ワークスアプリケーションズ(以下、ワークス)は、大手企業向けERP(統合基幹業務システム)パッケージの開発・販売・サポートを行うメーカーだ。1996年創業のベンチャー企業だが、すでにベンチャーと呼ぶには大きくなりすぎているかもしれない。
 大手企業1000企業グループ以上に同社パッケージが導入されており、人事給与パッケージ市場での国内シェアは2002年から日本一。連結従業員数は2700名に及ぶ。
  知名度の低いB to B企業は新卒採用で苦労することが多いが、同社は違う。02年から実施している採用直結型の「問題解決能力発掘インターンシップ」は、学生間の口コミで評判が広まり、現在では年間4万人が応募している。

 一般的に日本で実施しているインターンシップは期間が短く、学生は無報酬で参加するが、「問題解決能力発掘インターンシップ」への参加学生には日当が支払われる。

 また3年生、4年生に限定しておらず、1年生から参加できる。そして優秀学生に対しては複数年有効な「入社パス」が授与され、その期間内であればいつでも入社することができる。これらは日本の新卒採用の常識とはかけ離れている。

 こんな型破りの採用施策を始めた経緯、その成果についてリクルーティンググループ岡本直典グループリーダーに聞いた。

――まずワークスの概要についてお聞かせください。

第32回 ワークスアプリケーションズの「異色ベンチャーに学生4万人が殺到する理由」
  96年創業のERPパッケージメーカーだ。ERPとは経営資源を統合管理するシステムだ。96年以前には、国内に日本の大手企業の商習慣や業務に対応できるERPパッケージは存在しなかった。そこで牧野正幸、阿部孝司、石川芳郎の3人が日本発のERPパッケージの開発・販売を目指して創業した。

 現在はHR分野では1位、会計などでは2位の国内シェアを持っている。現在の従業員数は、12年6月期で単体2166人、グループを合わせると2709人だ。

未経験者を入社6カ月でプロにする

――就活学生へのアンケート調査では、毎年、ワークスの「問題解決能力発掘インターンシップ」に対する評価がきわめて高いことに驚きます。このような採用手法を導入された経緯を教えてください。

  学生向けのインターンシップを実施したのは02年からだが、その背景には既卒者採用のための施策があった。99年に始めた「プロフェッショナル養成特待生制度」というものだ。少し経緯と内容を説明しよう。

 ベンチャーを起業するとき、初めは同志を募り、優秀だとわかっている知人を集めることが多いと思う。ところが縁故に頼る採用はいずれ限界に達する。ワークスでも社員数が50人くらいの段階でその限界に直面した。

 かといって一般公募をかけても無名のベンチャー企業に多くの応募があるとは思えない。しかし、大手企業で働いている人の中にも「今の会社にいて今後のキャリアは大丈夫だろうか」という不安を持つ優秀人材がいるはず。

 そこで彼らにアプローチするために開始したのが「プロフェッショナル養成特待生制度」だ。キャッチコピーは「勉強ができた人を、仕事ができる人に育てます」。内容は、IT業界未経験者も対象とし、入社後6カ月間の研修後にはIT業界の素養が身に付くだけでなく、トップクラスのコンサルタント・エンジニアに育てるプログラムというもの。

 この施策は大成功し、約350人応募者から特に優秀だった10人を採用した。この「プロフェッショナル養成特待生制度」は当初、半年ごとに採用を繰り返していたが、人材レベルは圧倒的に高かった。

 この「プロフェッショナル養成特待生制度」の参加者から「こういうことを大学在学中に学ぶ機会が欲しかった」という声が多数寄せられた。そこで学生向けインターンシップとして02年に開始したのが「問題解決能力発掘インターンシップ」だ。

他社に入社してから戻ってくる人も

―社会人を対象とする養成制度と、学生向けインターンシップでは考え方から異なるはずです。どのような工夫をしましたか?

  学生にB to B企業、かつベンチャー企業の認知度は非常に低い。そこでまずは応募してもらうために「日給支給、内定ではなく入社パスを出すインターンシップ」とした。実施時期は、学業に影響しない夏休みと春休み。期間は約2カ月と長期のインターンシップだった。

 そして期間中に「この学生の資質は間違いない」と太鼓判を押した学生には、最大5年以内であればいつでも入社できる「入社パス」を発行することにした。この年の応募者は約700人、うち約100人がインターンシップに参加した。

――2年から10年が経過しました。「問題解決能力発掘インターンシップ」の運用に変化はありましたか?

