日本の人材紹介のビジネスモデルに疑問を感じ、企業が求める人材に直接アプローチできる仕組みを構築

 私は外資系金融会社に4年間勤務し、東北楽天ゴールデンイーグルスの創業に参加した後、5年前にビズリーチという会社を設立した。管理職・グローバル人材に特化した「ビズリーチ」では、企業と求職者がダイレクトにつながるオープンな仕組みを提供している。
弱者の人材戦略・強者の人材戦略
  この会社をスタートさせたのは自分の転職活動がきっかけだった。東北楽天ゴールデンイーグルスを辞めたとき、起業するつもりは全くなく、何か社会に大きなインパクトを与えるような面白いこと、業界の歴史を変えるような面白い仕事がしたいと考え、IT業界への転職をめざした。
 そこで人材紹介サービスの会社を27社回ったところ、同じ条件を提示したにもかかわらず、そのたびに違う会社を紹介された。しかもどの会社も「これこそあなたにぴったりの会社だ」と言うのだ。なぜこのようなことが起きるのか疑問に思い、人材紹介業界の仕組みを調べてみたら驚くべきことがわかった。

 人材紹介会社は自社が契約している企業しか紹介できないのだ。というのも、顧客である求人企業に人材を紹介すると成功報酬を得るビジネスモデルだからだ。そのため、求職者にはすべての可能性と選択肢が与えられていない。このビジネスは、求人企業と求職者の間にブラックボックスを作り出しているのだ。
 楽天が流通業界で行ったように、ブラックボックスの部分を可視化して、売り手と買い手がダイレクトにコンタクトできるオープンな仕組みがあれば、もっといい転職ができるのに、そうした仕組みがないことが分かった。

 それでは海外ではどうなっているかを調べてみたところ、アメリカでもヨーロッパでもアジアでも見事に採用市場は可視化され、オープンになっていた。求人情報はインターネット上にデータベース化され、企業はヤフーやグーグルで情報を検索するようにいくらでも求職者を検索して、アプローチできる。こうした仕組みがないのは日本だけだった。

 人材紹介の手数料は、米国でもアジアでも、おおよそ15~20%だが、日本は30~35%。求人サイトの広告掲載料は世界では数万円程度なのに対して、日本では数十万から百数十万円もかかる。市場が可視化・オープン化しないことで、こうしたビジネスが成り立っている。これは明らかにおかしい。それなら自分が日本でオープンな仕組みを作ろう。そう考えたのが、ビズリーチを立ち上げた理由だ。

オープンな仕組みを活用すれば、優秀な人材をより効果的・効率的に採用できる

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  こうしたオープンな仕組みの利点は、求人企業と求職者がダイレクトにコンタクトできることだ。それによって求める人材、優秀な人材をより早く、低コストで採用できる。さらに、採用に苦戦する地方の企業や中小企業にとっては、ハンディを解消してくれるというメリットもある。

 たとえばある地方の中堅メーカーを訪ねたとき、「中途採用ではなかなかいい人材が採れない」と言われた。高い技術力と約30年の実績があるエクセレントカンパニーなのだが、人材紹介会社に頼んでも、いい人材を採用できたためしがないというのだ。
 しかし、これは採用市場をブラックボックス化している人材紹介会社に依存しているからだ。たしかに大手や外資系に比べて、その会社は給与などの待遇面でもブランド力でもかなわない。人材紹介会社はより高い報酬を得るため、年収の高い企業を優先して紹介する傾向にある。このビジネスモデルがあるため、地方の企業はどれだけ魅力的でも、敢えて勇気を出して言うと、売れ残った人材を回すことになってしまいがちだ。だから優秀な人材が紹介されないのだ。

 そこでこの会社にビズリーチのサービスを利用してもらったところ、2か月後にそれまで中途採用で採れなかったような優秀な人材が採用できた。企業のブランドや規模、立地、給料にはこだわらず、いい仕事がしたいという優れた人材は実はかなりいるのだ。こうした人材に出会えなかったのは、人材紹介業界の仕組みにブロックされていたからにすぎない。

