地方創生の現状とは

次に、地方創生の現状について徳島県 飯泉嘉門知事と牧野氏のトークが行われた。
そのトークの内容をまとめる。

飯泉知事
「東京に人が集まり過ぎて、地方から若者がいなくなっている。若者が東京で結婚をし、子どもを産み育てられる環境であればよいが、実は生活コストが高く結婚もできない、交際する暇もないのが現状だ。地方はかつて「子だくさん」だったにも関わらず、若者がどんどんいなくなり、子どもも生まれなくなった。若者たちを地方に呼び戻そうという「地方回帰」が、今、一番のポイントになると思う」

牧野氏
「弊社は、東京以外にも大阪、名古屋、広島、福岡に拠点があり、シンガポール、上海などグローバルに4拠点を持っている。市場のニーズがあり、マーケットがあり営業やサポート人員をおく必要性があるから拠点を置いている。

一方で、我々が拠点を出す時に一番重要視していることは、そこに職を求める優秀層がいるか、ということ。例えばアラスカに素晴らしい大学があってたくさんの求職者がいるのであれば、迷わずアラスカに進出するという話だ。教育機関やよい人材がいるかは、地方か都市かによらず、企業にとっては重要だ。昔のように地方の方が労働力や場所が安いから企業を誘致するようなやり方では、若者も出て行ってしまう。

確かに日本の1/10で雇えるような発展途上国はあるが、そこで人工知能のトップエンジニアを採用するのに70万円くらい払えばよいかというと、そうはならない。トップエンジニアは1,000万でないと雇えない。徳島は大学もあるし、人工知能の研究所がある。なおかつそこで働きたいという人がいる。だから徳島に拠点を出すことにした」

「東京には、地方から人が集まっており、優秀層が多いように思われているが、それは日本という島国の考え方だ。例えば、我々のトップエンジニアの半分が海外にいるのが現実だ」
AIは地方を活性化させるのか? ―― ワークス徳島人工知能NLP研究所開設記念イベント

「AIは雇用を奪うのか」あるいは「AIによって無駄な作業が排除され雇用が活性化するのか」

牧野氏
「今、人間がやっていて面倒くさいと思う仕事がたくさんあるが、いずれ誰かがやった仕事は自動化されていくと思う。例えばスポーツ記事の結果だけであれば、誰がどのように勝ったかを書けば済む。アメリカでは、そういった記事はすでに人工知能が書いている。一般業務も同じで、面倒くさい仕事は人工知能に置換えることができる。しかし、人工知能は見たことがない業務はできない」

「知識を駆使して新しいものを作っていく人が非常に重要になってくる。今までは知識だけで解決出来る問題が多くあったが、過去の経験であれば、人工知能が代替するようになるだろう。
我々が会社の中で作っているのはプロダクトなので、お客様から最初にお金をもらって作っているわけではない。クリエイティブな素晴らしいものを生み出さないと、作ったものの価値がないわけだ。私たちはIT業界からほとんど採用しないし、いわゆる経験者であるかどうかは関係がない」

飯泉知事
「我々役所、官公署、霞が関も含めて、今の仕事のままであればほとんど人がいらなくなる。一番時間をかけているのが国会答弁。法律、条例、様々通知文書を作ることだ。これは、過去の積み重ねなので、ビッグデータがあれば、AIがやってしまうことだ。パターン化されているため、AIにそのパターンを教えれば、各省で1週間かかっていたものをおそらく1時間あれば出来てしまうし、それだけ人がいらなくなる。
最近ようやくマイルストーンという言葉が当たり前になってきたが、何年先に何が起こるか、そこで今何をするのか、数年後には何をするのか。このような創造性、将来の見通しを考えられる人材が必要になってくる」

「いくら働く環境がよくても優秀な人材がいないと雇用できないわけだが、そのような人材を地方から提供するためには教育が必要だ」

牧野氏
「徳島に限らず、日本人は世界で一番、大学で勉強しない国。中国、アジア、インド、またロシア、ノルウェーなどの人材と比較すると、勉強量のケタが一つ違う。家で予習しないといけない時間が、日本では平均数十分なのに対し、海外では3.5~4時間しないと卒業できない。これは日本全体の問題であり、地方だから、東京だからということではない」

「シンガポールや上海など海外では都市部の家賃は確かに高いが、30~40分離れると、家賃も安く、緑もある。東京でそれを求めるのは無理で、東京都外、千葉や神奈川に出たからといって環境がよくなるわけではない。東京で快適な環境で働くということは無理な話だ。しかし、日本人の多くはそれを許容している。他国は恵まれている。家賃もそんなに高くなく、インフラも整っている。私たちが借りているオフィスの最先端は東京でなく、上海やシンガポール、チェンマイの方が進んでいる」

「まさにクリエイティビティ型で、過去にとらわれずゼロベースで考えられる人が重要です。この部分について、日本人はとても弱い。
何かを改善することは得意だが、ゼロベースで何かを生み出すことになれていない。
『ゼロから1を生み出す』クセは大学か大学院で身につけてもらわないといけない。社会に出てからチャレンジさせることは難しい」

飯泉知事
「好奇心がある人、今ある現状に対して満足をしない人が必要。地方は過疎化が進み、バス路線などもどんどん廃止されていく。逆転の発想で、AIを使って自動運転を行えば、地方の高齢者も住みやすくなる。環境がよくなることで、若い人も地方にきて、クリエイティブなものを生み出す。そうなれば、今度は世界中から人を呼ぶことができる。IoT、ビッグデータ、AIを組みあわせることにより、今の地方創生を大転換することができる。まさに地方だからこそできるのではないだろうか」

2人のトークから、パターン化された業務のほとんどが、今後AIに代替えされ、これまで何日もかかっていた仕事をAIは数時間でこなしてしまう時代の到来を感じる。しかし、AIが人間にとって代わるというよりも、経験値が必要な単純作業はAIが行い、経験を駆使して新しく創造する仕事や新たなチャレンジができるのは依然として人であり、今後はクリエイティブな人材が求められてくと言えるだろう。

ワークスアプリケーションズが徳島に拠点を置いたのは、時間も場所も関係なく仕事ができる時代になったことが大きい。このような時代の中で、人はもはや首都圏にいる必要性はなくなる。AIの普及は都市部と地方をボーダーレス化し、ひいては地方創生に繋がっていくかもしれない。
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