新型コロナウイルス感染症拡大の影響でリモートワーク(テレワーク)の導入が加速する昨今、同時に新入社員研修のオンライン化に踏み切った企業も少なくないだろう。人事担当者から慣れない対応に戸惑う声が漏れ聞こえてくる中、NTTデータ先端技術株式会社では、新型コロナ発生直後の2020年2月初旬から、新入社員研修を全面オンラインに移行する準備を開始。その甲斐あってスムーズな導入となり、高い研修効果を実現した。このオンライン研修を含む同社の「事業継続のための新型コロナウイルス感染症に対する迅速かつ万全な全社的取り組み」は、一般社団法人プロジェクトマネジメント学会の「PM実施賞」も受賞している。同社はIT 企業のため、オンラインと親和性が高かったことも成功要因のひとつではあるが、さらにもうひとつ、成功に繋がる重要な鍵があったという。そこで今回は、オンライン研修を設計した、人事総務部 人事担当の担当部長 杉山志保氏、担当課長 西野晶子氏、人事担当 鈴木加代子氏に登場いただき、取り組み内容や成果について伺った。
オンライン×新入社員研修を成功に導いたNTTデータ先端技術に見る、「自律的な社員」を生み出すメソッドとは

入社日2日前に新入社員研修の全面オンライン化が決定

――御社は2020度から新入社員研修をオンラインで実施されているとのことですが、なぜオンラインに踏み切られたのか、背景や経緯についてお聞かせください。

鈴木
 もともと当社は、新型コロナ発生以前から社員の在宅勤務を奨励していました。そのため2020年2月頃には、比較的スムーズに全社的なリモートワークへの移行が進んでいたのです。そうした中、新入社員研修に関しても「場合によってはオンライン化に切り替えなければいけない」と想定し、2月の初旬から自宅用パソコンの確保やネットワークの確認などの環境整備を着々と進めました。さらに、委託している研修会社と話し合いながら、従来の集合研修でもオンライン研修でも、どちらにも臨機応変に対応できるように研修内容を設計しておきました。そして入社日の2日前というギリギリの段階で、当社では「オンライン研修に切り替える」という判断を下した次第です。

――オンライン研修は具体的にどのような内容や日程で行われたのでしょうか?

鈴木
 例年4月から6月まで、技術研修を中心に実施するのですが、2020年度は集合研修とほぼ同様の内容でオンラインに移行し、一部実機によるサーバー構築演習など、在宅では難しい研修のみを9月以降に延期しました。ちなみにオンライン研修ではZoomを使い、講師による演習等を画面越しに見たり、説明を受けたりするなど、リアルタイムでのやり取りを行っています。一方、ビジネスマナーの研修については、教材を各自に郵送して自主学習で実施し、課題レポートを提出させることで、理解度の確認等を行いました。また、その他、人事との個人面談や配属前のビジネス研修、成果発表会などもすべてオンラインで実施しました。
鈴木加代子氏

鈴木加代子氏

重視したのは「集合形式と同様の研修効果」や「社員同士のコミュニケーション」

――集合形式からオンライン形式へ変更するにあたり、特に意識した点や気をつけた点はありましたか?

鈴木
 最も意識したのは、オンライン研修に移行しても、集合研修と同様の効果を得られるようにした点です。特にオンライン研修は一方的な講義に陥りがちですので、チャットやZoomのブレイクアウトルームを活用するなど、インタラクティブな仕掛けをできるだけ用意して、新入社員が積極的に発言できるようにするなど、主体的に取り組める環境を整えました。また、講師の方には、砕けた裏話なども交えたお話や、講義の途中に適宜行う個人ワークなど、飽きない工夫もしていただいたので、集中力の持続にも繋がったかと思います。

――出社する機会も少なく、ずっとオンラインで研修を受けていると、不安を感じる新入社員の方もいらっしゃると思いますが、コミュニケーションの部分ではどのような工夫やフォローをなさっていたのでしょうか?

西野
 おっしゃる通りリモートワークですと、どうしても物理的に一人で仕事をしている状況になりますので、せっかく同期入社したみんなと「横の繋がり」をなかなか作れません。そこで毎週火曜日と木曜日、勤務終了前の17時半から18時までの30分間で、Zoomによる連絡会を開催することにしました。これによって新入社員同士が気兼ねなく話し合える機会ができ、「火曜日と木曜日が楽しみです」といった声も寄せられるなど大変好評でした。また、「研修内容を理解できている社員」が、「少し困っている社員」に教えてあげるといった助け合いも自然と生まれており、コミュニケーション醸成という意味では、非常に効果的な施策だったと感じています。
西野晶子氏

西野晶子氏

――個別に相談や悩みにお答えするような機会はありましたか?

