今、多くの企業が働き方の見直しに取り組んでいます。その一方で、制度改革が滞る例も少なくありません。中央大学の鬼丸朋子教授は、その要因が『無限定正社員』を標準とすることにあると指摘し、働き方改革を通じ新たな「普通の働き方」の模索を提言します。その上で、制約を抱える社員を標準とするのが適切ではないかと踏み込みました。本セッションは、鬼丸氏の講演と、学習院大学の守島基博教授とのディスカッションの2部構成で行われました。

講師

  • 鬼丸

    鬼丸 朋子 氏

    中央大学 経済学部 教授

    中央大学経済学部教授。経済学博士。九州大学経済学部経営学科卒業、同大学院経済 学研究科博士課程満期退学。桜美林大学経済学部准教授、國學院大学経済学部教授、中央大学経済学部准教授を経て、2015年より現職。専門分野は人事労務管理論。研究テーマは、日本企業における人事・賃金制度の変遷。 主な著書に『賃金・人事制度改革 の軌跡』(共著)、『職務(役割)給の導入実態と職務(役割)評価』(共著)等。



  • 守島

    守島 基博 氏

    学習院大学 経済学部 教授

    1986年 米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。1990年 慶應義塾大学総合政策学部助教授、1998年 同大大学院経営管理研究科助教授・教授を経て、2001年 一橋大学大学院商学研究科教授。2017年より学習院大学経済学部教授。2020年より一橋大学名誉教授。厚生労働省労働政策審議会委員、中央労働委員会公益委員などを兼任。著書に『人材マネジメント入門』、『人材の複雑方程式』(共に日本経済新聞出版社)、『人事と法の対話』(有斐閣)などがある。

働く上での「普通」とは何か。働き方改革を「新たなスタンダード」のきっかけにする

新しい日常の中で、無限定正社員のあり方を再考する / 中央大学 鬼丸朋子氏

今日の「普通」がこれからも「普通」になり得ない社会で、改革を停滞させないために必要な心構えとは

近年、働き方改革関連法の施行といった背景により、働き方への見直しが推進されています。特に、なんらかの制約を抱える社員に対し、柔軟な働き方の提供が進みました。例えば、地域限定正社員や時短正社員、あるいは時差出勤などが挙げられるでしょう。さらに2020年、新型コロナウイルス感染症への対応としてテレワークの導入がこれまで以上に活発化され、働き方の変化が加速されました。

しかし、まだまだ十分とはいえない状況です。日本は少子高齢化が進み、勤務地・職務・労働時間などについて、なんの制約もなく働ける従業員、いわゆる「無限定正社員」の絶対数は今後確実に減少していきます。こうした中、これまでのように無限定正社員をスタンダードとする働き方を続けていけるのか、立ち止まって考える時が来ているのではないでしょうか。

昨日の「普通」、今日の「普通」が、明日の「普通」になり得るとは限りません。私たちは好むと好まざるとに関わらず、これまで当たり前とされていたことを取り換え、作り変えていかなければならないのです。働き方改革とは、経済・社会状況や人々の意識の変化等に対応して「普通の働き方」を問い直すことである、と捉えてほしいと考えています。

現状、働き方改革を進める際に、重要なキーワードとなっているのが「仕事と生活の調和」、いわゆる「ワークライフバランス」です。しかし、働き方の見直しを進めるにあたって、注意が必要な点が少なくとも2つあると考えられます。1つ目は、「仕事と生活の調和」の対象者を、育児や介護などをして大変な状況にある人、すなわち少数の例外的な人に限定しがちであることです。本来であれば、仕事と生活の調和の対象は、全従業員に広げられるべきものであるはずです。

もう1つは、「働きやすさ」ばかりが意識されがちな点です。時短勤務や地域限定正社員制度を働きやすさにのみ主眼を置かれた措置として導入・運用してはいないでしょうか。このような制度の対象者に対して、「働きがい」を提供することをどの程度意識しているのでしょうか。今後は働きやすさのみならず、成長を実感できる仕事をする、チャレンジしたい仕事に参加できる、手応えのある仕事に携わる、ということまで踏み込んで議論されるべきだと考えられます。この2つの側面について、まさに「聖域なき改革」が今後ますます求められるでしょう。
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