■主旨と内容

企業や経営者のCSRに関する理念や方針にはいろいろな考え方があります。企業も地域社会の一員であり,地域社会のなかで共存・共栄を図っていくという立場からすると,社会貢献活動の一環として従業員が参加するボランティア活動を支援することには大きな意味があります。短期的・直接的な利益や効果を期待するのではなく,企業・組織の活性化,人材育成など企業活動のために必要であるという考え方も一般的に認められてきました。
3月に発生した東日本大震災のような災害を想定するとすれば,個人的な取り組みでは間に合わず,企業全体のボランティアへの考え方を整備しておく必要があります。社員たちの社会に貢献したいとする欲求を受け入れ,かつそれを企業全体として応援できる準備をし,人々を支え合う姿勢が問われる時代になってきました。
 すでに従業員のやる気を刺激する方法として様々な「休暇制度」を設けている事例が見られます。これに加えて,ボランティアに関する会社の考え方を明らかにすることは,今後の企業価値を高める上で非常に有効だと考えられます。
 それと同時に,従業員自身の自己実現や視野の拡大,生き甲斐づくり,定年後を視野に入れたライフスタイルの形成などのための従業員福祉施策のひとつとして,ボランティア活動の支援をとらえる視点も必要です。
 平成12年度国民生活白書に以下のような記述があります。
第2 章 ボランティアが広まるために
(活動を困難にする要因と対応策)

● ボランティア活動への参加を困難にする要因には,①時間的制約,②活動に関する情報の不足,③ボランティア団体に加入する際の心理的障壁がある。
● 雇用者の時間的制約を減らすためには,ボランティア休暇・休職制度の導入が有効である。しかし,こうした制度がある企業(調査対象は労働組合)は2 割にとどまっている。
● 活動に関する情報の不足に対応するためには,パソコン等の情報通信機器を使い,幅広い手段で情報を提供することや,ボランティアセンターの整備が有効である。そしてボランティア団体に関する情報に容易にふれることにより,心理的障壁が低くなることも期待できる。(活動への参加意欲の高まりに貢献する事項)
● 過半数の国民が,学校でボランティア活動を見聞させたり体験させることに期待している。しかし,ボランティア活動を単位として認定することに期待する人は25%となっている。(ボランティア活動の領域)
● ボランティア活動と政府にはそれぞれ得意とする領域がある。ボランティア活動は,個別性が高い多様なニーズに対応することを得意分野としている。

■検討内容

まず,企業主導によるボランティア活動への参加の場合でも,個人の自由意思が尊重されるよう,個人の自主的なボランティア活動へのきっかけづくりとする配慮が必要です。 企業がボランティア活動の支援制度を導入する場合には,その支援方法や適用範囲を明確化します。
 支援方法は,企業の考え方により様々ですが,実際に活動する従業員のニーズを把握することが重要です。ボランティア活動はふだんの業務では経験できないような多様な価値観と触れ合う貴重な場でもあります。その貴重な活動経験をふだんの業務に広く還元できるようにする仕組みも重要です。
 ボランティア活動を効果的に進めるには,外部のボランティア団体や地域のネットワークとの連携も重要です。企業としても情報交換によってボランティア情報を把握しておく必要があります。
 実際の運用において,規定で明記が必要な項目では以下のものがあります。
●支援内容
●適用対象者と認定基準
 従業員全員なのか,一定の要件を満たす者なのか
●休職期間や休暇日の期間
 ボランティア休暇については,自治体や民間企業の前例をみると年間5 日,6 日,10日,12日と様々です。取得方法は1 日単位が基本で半日単位もあります。
 休職の場合は,ボランティアの種類や実態も踏まえて,企業が実情に応じて設定します。また,長期にわたるため,企業が認めた者という条件を付けておく必要があります。休職の場合は復帰時の職場配置なども記載しておくことが必要です。
●休職中・休暇中の賃金や賞与について
 賃金の代わりにボランティア支援金という名称で,賃金相当額を付与することが考えられます。あるいは,「給与・賞与ともに全額相当支給」「給与は全額,賞与は半額相当」等様々です。もちろん,「無給」とする考えもあります。ボランティア支援という定義からすれば,あくまでも本人主体の制度であるべきですが,会社の命令や特別推奨の場合は賃金が必要となります。
●勤続年数との関係
●勤続年数との関係
●年次有給休暇との関係
●ボランティア休暇の承認手続きについて

ボランティア支援規定

第○条(目的)この規定は,社員がボランティア活動を行うために休暇・休職等を希望する場合の支援の取り扱いについて定めるものとする。

第○条(適用対象者)勤続3 年以上の社員で健康状態が良好であり,取得後も勤務を継続する意思のある者とする。

第○条(適用範囲)社会貢献度の高いボランティア活動に従事するためであり,会社が認めた活動であることとする。
● 公的・非営利を目的として自主的に行う社会貢献活動(宗教,思想,政治に関するものを除く)
● 災害被災者に対する福祉,人命救助,地域社会への貢献活動,環境美化運動
● 老人や障害者に関する福祉,児童・生徒に関する福祉,外国人に対する福祉
● 青少年健全育成活動,スポーツ活動等への貢献活動等その他会社が認めた活動

第○条(休職期間等)休職期間は原則として1ヵ月以上2 年以内とする。

第○条(休職の申請と審査)休職の申出は所定の書面で行い,休職開始予定日の原則2ヵ月前に行わなければならない。災害等に関するものについてはこの限りではない。
2 前項の申出を受けて,人事部長は面談実施の後,ボランティア支援制度の適用の可否を決定する。

第○条(休職期間の変更)休職期間の変更を求める場合は書面で申し出ることができる
2 前項の申出を受けて,人事部長は事情を聴取の上,期間の変更を許可する場
合がある。

第○条(休職申し込みの撤回)やむを得ない事情により休職申し込みの撤回を行う場合は休職開始1 週間前に書面で申し出なければならない。
2 前項の撤回を行った場合,当案件での再度の申請はできないものとする。

第○条(賃金)休職期間中の給与・賞与等は支給しない。
第○条(ボランティア支援金)休職期間中は,給与・賞与に相当する金額をボランティア支援金として支給する。
2 ボランティア活動によって報酬等が発生する場合は,その報酬額相当分を返還する。

第○条(退職金算定)退職時基礎給の取り扱いについては,休職期間中は出勤とみなす。
第○条(社会保険等)健康保険,厚生年金保険および雇用保険の会社負担分は継続する。2 社会保険料の本人負担分はボランティア支援金より控除する。

第○条(年次有給休暇)年次有給休暇の算定においてボランティア休職期間は出勤したものとみなす。

第○条(復職時の配置)復職時の配置等については,休職前の職務を考慮の上,会社が決定する。

第○条(ボランティア休暇)部門長は,災害対策活動や地域社会貢献活動,社会奉仕活動等に従事する社員等が,希望した場合,ボランティア休暇の使用を認めることができる。2 前項の特別休暇は,年間5日を上限とし,有給とする。

第○条(災害補償制度)ボランティア休職・休暇期間中でボランティア活動中にボランティア活動に起因する災害があった場合は会社の災害補償規則を準用する。

第○条(特別支援金)会社が特別に指定するボランティアに関しては特別支援金や特別物資を支給する場合がある。
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