主体的・能動的に多くの人材と会い、選べるダイレクト・リクルーティング

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  可視化・オープン化されたダイレクト・リクルーティングでは、求人企業と求職者が直接コンタクトできるネット上のプラットフォームが存在する。求職者がそこに登録することでタレントプールが形成され、求人企業はそこから条件に合った人材を検索し、アプローチすることができる。
 そこでは紹介会社にお任せの受け身の採用ではなく、主体的かつ能動的な採用活動が可能になり、より優秀な人材、条件に合った人材を、より早く、より低コストで採用することができる。

 ビズリーチが提供しているのはこうしたサービスだ。外資系企業や中小企業、ベンチャー企業、オーナー系企業などを中心に、約1,700社の企業と管理職・グローバル人材など30万人以上の人材に賛同・参加していただいている。
 5年前1人で立ち上げた会社だが、今では社員数約300人に拡大している。当社の人材採用も主体は中途採用で、自社のサービスを顧客企業と同様に活用して行っている。現在は毎月10人を採用しているが、昨年1年間の採用コストは105人に対して約1700万円。当社が求める優秀な人材を、極めて効率的に採用できている。

 採用成功のポイントは3つある。
 まず1つ目は「採用は確率論である」ということ。
 良い人材を10人採用するためには13人に内定を出す必要があり、そのためには85人に面接する必要がある。そのためにはタレントプールから1000人に声かけしなければならない。
 これは営業のセオリーと同じだ。まず数を追い、面接を通じて質を問う。当社の離職率は極めて低いが、これはそれだけ多くの人と会い、その中で資質を見極めているからだ。厳しく質を問うことができるのもダイレクト・リクルーティングのメリットだ。タレントプールにいくらでも代わりがいるから、妥協せずに質を追求できる。

 2つ目のポイントは「徹底したKPI管理」。
 工場の品証や営業、マーケティングなどと同様に、採用の状況を可視化・数値化し、責任者の責任を明確にする。最初のタレントプールへのアプローチから一次・二次・三次面接、採用まですべての過程を可視化して、今採用がどこまで進んでいるかを明らかにする。これによってスピーディーで効率的な採用が可能になる。

 3つ目のポイントは「経営陣主導」。
 経営陣が採用を主導しないかぎり、良い人材は採れない。面接に自分より能力のない人が面接官として出てきたら優秀な人は「この会社で働きたい」と思わないからだ。当社では最初の3年間、社長である私が自分で採用責任者を務め、2代目は営業のトップに任せた。これは大手外資系企業で実践していたことを参考にした。

経営戦略の中軸を担うために、人事は採用の主体性を確立すべし

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  人材紹介会社に任せきりの採用から脱却し、ダイレクト・リクルーティングによる採用を実践すれば、企業はより効率的に優秀な人材を獲得し、競争力を高めることができる。
 もちろんそのためには人事が意識を変え、能動的・主体的に採用活動を展開しなければならない。古い人材採用の慣習により、人材採用業界任せの採用から抜け出せない企業も多い。「忙しい」「時間がないからできない」「手間がかかる」などと言う企業もある。それでいて、「人こそ事業の要」とどの企業も言う。それならば人にこそ時間・労力・リソースを割くべきではないか。ダイレクト・リクルーティングによる主体的な採用を行えば、企業はより早く、より低コストで、より優秀な人材を獲得できるのだ。
 
 世界ではもうダイレクト・リクルーティングがあたりまえになりつつある。日本も変わらなければならない。グローバル企業では人事は花形のポジションだ。人事が経営戦略の中心で活躍している。人こそ事業だからだ。
 「人こそ事業」と考えるなら、日本の人事も主体的に行動すべきだ。私はビズリーチのサービスを通じて、日本の人事が採用の主体性を取り戻し、企業を変え、日本を変えていくお手伝いがしたいと考えている。
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