人事担当者なら、だれでも若者の変質を実感しているだろう。変質の理由はいくつもある。この20年間は経済に活気がなかった。ゆとり教育もわかりやすい理由の一つだろう。運動会に勝ち負けを持ち込む競争の排除(「徒競走」を「かけっこ」に変えるなど)、ケータイというコミュニケーションツールの普及も影響しているだろう。
しかし変質の中身になると、「学力が落ちている」「挨拶ができない」「自立心がない」などの印象批評が多い。これでは何がどう変わっているのかわからない。そこで今回のキーマンズCafeは株式会社ジェックを訪ねた。同社は毎年「社員意識調査」を行い、新入社員の意識に関するデータを持っている。しかもこの調査の開始は1976年のこと。したがって長期にわたる経年変化を捉えることができる。20年前、10年前、この数年の変化について渡辺晶三常務にお話を伺った。

行動理論と集団性格を軸にした人材開発コンサルティング

--まずジェックという企業と、「ジェック社員意識調査」について説明していただきたいと思います。

ジェックは、Just Excellent Core Value Creatorの頭文字に由来する社名です。企業理念は「行動理論の改革と集団性格の革新で企業の発展を図る」ことです。少し説明すると、行動理論とは、人の考え方と行動を方向付けている信念です。人は自らの行動理論を変えることで、考え方と行動が変わります。
集団性格とは、組織文化を変えるテコとなる3つの価値観(挑戦・協調・道理)で形成される集団の特徴で、これも変えることができます。
ジェックはこの行動理論と集団性格を軸にして、人と組織のコンサルティングを行う会社で、研修・トレーニングを手がけています。
「ジェック社員意識調査」は、1976 年に開発したプログラムで、毎年多くの新入社員の研修で実施しています。調査内容は入社時の意識傾向をつかむ上で有効な50 の設問で構成しており、その結果をこれまで蓄積してきたノウハウをもとに分析し、“企業人として重要な 「5つの意識」” として、五角形のグラフで表します。
各25 点満点でその数値が高いほどその意識が強い、という傾向を示し、五角形が大きくバランスの取れている状態が理想的です。

企業人として成果を上げる「5つの意識」

--「5つの意識」を説明していただけますか。

第6回 ゆとり世代新入社員の「働く意識」は 意外に前向きだが、 悪い意味で「大人」になっている
「5つの意識」は企業人として成果を上げ続けるためのファクターを整理したもので、下記の5項目です。
1.職業人の意識
 地道な努力を大切にし、言われた通りにまずやって
 みようとする意識
2.自己実現の意識
 能力や個性を思う存分発揮しようとする意識
3.貢献・報酬の意識
 百の知識よりも、一つの成果、業績を重んじようと
 する意識
4.組織活動の意識
 規則に従い、連絡を密にしようとする意識
5.人間関係の意識
 相手を尊重し、礼儀作法を配慮しようとする意識
いずれも行動に直結する因子で、さまざまなタイプがあります。この調査は研修のはじめに行い、研修終了日に再度実施します。そして新入社員は、研修前の古い自分のタイプと意識とを研修で変わった意識を比較して自覚します。新入社員研修の最後に自己の認知を通じて自信を強化することがとても重要です。

