この数年、とくにこの1年で知名度が急速に上がった企業の代表格がDeNAだ。テレビにはモバゲーのコマーシャルが流れ、昨年秋には横浜ベイスターズの買収というビッグニュースがあった。そして人事に携わる者を驚かせたのは、「新入社員の年俸1000万円」という報道だった。新卒の給与は横並び、というのが日本企業の常識だったからだ。そこでDeNAの本社を訪ね、企業文化、人事戦略について聞いた。

--社名の由来とこれまでの歩みは。

第8回 ピラミッド型ではなく、 一人ひとりが表面積を担う球の組織
創業は1999年3月。DeNAという社名は、遺伝子の“DNA”とeコマースの“e”を組み合わせたもので、eコマースの新しい遺伝子を世の中に広めていく”DNA”でありたいという理念の下に設立された。

 同年11月にインターネットオークションサービス「ビッダーズ」を開始。このサービスが黒字化した2002年の下期には、ショッピングモールをスタート。04年に携帯電話用オークションサイト「モバオク」と、アフィリエイトサービスを開始。2005年2月に東京証券取引所マザーズ市場に上場、1年後の06年2月に「モバゲータウン」をスタート。

 06年に決済代行サービス「ペイジェント」を開始し、07年12月に東京証券取引所市場一部に市場変更。広く一般の人に社名が知られるようになったのは、2009年に提供を開始したソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」から。

--マザーズ上場の05年3月期の売上高は28億円強、6年後の11年3月期の売上高は1127億円と約40倍に。組織戦略はどうなっているのか?

私がDeNAに入社したのは、マザーズ上場直後の05年8月で、当時の社員数は120名程度。現在はグループ全体で1600名以上だから、10数倍の規模になっている。

 しかし組織のあり方は創業期から一貫しており、DeNAの基本理念は「球」。社長を頂点とするピラミッドではなく、一人ひとりが表面積を担う球のイメージ。上下関係のピラミッド型組織では、下の人は隠れて見えなくなるが、球組織のDeNAでは誰も他の人の影に隠れることはなく、新米社員も含め、必ずDeNAを代表するフィールド(表面積)を持ってもらう。

 若い社員の成長とは、一人ひとりが自らの表面積を広げていくこと。DeNAには驚くほど多様なミッションやタスクがあり、表面積をどんどん広げていける。実際に新卒入社3年目の社員が、日本を代表する大企業の部長クラスと商談を進めることはよくある。

--グローバル採用、新卒採用はいつから。

09年からグローバル新卒採用を開始している。第1期生は10年10月に入社し、その後毎年続けている。3期生となる今年は、中国、アメリカ、インドから数十名が入社予定だ。

 日本人の新卒採用は05年4月入社が第1期生。当時はまだ社員数が少なく、採用人数も少なかったが、今年4月入社の新入社員は100名弱になる。新卒以外に中途採用も積極的に行っており、年間で新卒を大幅に上回る人数を採用している。中途は即戦力としての採用、新卒はポテンシャルを見ながらの採用となるが、新卒エンジニア採用では研修の必要がないレベルの学生も応募してくる。

--そういう優秀な理系学生を採用するのが、昨年末に話題となった「年収最高1000万円」というコースなのか?

通常の採用とは別コースとなる「新卒エンジニアスペシャリスト採用」。年末に報道されたため、2013年卒採用から始めると誤解されているが、12年卒採用から正式な制度としてスタートしたものだ。

 すぐに即戦力エンジニアとして働く能力を持った人材を、技量に見合った能力給で処遇するのが「新卒エンジニアスペシャリスト採用」。

 報道では「1000万円」ばかりがクローズアップされてしまったが、全員が年収1000万円となるわけではなく、中途採用と同様、各人の技量に見合った年収となる。エンジニア採用というと、理系の大学院生対象と思う人が多いが、理系の学部生だけでなく文系の学部生でも内定している。また「新卒エンジニアスペシャリスト採用」としては不合格でも、通常コースとして合格になることもある。

--通常コースの採用形態は。

コースとしては「ビジネス採用(総合職)」と「エンジニア採用」の2つ。文系、理系という考え方ではない。文系でもアプリを作りたければエンジニア採用に応募すればいいし、理系でも大きな事業に挑戦したければビジネス採用に応募すればいい。

 入社後の配属先は、受け入れ部署の判断、人事の判断、本人の希望という3つの要素で決める。また、数年後にキャリアチェンジをすることもできる。ビジネス職からエンジニアに転身してもいいし、エンジニアがビジネス職になることも可能だ。

--採用手法で特殊なものはあるのか?

選考方法に特別なものはない。どの企業でも行っている適性テスト、グループ面接や個別面接によって選考している。エンジニア採用では、経験者は保有技術や作ってきたモノ、エンジニア未経験者は技術素養が重視される。

 ビジネス採用では、12年卒採用から新しいトライアル施策を始めた。一泊二日の選考会で、社内では「ジョブ」と呼んでいる。ミスマッチ低減のために、採用側と学生側が相互により理解し合おうとするもので、最終面接の前の段階で実施する。研修施設にわれわれ人事と執行役員クラスの社員が学生と共に泊まり込み、個人ワークやグループワークなど実際の仕事現場に近い環境を再現し、学生の選考を行うというもの。

 もちろん、ジョブに参加した学生全員が最終面接に進めるわけではないが、楽しく参加してもらえているようで、口コミで「DeNAのジョブ」の評判が広がっているようだ。

--これからの経営目標は。

15年に連結売上高4000億円、利益2000億円を掲げている。この目標を達成するためのキーワードは、グローバルとテクノロジー。世界市場とエンジニアスキルが成長のエンジンになると考えている。

 DeNAは既成組織の常識とは無縁であり、「時代の切っ先にいる」という感覚がある。これからも有効な手段があれば、常識にとらわれることなくどんどん人事施策として取り入れていきたい。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!