。それぞれの「質」の高さが、チームとしての「質」に比例します。
まずもっとも重要なのは、Vektor(方向)です。目的、目標、アプローチ(強み、勝ち筋)に関し、チームとしての方向性を定め、共通理解を築くものです。
目的は、チーム(自分自身)の存在意義に関わるもので、チームとして何を成し遂げたいのかを表します。目標は、目的を達成するために参照する具体的な指標です。数値目標の他に定性ゴールや、さらにブレイクダウンしたKPIなどがあります。アプローチは、チームとしての強みを生かすことです。他者(他社)との相対比較として強みを見つけ、解法を発見します。
Function(機能)は8機能で構成されます。ハイパフォーミングチームが備えているべき特性は下記の8機能(マーギャリソン、マッキャンの理論を援用)です。
(1)Advising(報告・助言機能) 情報を入手し、意思決定の材料として提供する
(2)Innovating(創造・革新機能) アイデアやタスクに対する今までとは異なるアプローチを生み出す
(3)Promoting(探索・発起機能) 視野を拡げて可能性を探り、周囲の協力を取り付ける
(4)Developing(評価・開発機能) 実際の制約に合わせ、選択肢を分析して現実的なプランをつくる
(5)Organizing(推進・組織化機能) プランが実行できるように人的・物的資源を組織化する
(6)Producing(生産・完結機能) 体系的なやり方を構築し、チームのアウトプットを生み出す
(7)Inspecting(管理・検査機能) 詳細に着目し、業務を各方面から点検・修正する
(8)Maintaining(擁護・維持機能) チームにとって適切な環境や関係を維持する
これらの8機能はチームメンバーが分担、分有します。リーダーにはリーダーしか担うことのできない別の重要な機能があります。それはLinking(連結機能)です。チームの機能間の調整をし、まとめるのがリーダーの役割です。
Relation(関係)はシナジー(相乗効果)を生み出す関係性を構築するものです。インパクトジャパンでは、8段階のコミュニケーションレベルと5パターンのコンフリクトマネジメントを定義しています。
コミュニケーションレベルが深くなるほど、創造性が発揮されやすくなりますが、コンフリクト(対立)を生むリスクも高くなります。
コンフリクトはチームに不可欠な要素であり、健全なものと不健全なものがあります。5パターンのコンフリクトをハンドリングするモードを使い分けて、チームビルディングは進みます。

チームビルディングの落とし穴

--チームによって、社員のコミットメント、参画感を高めることはできますか?

チームを作っていく際のよくある失敗パターンは、「トップダウンで方向性」を打ち出し、メンバーに「固定化されていた役割」を与えた後に、「表層的に関係性を取り繕う」というプロセスです。
「方向→機能→関係」という順番です。
このプロセスがうまく行っても、せいぜい「一時的な一体感」が醸成されるだけで、メンバーはチームの方向や在り方に関与していないため、どこまでいっても「他人事」の段階に留まります。
メンバーがチームとしての課題を「自分事」として捉えることができる「Commitment(参画感)」が高い状態を創るには、「方向→機能→関係」ではなく、「関係→方向→機能」
というプロセスを踏むことが重要なのです。
つまり、葛藤期のコンフリクト(対立)を乗り越えた高密度な人間関係を土台として、自分自身が関与しながら、方向性や規範を創造し、機能を分担・分有していくことが欠かせないのです。インパクトジャパンのチームビルディングプログラムが、コンフリクトを重視しているのはそのためです。

プログラムでの体感的理解と、 職場での失敗・成功体験から学び直す

--具体的なチームビルディングプログラムはどのようなものでしょうか?

第5回 変化が日常というビジネス環境への適応力。
わたしたちは、経営企画室や人事部からの依頼でチームビルディングプログラムを実施することが多いのですが、期間は半日のものもあれば、一日のものも、合宿形式のものもあります。グローバル企業の各国のディビジョンマネージャー向けに経営会議の前に数時間のイベントを提供することもあります。
いずれにせよ、アイスブレイクに主眼を置いたFUN満載のアクティビティやチームで取り組む課題解決のシミュレーション、実際のチーム運営上起こり得る葛藤場面について話し合うケーススタディなど、コンセプトに沿ってカスタマイズし、形成期・葛藤期・統一期・機能期と発展させていくプログラムを個社ごとに設計しております。
ただしコンセプトは一貫しています。チーム理論をプログラムによって体感的に理解し、その学びをPit-Workとして職場で実践し、さらに職場での成功・失敗体験から新たな学びを見出すというサイクルを繰り返すことで、真のチームを創り上げていきます。
プログラムでの理解と、職場での体験を繰り返すことで、行動を変容させていくのです。
それぞれのチーム固有の期待されるアウトプットがあり、メンバー構成やチーム状態などは様々です。まずは、個々のチームに合わせた機能期までのシナリオをチームに関わるステークホルダーが対話を通じて形作っていくことが何よりも大切な「チームビルディング」なのかもしれません。
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