20年前と比べ低下した「自己実現の意識」

--新入社員の五角形はどのようなカタチになりますか。また長期的に見て、数値は変わっていくものでしょうか。

五角形のサンプルを紹介しましょう。図のタイプ(1)とタイプ(2)は新入社員によくあるタイプです。タイプ(1)の「自己実現の意識」が高いタイプは、「こうしたい」「こうなりたい」という欲求は強く、努力をしないでその欲求をかなえようとする傾向があります。このタイプには、「貢献・報酬の意識」を活用し、「まずその分野で成果を出すこと」「周りからの信用を獲得するために、目の前に今ある仕事で成果を出すこと」を強調しながら指導することが有効になります。
タイプ(2)は、「人間関係の意識」が突出して強く、「貢献・報酬の意識」が弱いタイプです。時によっては、会社が利益を上げることに罪悪感を持っていたり、努力に応じた報酬よりも、生活の安定を求めたりする傾向があります。周りにかわいがられるタイプですが、依頼心が強いことも想定されます。このタイプには、少し突き放して、「成果を出している同僚を評価する」というような発言を繰り返し、「最後は成果で評価されること」を強調し、「自己実現の意識」を活用し、自己実現できた状態と成果を出した状態をリンクするように諭したりすることが有効でしょう。
長期的な数値の変化としては、「自己実現の意識」が目立ちます。1990年頃はこの意識が突出して高かったのですが、近年の若者では低くなっています。
研修でも自己実現意識の低下を実感します。研修ではグループに分けますが、グループリーダーを選びますが、20年前は「俺が」「私が」とリーダーに立候補する人がたくさんいました。今はまったく違います。なり手がおらず、新入社員に任せると、必ずと言っていいほどジャンケンで決めることになります。だれも自ら進んでリーダー役を引き受けたがらないのです。
第6回 ゆとり世代新入社員の「働く意識」は 意外に前向きだが、 悪い意味で「大人」になっている

「依頼心」が強いゆとり世代

--「自己実現の意識」が低くなっていることは問題ですね。他の特徴はありますか。長所を交えて教えてください。

長所を挙げてみましょう。2011年度に新入社員研修を担当した弊社インストラクターの意見を集約すると、ゆとり世代と批判されていますが、実はそうではなく、かれらは真面目で向上心も高いと言えます。基本的な能力が高く、コミュニケーション力を持っているし、企業理解もあります。
厳しい就職環境によって「働く意識」が育まれたのだと考えます。厳しさが若者の意識と行動を高めているのでしょう。
注目したいのは、「社会に貢献したい」という志を持つ人が増えていることです。これは東日本大震災の影響とも言えますが、今年だけでなく近年の若者に目立つ特徴です。
こういうプラス評価の半面、マイナスも目立ちます。
研修では細かく質問してくる人が多く、自分で調べて答えを出すということができない人が目立ちます。そして「失敗したくない」という本音が見えることがあります。言われれば、きちんと行動できるが、見ていないとやらない、やり続けないというのも特徴です。
この「見ていないとやらない、やり続けない」傾向を分析すると、「誰かに見られている」ならば責任はその「誰か」にありますが、「誰か」がいない、見られていないならば、やることの責任は自分にあることになり、その責任を取りたくないから「やらない」のではないかと考えています。責任に対する考え方、責任観が先行世代と異なっているのではないかと思います。
また会社に対する「依頼心」が強くなってきています。特にバブル期と比較して、組織に属する安心感を得たいと思う傾向が強くなっているのではないでしょうか。

仕事に前向きな新入社員

--その他に調査から見えてくることはありますか。「働く」ことについて若者はどう考えているのでしょうか。

個別の設問を分析すると、若者の変化が見えてきます。
「給料や週休2日制も大切であるが、働き甲斐を求めることの方がより人間らしい生き方ができる」という設問では、「そう思う」という回答が2009年61.8%、2010年62.7%、2011年65.8%と、この3年間上昇しています。
また「自分のプラスにならないと思う仕事まで見つけて、やることは無意味である」という設問で「そう思わない」という回答は、2000年から一貫して増え続けています。「10のことをして、10報われることを考えるより、12のことをして、10の報酬に満足し残りの2を相手に貸しておくぐらいの考え方を持っている人間が最後に大きく報われる」という設問でも、「そう思う」の割合はほぼ一貫して上昇しています。
これらの回答を見ると、仕事に前向きに積極的に取り組もうという新入社員が多くなってきているものと考えられます。
また、働き甲斐の方向は「社会に役立つこと」になってきています。
「会社の利益のために払う自分の努力は、今の世の中で社会に役立っている」と「企業が存続している背景には、必ず社会に役立っているという事実がある」という2つの設問に対して「そう思う」という回答が増えているのです。

