高齢者雇用は21世紀の日本にとっての重要課題であり、高年齢者雇用安定法によって段階的に年齢が引き上げられてきた。努力義務とされてきた「60歳定年」は1998年に義務化され、2000年の改正では定年の引き上げと継続雇用による65歳までの雇用が努力義務とされた。
 そして2006年4月からは厚生年金の支給開始年齢引き上げに合わせて、65歳までの定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止のいずれかの措置を講ずることが求められた。
第37回 高島屋に学ぶ、高齢者の“戦力化”最前線
そして2012年に高年齢者雇用安定法がさらに改正され、60歳定年後も働くことを希望する全員の雇用を企業に義務づけた。改正法は今春から施行される。

そこで今回のインタビューでは、2001年から65歳までの再雇用制度を導入している高島屋を訪ね、制度の詳細について中川荘一郎・人事部人事政策担当次長に聞いた。

――再雇用制度について伺う前に、百貨店業界の現状と特色、そして高島屋の概要について教えてください。

百貨店業界は労働集約型の産業だ。一定規模の人員を雇用し、その人たちに頑張ってもらうことで収益を上げるという構造を持っている。

歴史を振り返ると、団塊世代の人が活躍した昭和40年代に盛んに出店をしたが、バブル崩壊後は厳しい環境に置かれ、過去十数年は右肩下がりという状況が続いている。

この厳しい環境で生き残るために、百貨店各社はさまざまな手立てを講じてきた。効率化のために店舗を閉める百貨店もあれば、規模を求めて合併や提携をする百貨店もあった。

しかし、高島屋は経営環境が悪化しても雇用に手をつけることはせず、社員の生活の安定を図ってきた。とはいえ店舗スタッフの中身は変わってきた。高島屋の社員は有期雇用者を含め、単体で1万人、グループで1万5000人だが、その数倍の人員が取引先から百貨店に派遣されてフロアに立ち、お客様に対応している。

ノウハウやスキル伝承のため、ベテランが必要

再雇用制度を導入したもうひとつの理由は、世代交代だ。当時の従業員の年齢構成では45歳以上の男性が全体の半分程度を占めており、彼らが定年退職していなくなると、円滑な世代交代に支障を来たすことが明白だった。ノウハウやスキルの伝承を促すためにもベテランに残ってもらう必要があったのだ。

2001年に再雇用制度を導入し、法令改正や世の中の動きに合わせ、2006年と2009年に制度を見直して現在に至っている。

――再雇用制度の概要をお話しください。

 60歳定年を迎えた段階で退職手続きを行い、退職金なども支払う。そして再雇用を希望する人たちを再雇用基準に沿ってコースに分け、1年ごとの有期契約で再雇用する。

 60歳で定年退職する人数は、社員100~200人、有期雇用の人200~300人で、トータル400人ほどだ。そのうち再雇用を希望する人は約7割で300人くらい。これまではその300人全員を再雇用するわけではなく、健康状態と定年前の人事考課による再雇用基準に合わないごく一部の人の再雇用は行っていなかった。

 ただ、今回の高年齢者雇用安定法は、再雇用の対象者を限定する仕組みを禁じているので、4月以降は希望者全員を雇用することになる。

――再雇用制度のコースについて教えてください。

再雇用コースはいずれも60歳までのキャリアを前提としている。まずプロフェッショナルな技術・技能を持つ3コースがある。部長職経験者から会社が要請する専門嘱託コース、プロの販売営業職はスーパーセールスコース、特定の技術・技能を有す人は技術技能キャリアコース。この3コースに就く人は高島屋にとって不可欠の人材という位置づけだ。この3コースはプロフェッショナル人材の再雇用制度だ。

フルタイム勤務は2コースに分けられる

第37回 高島屋に学ぶ、高齢者の“戦力化”最前線
定年に達した者(部長経験者もそれ以外の社員も、有期からも)が再雇用される再雇用コースにはフルタイム勤務と短時間勤務がある。フルタイムのコースを「キャリアコース」と呼び、上位のマスターコースと下位のレギュラーコースがある。

 もうひとつの短時間勤務のコースを「シェアードコース」と呼び、これも年間1458時間勤務のアドバンスコースと週22.5時間勤務のレギュラーコースの2コースがある。シェアードはワークシェアリング的要素が強く、週22.5時間のレギュラーコースなら週3日7.5時間と週5日4.5時間から選ぶことができる。

 アドバンスコースでは、週5日勤務を4日にするか、1日7.5時間勤務を6時間勤務にすることができる。

 このアドバンスコースは55歳と56歳の時点で社員も選ぶことができる。定年前の段階で労働時間を短くし、65歳までの中期的キャリア・ライフプランを支援するために、55歳になった社員が選択できるようにしている。このコースを55歳で選んだ社員には、通常勤務者の年収の8割を12分の1にした金額が給与として支給される。

 この年齢になると親の介護が必要になる社員も出てくるので、そういう理由でこのコースを選択する社員もいる。

――再雇用されると賃金はどうなるのでしょうか?

コースによって賃金は異なるが、もともと社員の「退職後の生活」を守るための再雇用制度なので、定年前より給与は下がるが、年金などの収入も勘案し、生活が十分に守られるように設定されている。

再雇用でも考課がある

また再雇用制度で働くと、どんなに貢献しても処遇が同じということではモチベーションが高まらないので、年2回考課(定年前は年3回)を行い、賞与と給与に反映させている。

さらにコース転換制度も導入している。定年時に基準に達していなかった人が、再雇用後に高い意欲を持って仕事に取り組み、一定の成果を上げ、コース転換基準を満たせば、ほかのコースに転換できるようになっており、実際にコース転換した者もいる。

これらはモチベーション向上のための施策だが、再雇用制度を設計するうえでとても重要だと考える。

――昨年夏には改正高年齢者雇用安定法が成立しました。これからも日本の雇用は変わり続けると思います。中川次長はどのようなことが起こるとお考えでしょうか?

まず、定年が65歳に延長されることが予測できる。年金支給年齢もさらに引き上げられ、68歳、70歳にすることを厚生労働省は検討した時期もある。そうすると70歳までの雇用を企業に義務づける可能性もあると思う。

高齢者を戦力とする仕組みが重要

そういう将来を予測すると、義務として高齢者雇用に取り組むのではなく、戦力化する仕組みづくりが重要になるはずだ。

 また高齢者雇用だけでなく、ほかにも重要な人事課題がある。そのひとつが人材育成だ。百貨店業界はモノカルチャー、均質的であり、非連続な変化への対応力が弱い。異文化対応力が必要だと思う。そういう観点で外国人の採用を開始した。こういう人事施策にも積極的に取り組んでいきたいと考えている。
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