西野
 主に3つのパターンがありました。1つ目は、毎日の始業メールおよび終業メールに相談事や困り事を書いてもらい、私たち人事が適宜回答したり、共有フォルダにQ&A表を設けて、新入社員全員で内容を共有できたりするようにしました。2つ目は、さきほどお話したZoomの連絡会で質問や相談を受けつけて、その場で回答し、みんなの前で話しにくい内容に関しては、連絡会の後に個別で人事が対応しました。3つ目は、1人につき1回、配属に向けて人事とのオンライン個別面談会を開催。ここでも悩みや相談をできるだけたくさん聞くようにして、きめ細やかなフォローを心掛けてました。

鈴木 緊急事態宣言の最中は自宅にずっといたので、だんだん元気がなくなっていったり、不安そうな表情をしていたり、また研修続きで疲れた様子が見られたりと、オンラインでも一人ひとりの雰囲気や状況は伝わってきました。そうした面で、私たち人事にとってもZoomの連絡会は有益なもので、個別の対応やフォローがしやすくなりました。

前年度と比較して満足度や技術レベルに差異なし。むしろ「自律性」や「主体性」が高まる

――オンライン研修の最終的なゴール設定と、成果についてお聞かせください。

鈴木
 先ほども申し上げたように、オンラインでも集合研修と同様の効果を上げることを目指していました。研修修了後、カークパトリックモデルによる効果測定を行ったところ、4月第1週目に実施した「ビジネスマナー研修」については、2019年度は「全員が満足」、2020年度は「93%が満足」という結果でした。2020年度は、「挨拶の仕方」などで対面のロールプレイを希望する社員がいて、それが差に表れた形です。その部分を除けば、オンラインでも満足度は変わらないと言えるでしょう。

また、4月中旬から6月中旬に行ったLinuxとJavaのIT技術研修については、満足度/研修後のテストの結果とも、2019年度と比較して大きな差異はありませんでした。つまり当社においては、IT技術研修はオンライン化に移行しても質は落ちていないということです。これは、当社の社員が“高度なIT技術者の集団”であることも関係していると考えています。そして、Javaのシステム開発研修についてのアンケートでは、前年度より「チームワークやコミュニケーションが重要だ」という意見が増えました。そういう意味でも、非常にポジティブな成果がもたらされたと感じています。

西野 もうひとつ、オンライン研修を通じて副次的な効果も得られました。それは「自律性が育まれた」という点です。オンライン研修の大変さや不便さを経験したことで、自分から率先して行動したり、発信したりしないと何も起こらないということを、全員が気づき、自覚してくれました。否応なく能動的に行動しなければならない状況になったことで、結果的に受け身の社員が非常に少ない傾向になりました。

また、私たち人事も「わからないことがあったら一人で抱え込まずに、どんどん発言してほしい。それがみんなのためにもなる」と伝えて新入社員の心理的安全性を担保する、このコロナ禍で配属以降にどのように行動すべきかをレクチャーするなど、新入社員の自律性や主体性を刺激するような働きかけをするよう努めました。

鈴木 2020年入社の社員を見ていると、「人事担当に新人研修を受けさせてもらった」というスタンスではなく、「自分たちも一緒に研修を作り上げた」という意識を持っている人が多い印象を受けました。例年の成果発表会では、「楽しかった」、「勉強が大変だった」、「成長できて嬉しかった」といったシンプルな感想が多かったのですが、2020年度の発表では、例年と異なり初めて新入社員自身が自主的に司会進行を行い、ロジカルシンキングで研修全体を見つめ直したり、配属後の在り方を語ったりするなど、一歩先を見据えた内容となり、私たち人事としても胸を張って配属先に送り出すことができました。

「自分でやらなければならない」という自覚がオンライン研修を成功に導く鍵に

――杉山様は担当部長というお立場から全体をご覧になられて、御社のオンライン研修が成功したポイントはどこにあるとお考えでしょうか?

杉山
 2020年度に関しては、「本当はみんなで集まって対面で研修を受けたかったんだろうな」とは思いますが、それが許されない状況だったため、否応なくオンラインでやりきった、というのが正直なところだったと思います。そうした中、私たち人事としても、当初は「効果が半減するのではないか」と危惧していたのですが、配属直前の6月に入った頃から、「意外と集合研修と遜色なくやれるな」という感触を持ち始めました。あとで振り返ってみると、新入社員の一人ひとりが「自分でやらなければ」という自覚を持ち始めたのが、ちょうどその頃だったように思います。