悪い意味で「大人」になっている

--就職環境は、2004年から売り手市場になりましたが、リーマンショック以降は買い手市場に転じました。若者にとって厳しい状況が続いていますが、その影響は現れていますか。

第6回 ゆとり世代新入社員の「働く意識」は 意外に前向きだが、 悪い意味で「大人」になっている
厳しい就職環境をくぐり抜けていく中で、世渡り上手な思考を持つ新入社員が増えているのではないでしょうか。
「建前と本音を使い分けなければならないという固定観念は、職場では通用しない」という設問では、この3年、「そう思わない」という回答が増えています。
また、「会社の実体を知るには、噂や横の情報だけには頼るのは間違いである。しかし、上司に直接聞いてみたところで、はっきり分かるものでもない」という設問で「そう思う」という回答も、2008年に67.4%まで下がったものが、2011年には71.7%まで上昇しています。つまり悪い意味で大人になっているのです。

矛盾した意識を持つ若者が離職する

またこの2つの設問をクロス集計すると、「a:建前と本音を使い分けなければならないという固定観念は、職場では通用しない」に「そう思う」と回答し、「b:会社の実体を知るには、噂や横の情報だけには頼るのは間違いである。しかし、上司に直接聞いてみたところで、はっきり分かるものでもない」に「そう思う」と回答する人が常に一定の割合を占めています。
つまり「職場では本音で話をするが、それでも会社の実態は上司に聞いてもわからないものだ」と考えているのです。これは矛盾に内包した意識です。
しかし、このあたりの回答には、新入社員のホンネが隠されているのではないかと思います。
「会社ではホンネの付き合いをしていかなければならないが、会社の実態はそうではないものだ」と、極めて現実的に企業を見ているのではないでしょうか。
ある企業での複数年にわたる調査では、一年以内に離職した新入社員には、全員がこのような矛盾した意識傾向を持っていました。そして営業成績や能力は、離職との関係は見られなかったのです。
私たちが新入社員のことを「会社に理想を求めすぎず、現実的に見ることができるようだから、現場に適応しやすいだろう」と見るのは誤りで、実際には、仕事に就いた後、しばらくすると理想と現実のギャップに悩み、乗り越えられずに、離職してしまうようです。
第6回 ゆとり世代新入社員の「働く意識」は 意外に前向きだが、 悪い意味で「大人」になっている

矛盾を抱えた新入社員への接し方

--そういう矛盾を抱える新入社員に対し、どう接すればいいのでしょうか。

メンター制度や研修も有益ですし、人事のフォローも効果があると思います。しかし本筋は直属の上司がホンネで話し合うことです。それも1カ月に1度、1時間くらいの時間を割いて話すべきだと思います。
その若者に欠けている「意識」を補って上げる方向で、励まして上げることで、ギャップは解消されていきます。

20年間に起こった変化、男女の意識差

--ジェックは1976年以降「社員意識調査」を行ってきました。近年はゆとり世代が話題になっていますが、その他にも大きな変化はあるのだろうと思います。お気づきのことを教えていただけますか。

2つだけ指摘しておきます。
まず働き始める年齢が高くなったと言うことです。20数年前の1980年代後半のころは、高卒で働きはじめた人が34.4%いました。しかし現在は15.9%まで下がっています。
一般的に大卒より4歳若い高卒の働く意識の低さが、調査データに影響を与えていると思います。
もう一つは女性の進出です。20年前と比べ女性比率がかなり高くなっています。女性と男性では意識が違っており、影響を与えていると考えられます。
「社員意識調査」は男女合計の数値を公表してきましたが、新たに男女別に集計し直してみたのですが、明らかな差が見て取れました。
ここでは成果志向のみのデータを紹介しますが、他のデータ解析からも女性の方が仕事そのものに積極的で自立的な傾向が見て取れます。
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