Cook Japan株式会社の親会社Cook Medicalの設立は1963年と半世紀前に遡る。現在は135の国・地域の拠点に1万名を超える従業員を持つグローバルな医療機器メーカーだ。
しかし、日本でCook Japanを知る人はそう多くはないだろう。設立は2004年と新しく、従業員数200名強の小さな会社だ。扱っている製品はCook Medicalが開発・生産する医療機器。カテーテルと内視鏡関連製品が中心だ。
そんな小さな会社が、とんでもない中途採用の手法を編み出した。一般的な中途採用は、募集、応募、書類審査、面接というプロセスで進む。ところがCook Japanは「Cookセールスアカデミー」への応募を募り、選抜し、2カ月間をかけてアカデミーで医療機器業界、Cookの理念などを徹底させて採用した。こんな採用は、聞いたことも見たこともない。

なぜこんな手間のかかる採用手法を導入したのか? その背景、理由、成果を代表取締役矢込和彦氏に聞いた。

--Cook Japanの「中途採用募集におけるCookセールスアカデミー」が新しい採用手法として評価され、第1回 日本HRチャレンジ大賞の奨励賞に選ばれました。まずCookセールスアカデミーの概要について教えてください。

Cookセールスアカデミーは、今年の1月下旬から3月下旬の2カ月間で実施した採用プログラムだ。インターネット求人サイトで、医療業界を知らない営業経験者を募集した。年齢は24歳から30歳までの第二新卒とした。約800 名の応募者があり、書類選考、集団面接、小論文作成を経てアカデミー参加候補者を確定した。

確定候補者に対して行った、最終選考を兼ねたトレーニングがCookセールスアカデミーだ。アカデミー期間の有期雇用契約を結んで実施した。契約ではアカデミー終了後の採用を保証しないが、期間中の日当や交通費は支払う。

最終的に21 名がアカデミーに入校した。うち4割の8名が女性だ。21名のうち1名は、事情があってアカデミーを辞めている。20名が2カ月のアカデミーを修了し、全員がCook Japanへの入社を希望した。そこで6営業部門のどれを希望するか、また各部門はだれを希望するかというマッチングゲームを行って、面談を実施した。そして部門と当人の希望がマッチした12 名にオファーし、入社となった。

--2カ月のプログラムの内容を教えてください。また費用負担も重く、講師を出す部門の負担も大きそうです。

正確に言えば2カ月ではなく8週間であり、その内容は前半の5週間と後半の3週間に分かれている。5週間は講義主体のプログラムであり、医療機器業界、Cook社の企業理念と企業文化を教え、社内全部門を説明する。そして全体的な営業ノウハウ、医療機器営業について話し、次に営業部門ごとに異なる製品と専門営業スキルを伝える。残りの3週間は実技主体のプログラムで、営業ロールプレイ、現場同行などを行う。

負担はもちろんある。いろんな支出が発生する。日当もあるし、宿泊費もある。参加者21名の半分は通勤可能な関東圏の人だが、残り半分は地方の人なので、期間中はホテルを会社負担で提供した。3週間の実技プログラムでは、首都圏だけでなく、関西圏などにも行ってもらっている。そういう支出を合わせると、1000万円近くになるかもしれない。

社員の負担も大きい。Cookセールスアカデミーを実施した1月時点の従業員数は150名くらいだったが、その3分の2にあたる100名くらいがこのプロジェクトに関係しているはずだ。また海外からも講師を務めるために数名が来日している。

負担は大きいのだが、自分の後輩を教えるのは楽しいものだ。社内活性化効果も大きかった。

--これまでに、こんなに手間とコストと時間をかける中途採用を聞いたことがありません。海外ではこういう採用手法があるのでしょうか? Cookセールスアカデミーを実施した理由を教えてください。

