ローテーションは組織を跨ぐ人事異動ですので、組織の長の権限を越えた人事異動権が人事部門になければ円滑かつタイムリーに実施することができません。日本企業では概して人事部門が弱く社内発言力がありません。多くの企業では事業部などのラインの権限で人事が決められますので、人事部門はその決定に従属的にならざるを得ないのです。したがって会社としては戦略的な部門間ローテーションはなかなか実施されないのです。
優秀な社員を育成するために最も重要であるのは、計画的、戦略的な職務の経験の積み重ねであることは誰も疑義を挟みません。しかし実際のローテーション実施、要は人事異動を行おうとすると、中長期の会社全体の人材育成よりも、短期の自部門の目標達成が意識されます。中長期的に見れば部門エゴとも言えるでしょう。そのため人材育成はローテーション手段ではなく、集合研修などが主要な施策になりがちです。
高度成長期にはポストの増加に比較して管理職人材の人数が追いつかない状況であり、そのため必要なポジションに機動的に人を配置する必要性がありました。これは結果社員に様々なポジションや環境で仕事をさせることで、副次的に育成効果が出たと言えるでしょう。しかし現在ではポスト数に比して管理職人数が多く、また概して総合職的社員が相対的に多いために、敢えて費用をかけて人の配置を換える必要がなくなりました。その結果職務経験が限定される傾向になり、優秀な管理職や経営者が輩出できなくなってきたのです。
ローテーションは軽視されています。これからはグローバル競争も意識した優秀な人材を育成しなくてはなりません。そのためにも戦略的、戦術的なローテーションは必須であり、この機能が人材育成の根幹であると再認識しなければなリません。
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