NTTグループは、国内はもちろん世界でも有数の企業グループだ。NTT東日本、NTT西日本に加え、NTTドコモまではだれでも知っている。NTTコミュニケーションズ、NTTデータは情報通信に関わる人間なら知っている。今回取り上げるNTTコムウェアもNTTグループの中核企業だ。
NTTコムウェアは、NTTのネットワークを開発・運用する日本有数のシステム・インテグレーターだ。ITシステムはたくさんあるが、NTTのネットワークは国家の通信インフラであり、堅牢さ、速度、規模で最高の性能を求められる。
NTTコムウェアは1997年の会社設立時から、新人育成のためにメンタリング制度を取り入れていた。そして2009年に制度の大幅な見直しを行った。どのような制度の見直しだったのか? なぜ見直したのか? メンタリング制度の改革を担当したHCMセンタ三尾和幸担当課長に聞いてみた。

--NTTコムウェアは1997年の設立時からメンタリング制度を導入していたと聞きました。当時の日本では、メンターという言葉は定着していなかったと思います。

メンタリング制度のような新入社員に指導員をつける制度は設立当初から存在していた。その指導員の名称を2002年度より「メンター」に統一した。当時のメンタリング制度は仕事を教える色彩が強かった。

--メンタリング制度を大幅に改訂され、成果も上がっていると聞きました。どのように変えたのでしょうか?

まず2009年度に見直しを行った理由を話したい。NTTコムウェアの従業員数は約5300名だが、2008年度まで毎年100名前後の新卒採用を行ってきた。しかし2009年度から採用数が2倍の200名前後になった。それを機に制度を見直した。

2008年度までのメンタリング制度は「マンツーマン」を基本としており、メンターには、一般でいう係長にあたる、主査やスペシャリスト(以下SP)が就いていた。年齢的は40歳前後になる。指導を受けるトレーニーは20数歳だから、年齢の差は大きく、「メンター=上司であるため、気軽に相談できない」という声があった。40歳前後のメンターは多忙であり、「メンターの負担が大きい」という意見も多かった。

トレーニーの指導役がメンターに決まっているので、メンター以外の社員がトレーニーに声をかけにくいという弊害もあったし、そもそもメンターの指導力にばらつきがあるという根本的な課題も抱えていた。多くの課題を解決するために、まず行ったのはメンターの若返りだった。

--改訂施策を具体的にお話しください。

2008年度までの制度では、メンターに40歳前後のスペシャリスト/主査が就き、マンツーマンでトレーニーを担当した。メンターの上にコーディネーターとして課長が就いた。

2009年度からはコーディネーターとしてスペシャリスト/主査が就き、メンターを若手一般社員にした。この措置により、2009年度のメンターは40歳前後から30歳代へと若年化した。

2010年度からは、メンターを入社4年目以降の若手社員にし、さらに若返って20歳代になった。家族にたとえると、2008年度までは父親がメンターだったが、2009年度以降は歳の近い兄姉がメンターになり、トレーニーが相談しやすくなった。

新たに「ファミリー制」も導入した。メンターを中心に、職場の仲間がトレーニーに対する役割を明確にし、職場のメンバーが家族のように機能するよう働きかけ、職場全員で育成する意識醸成を図るものだ。

この役割分担は絵で描かれたものがトレーニーと職場の全員に渡される。トレーニー(子)とメンター(母)が中心になり、その上にコーディネーター(父)、その上に課長(祖父)、左右に姉妹と兄弟、そして欄外には他部署の先輩社員(従兄弟)が描き入れられている。他部署の先輩社員はエルダーと呼ばれ、同じ部署内では相談しにくいことがある時に、客観的なアドバイスをトレーニーに与える役割を担う。

たった一枚の絵だが、効果は絶大。トレーニーを安心させ、職場全体で面倒をみるという育成意識を高める効果がある。

--メンタリング制度を導入した企業に共通する悩みは、指導力のばらつきです。どのようにして解決されましたか?

3つの施策がある。ひとつは毎年6月に開くメンタリング研修だ。2010年度からメンターだけでなく、コーディネーター、課長も参加させることにした。メンターだけだと指導方針にブレが生じ、トレーニーを混乱させる可能性がある。課長とコーディネーターが参加することで、職場全体の育成ベクトルを合わせている。

2番目はメンター同士の協力体制の構築だ。職場メンター3~6 名をグループ化し、基本的な取り組み意識の統一を図っている。互いの活動を報告し合えるようにメーリングリストなどの体制を整備して、グループ単位で毎月活動報告の提出や年間の振り返りを行なっている。トレーニーも交えての勉強会や懇親会、サークル活動をするグループもあるし、飲み会も開かれている。

3つ目は先輩メンターから後輩メンターへの伝承だ。トレーニーの研修期間は2 年間なので、1 年経験済みのメンターと、これから取り組むメンターが存在する。そのメンター間で、メンタリングのノウハウや事例を共有、伝承している。

個々のメンタリングの経験を個人のノウハウで終わらせないため、活動レポートをテキストとして引き継ぐなど、2 年目のメンターが1 年目のメンターを育てる体制づくりを進めている。

--その他に独自の制度はありますか?

名刺大のMy CREDOカードをメンターとトレーニーに配布し、「3つの行動宣言」を書き入れ、実践するように指導している。行動はメンターとトレーニーが決めるもので、何でもいい。ただし「職場のみんなと仲良くする」のような曖昧なものはだめだ。

「毎日声がけする」などの具体的な行動を書き入れる。声がけのような行動は数カ月で習慣化するから、できるようになったら別の行動を書き入れる。飲み会への参加でもいいし、読書目標でもいい。

--新メンタリング制度の成果についてお聞かせください。

2011 年度は、新たに加わった152 名の1 年目のメンターと209 名の2 年目のメンターによってメンタリング活動を行った。トレーニーが導入研修中で職場へ戻る直前の6 月にメンタリング研修を実施し、各メンターグループ単位で月1 回の活動報告を定期的に行った。今年の3 月には1年間の活動をノウハウとして冊子にまとめまた。

その成果だが、トレーニーとメンターを対象に行った2011 年度のアンケートでは、トレーニーはメンターとの関係性を「非常に良かった」54%、「良かった」39%と回答し、合計で満足度が93%に達した。旧制度の2008 年度と比べると20%近く高い。

また80%を超えるメンターは「十分成長できた」「成長できた」と回答し、「2 年の任期を与えられ、責任ある立場で育成に携わることができ、自分にとってありがたいことだと感じた」「新入社員に対しては、伸びた人だけを受け入れるのでなく、自ら成長していく人間になれるように力添えをすることが大事だと気付いた」などの声が聞かれた。トレーニーだけでなく、メンターも教えることによって成長するのだ。
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