海外でもCookセールスアカデミーのような採用手法は存在しない。斬新だから日本HRチャレンジ大賞の奨励賞に選ばれたのだと思う。

Cookセールスアカデミーの実施理由だが、急速な事業拡大に伴い、営業職を中心に多くの人材採用を早急に進める必要があったからだ。Cook Japanの売上高は前年末から2011年末にかけて29%、2012年には39%の伸びを見込んでおり、来年以降も二桁成長を予測している。

しかし医療機器業界の営業は専門知識を必要とし、営業経験者の数は限られ、中途採用で充足するには限界がある。Cook Japanは継続的に中途採用しているが、前に断った人が、応募してくることがあるくらい人材は少ない。

もうひとつは年齢だ。医療機器業界の営業経験者となると、年齢が30代、40代中心になってしまう。企業の継続的な成長には重層的な年齢構成が必要だが、医療機器業界は専門性が高いので、経験のない若者は敬遠して応募しない。そこでCookセールスアカデミーという手法を考えた。

業界未経験の第二新卒を対象とすることで、20代の人材を募集した。しかし、業界未経験なので、共に成長できるかどうかを見極める必要がある。それが8 週間に渡る座学と実際の業務に則したトレーニングだ。応募者の適性、意欲、性格などを見極めることができる。

応募者にとっても魅力的なプログラムだと思う。医療機器業界の敷居は高いが、Cookセールスアカデミーなら、白紙から十分なトレーニングを受けることができる。

--800名から21名を選抜されていますが、これは相当に負荷のかかる作業です。どのように選抜されましたか?

当社の人事は2名しかおらず、社内で800名もの応募者を絞り込むことは不可能に近い。そこで日頃から付き合いのあるエージェント企業に依頼した。事前に当社と人材要件について話し合い、どのような経験、どんな性格の持ち主を当社が求めているかを十分に理解してもらった。

エージェントは5~6名の専任チームを作って、全国からの応募者800名を50名に絞り込む作業を行った。

その50名からの選抜はCook Japanが行った。50名を5名ずつに分け、10組の集団面接を行い、別室で小論文を書いてもらって審査した。審査にあたったのは6営業部門の事業部長6名と社長であるわたしだ。

--アカデミー参加者は医療機器業界を知りません。どんなことに驚きますか?

製品を説明する時に大動脈に使うステントグラフトを見せて説明するが、みんなその大きさに驚く。ステントグラフトは血管内部に留置する医療機器であり、その直径は大動脈に等しく、数センチもある。体内にそんな太い血管が走り、血液が流れていることをはじめて知って感動する。

もうひとつかれらが驚くのはCook Medicalの理念だ。「利益追求より患者様第一」であり、アカデミーでは「患者を助けるのが仕事。売るのが仕事ではない」と教える。また「患者さんのためにならないと思った場合は売るな」とも言う。これに20代の若者は感動する。

もちろん「患者さんのため」というメーカーは多いが、Cook Medicalは徹底している。製品のなかには年間に数百しか売れず、採算が割れているものもある。しかしそういう製品でも必要とする患者がいる限り、Cook Medicalは提供し続けている。Cook Japanの企業理念も同じだ。

--今後の採用計画と経営課題について教えてください。

年齢構成を重層的にするために、新卒採用を2~3年以内位に始めたい。採用数は未定だ。セールスアカデミーは、これからも年に1回程度は実施していきたい。継続することによって次の層、その次の層と重層化していく。

経営課題としては、取扱製品を増やすことがある。Cook Medicalの製品は1万5000種あるが、Cook Japanはその3割、4000~5000種位しか取り扱っていない。欧米の病院経験を持つ医師からは「あの製品が欲しい。なぜ取り扱わないのか」と言われるが、従業員数は200名強とまだ少なく、医療機器として承認を得ることを含め体制が不十分だ。優秀な人材を採用し、育成することで、体制を整えていきたい。

幸いなことにCookセールスアカデミーで入社した12名は、非常に積極的に日々の業務に取り組んでおり、確実な成長を見せ始めている。徐々に理想の体制に近づいていくと確信している。
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