私は長年、親会社のNTTデータで新入社員研修を見てきたのですが、集合形式だとどうしても“やれる社員”がどんどん先導してしまい、“やらない社員”は何となくわかったつもりで置いていかれてしまうケースが少なくありません。ですが、オンライン形式になると自分で解決しない限り前に進めませんので、そういう意味でも「自律的に取り組むような仕掛け」を用意したことが成功の鍵になったと言えるのではないでしょうか。

また、もうひとつ付け加えるとするなら、2020年度の新入社員が約30名だったのに対して、人事担当が私たち3名ということで、「オンラインで一人ひとりにきめ細かく目配りできる範囲」としては、ちょうどいいバランスだったと感じます。
杉山志保氏

杉山志保氏

――2020年度の経験を踏まえて、2021年度の研修に活かされたことや、本年度から新たに取り組み始めた施策などはありますか?

鈴木
 ずっとオンライン研修をやっていると、どうしても途中で“オンライン疲れ”のような中だるみが起こってしまいます。そこで本年度は、オンライン研修の合間に月2~5回の頻度で集合研修を組み込み、「ハイブリッド型の研修」を実施しました。残念ながら、4月の後半、東京に再び緊急事態宣言が発令されたため中断しましたが、その後再開しています。今回実施した感触としては、非常にうまくいったように思います。

杉山 研修とは直接関係ありませんが、今年から全社的な取り組みとして、勤務時間外にみんなで集う「Zoomの交流会」をスタートさせました。あくまで自由参加なのですが、実際に参加している新入社員を見ていると、自己紹介をするだけでなく、なかには社長と草野球の約束をした社員などもおり、みんな心底楽しんでいる様子です。このように「オン」だけではなく、「オフ」の部分でも意図的に繋がりを作ってあげたほうが、会社全体に馴染みやすいのではないかとも感じています。

オンラインと集合のメリットを組み合わせた「ハイブリッド型研修」を目指す

――来年以降の新入社員研修についてどのようにお考えなのか、今後の展望や課題などをお聞かせください。

鈴木
 当社は今後もリモートワークを継続していく予定です。そのため新入社員研修に関しても、このままオンラインをベースにしつつ、集合形式のメリットも取り入れながら、「ハイブリッドな形」でメリハリのある研修設計をしていきたいと考えております。

西野 オンライン研修においては、やはり「集中力の持続」という点が大きな課題になるかと思います。ですから今後は、例えば午前中は「1時間から1時間半ごとに10分程度の休憩」を挟み、午後は「1時間から45分ごとに休憩を入れる」など、後半に向けてインターバルを増やすような設計も考えていきたいです。

杉山 新型コロナ以降に入社した社員は、新卒・中途問わず「人との繋がり」を強く欲している様子が伺えます。そのため、さきほどご紹介したZoomの交流会のような「意図的に繋がりを持てる仕組み」を今後も増やしていきたいですね。オンラインでも構わないので、とにかく顔を合わせる回数を増やしていくことで、人との繋がりの強化や、質の向上に通じると思います。

――では最後に、オンライン研修に踏み切れない、またはうまく成果を出せていないという人事担当者の皆さんへ、アドバイスやメッセージをお願いいたします。

鈴木
 当社もコロナ禍において、試行錯誤しながらオンライン研修を進めてきました。しかし、私たちはこの難しい局面を「チャンス」だと前向きに捉えています。物事を変化させていくことで、さらに良いものを作り出すというのは、ビジネスにも通じることです。そういった意味でも、ぜひ一緒に試行錯誤を繰り返しながら、少しずつブラッシュアップさせて、より良い研修を作っていきましょう。そして、お互いに情報交換などができれば幸いです。

西野 新入社員はどうしても「遠慮したほうがいいのかな……」と消極的になりがちです。そのため、会社や人事担当者は「自由に発言してもいい」、「自由に行動してもいい」ということをしっかり伝えて、背中を押してあげることが大切だと思います。また、「リモートで物理的には別の場所にいても、みんな仲間なんだよ」ということを伝えて、安心して研修や仕事に取り組めるようにしてあげることも重要だと思います。

杉山 私たちも最初はオンライン研修で効果が上げられるのか半信半疑でしたが、実際に研修をやってみたら特に問題もなく、今ではすっかり当たり前になりました。もちろんすべてをオンラインに切り替える必要はなく、「オンライン研修のメリット」と「集合研修のメリット」をうまく組み合わせて、それぞれの会社に合った形を作っていけば良いと思います。もしオンライン研修に踏み出せず迷われている人事の方がいらっしゃいましたら、「まずはやってみてください」とお伝えしたいです。
【ゲスト】
NTTデータ先端技術株式会社
人事総務部 人事担当
担当部長 杉山 志保 氏
担当課長 西野 晶子 氏
人事担当 鈴木 加代子 氏
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