齊藤ウィリアム浩幸 著
日経BP社 1680円

異色の著者が大胆な仮説を提示している。「日本にはチームがない!」と言うのだ。これが日本の「根本問題」であると主張している。
 日本にはたくさんの問題がある。人口減少、デフレの長期化、少子化・高齢化、近隣諸国との領土紛争、国家戦略の不在、産業競争力の低下、国・地方の巨額財政赤字など。これらの問題を引き起こしているのが「チーム不在」。これが書名の意味だ。
ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く
「チーム不在」が日本を衰退させている、と急に言われても戸惑うだろう。著者の略歴からアメリカの教育、雇用がいかに「チーム」を重視しているかを紹介しよう。アメリカと比べると日本は「チーム不在」の国であることがわかる。

本書は250ページのボリュームだが、第1章の100ページ弱の紙数は著者のアメリカでの経歴が描かれている。著者はアメリカ生まれ、アメリカ育ちの日系二世。小学生の頃にPCに興味を持ち両親に買ってもらって、独学でプログラミングのスキルを身につけた。そして16歳でコンピュータに関するビジネスをスタートする。
 高校は飛び級して2年で卒業し、大学入学前の夏にはリヨンの料理学校でフランス料理を学んでいる。両親の希望に沿ってメディカルスクールに入学して医学を学んだが、卒業後に医師として働いたのは1日だけ。
 大学在学中の1991年に友人とI/Oソフトウェアを設立。著者が日米のバイリンガルである強みを活かして、NEC、ソニーなどから開発業務を受注する。
 そして1990年代後半にBAPIと呼ばれるシステムを開発した。2000年にはBAPIやその他のI/Oソフトウェアの技術をWindows OSに組み込む契約をマイクロソフトと交わし、この技術は世界標準になった。
 そして2004年に数百人規模になっていたI/Oソフトウェアをマイクロソフトに売却し、巨万の富を得た。33歳。悠々自適の引退ライフにはまだ早い。何をすべきかを考え、両親の母国日本に行くことを選択した。21世紀に入って政治も経済も停滞している日本で、「何か自分にできることを探せるかもしれない」。

 日本に来てからの著者は日本経済停滞の理由を探すために多くの人と会い、来日以来の8年間で名刺交換した人は1万2000人を超える。著者は1980年代、1990年代の日本企業、日本社会を知っているが、一番気になっているのは当時に比べ全体の活力・活気が乏しいことだ。そしていろんなことに驚く。
 著者は日本の大学で暗号論やベンチャー論を教えており、優秀な大学院生数人に奨学金を出しているが、親に反対されて行けなくなった学生が数人いたことに著者は驚いている。
 政府が主催したセキュリティの会議でも驚いている。出席者は男ばかりで全員がグレーのスーツ姿。世界のハッカーは人種も宗教も職業も異なるが、そのハッカー対策を検討する日本政府の会議には似たような人間が集まっていた。「ほとんどジョークとしか思えなかった」と書いている。

次ページへ

  • 1
  • 2

この記事にリアクションをお願いします!