  いちばん大きな変化は応募者数の増大だろう。1期生の募集では700人の応募者数だったが、口コミで評判が広まり、現在は年間で4万人の学生が応募してくる。この4万人からインターンシップ参加までの選抜は、セミナーと事前選抜によって行っている。

 セミナーは100人規模から1000人規模まであり、参加学生には筆記試験を受けてもらう。事前選考では、グループワークやロジカルシンキングテストを行い、年間約1000~2000人の参加学生を選抜する。

 ちなみに当社のインターンシップは、全学部全学年の学生が参加できる。過去1年生がトップの成績を収めたこともある。「入社パス」の猶予時間の使い道はさまざまで、留学する人もいれば起業する人もいる。いったんは他社に就職しながらも、後から戻ってくる人もいる。

――「問題解決能力発掘インターンシップ」に参加した学生が、就活に関するアンケートで「脳の限界まで考える経験」と表現していました。どんな内容で脳の限界まで考えさせるのですか?

  ワークスが学生に与える課題は大きく2つ。1つ目は、1人でひたすら考え抜いてアウトプットを出す、個人での問題解決。2つ目は、それぞれのポテンシャルを持ち寄って課題にアプローチさせる、グループでの問題解決。両課題を通して、学生は高いレベルでの問題解決思考を経験することになる。

 提示される課題は、テーマのみを示した1文のみ。学生はまず、そのテーマから、どうなっていれば理想の状態なのかを考える。理想を描き、今度は現状とのギャップを考える。最終的には、そのギャップをどのような方法で解決していくのか、実現のプロセスを具体的に考える。当社のインターンシップの中で学生に与えられる問題に、決まっている答えはない。学生は、自ら解決するべき問題を見つけ、解決するためのプロセスを描き、解を導き出すのだ。

 インターンシップでは、ワークスのマネジャークラスの社員を30人ほど配置しているが、彼らの役割は“教える”ことではない。社員は、成果物に対して「なぜ、そのように考えたのか」「他の選択肢はどんなものを想定し、その中でなぜこの解を選択したのか」といった質問形式のレビューを行う。

 それによって、学生の考えを広げたり深めるための、刺激を与え続けるのが役割だ。学生は、そういった刺激を受けながら、考えて考えて、もうダメだと思ったその先のもう一歩を絞り出していくのだ。

 このように、答えのない課題に対して、ひたすら考えて、自分の解を導き出すという経験は、大学のカリキュラムではなかなか得られないものだろう。おそらくこの経験こそが、学生にとっては非常に刺激的なプログラムとなっているはずだ。

現状に不満があれば、社員自ら制度を作る

――ワークスは「働きがいのある会社」(Great Place to Work Institute Japan調査)の常連企業です。10年が1位、11年と12年は2位でした。なぜこのように高く評価されているのでしょうか?

第32回 ワークスアプリケーションズの「異色ベンチャーに学生4万人が殺到する理由」
  ワークスでは、社員の一人ひとりが最大限に能力を発揮できる環境の整備に取り組み、現状に満足していないものは社員自らが創り出す文化がある。

 たとえば出産育児支援制度「ワークスミルククラブ」は、有志の社員が集まって「自分だったらどういう制度があれば、仕事と出産と育児を両立できるか」という観点でアイデアを出し合い、制度として確立させたものだ。

 内容は、妊娠判明時から子供が3歳になるまで取得できる育児休業、子供が小学校を卒業するまで選択できる短時間勤務、休業中も社内の情報にアクセスできる環境の整備、職場復帰時に年収の15%をボーナス支給するといった充実した制度だ。

 ユニークな制度としては「カムバック・パス」というものがある。これは一定の成績を収めた後にさまざまな事情で退職した社員が受けられる特典であり、3年以内なら同条件・同ポジションで復職することが可能となっている。

 その他、会社のビジョンや価値観を社員全員が共有するために、ワークスでは毎月1回、全社員が集まり、経営陣が直接会社の戦略、方向性を説明する全社会議を実施しており、新しい会計年度に入る毎年7月には、全社会議後にキックオフパーティーを開催している。

 最も大規模なのはクリスマスパーティーだ。社員だけでなく、家族や婚約者もドレスアップして参加するので約5000名近くになり、パーティー会場は華やかだ。

 会場は都内でこの規模のパーティーが唯一可能な帝国ホテル。地方に住む参加家族には、2人までの交通費も会社が負担しており、社員の子供にはクリスマスプレゼントも用意している。日頃、社員をサポートしてくれる家族やパートナーの皆さんに楽しんでいただきながら、会社への理解も深めていただけるので社員にも好評だ。

 インターンシップという採用手段を使ってエントリーマネジメントを強化し、アカウンタビリティを発揮できる施策を積み重ねることで、「働きがいのある会社」での高評価につながっているのだと考えている。
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