近年、「インターンシップ」制度を取り入れる企業が増えている。「インターンシップ」とは、企業が就職前の学生を受け入れ、業務を体験してもらう制度のことだ。インターンシップの導入によって、就職後のミスマッチを防ぎ、離職防止につなげる効果が企業は期待できる。人事側は社員教育、人材育成の第一歩としても活用できる。企業がインターンシップを行うメリットや目的、その種類について見ていこう。
企業側の「インターンシップ」のメリットとは? 人事が知っておくべき目的や種類も解説

そもそも「インターンシップ」には、どのような目的がある?

「インターンシップ」とは、一般的に学生が企業で就業体験を行う制度のことである。日本におけるインターンシップでは、学生が専攻や将来望むキャリアに関連する企業にて就業体験を行うことを指す。

企業側は、インターンシップを通して新たな人材の獲得・育成を目指すとともに、就業体験を通して学生に企業風土を理解してもらい、就業後のミスマッチを防ぐ狙いもある。

●「インターンシップ」の導入背景

「インターンシップ」を導入する企業が増えている背景には、主に次の理由が考えられる。

・就活の早期化
学生の就職活動は近年早期化の傾向にある。内閣府が公表している「2022年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」に記載されている、2022年3月卒業・終了予定の学生の就職・採用活動日程は次の通りだ。

・広報活動開始:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
・採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降
・正式な内定日:卒業・修了年度の10月1日以降

しかし、このスケジュールは経団連に所属する企業に向けたものであり、所属していないベンチャー企業等は、経団連に所属する企業よりも早く採用活動を行う傾向がある。採用活動の早期化には、「優秀な人材を早く獲得したい」企業の狙いがあるのだ。

また、新型コロナウイルスの影響が就職活動にも及んでいる現状があり、2022年卒の大学生・大学院生の多くが6月以前からインターンシップへの応募といった就職活動を始めていたという民間の調査もある。新型コロナウイルス対策としてインターンシップをオンライン上で行う企業も増え、これによりインターンシップの実施率が上昇しているという。

・学生が働くイメージを描けない
新卒採用後、3年以内に退職してしまう人材が多いのは学生が働くイメージを描けないことが原因と考えられている。インターンシップにより学生が持つ働くイメージと実際の労働へのミスマッチと離職を防げるとして、多くの企業が導入している背景がある。

●「インターンシップ」の目的

企業が「インターンシップ」を行う目的は主に次の3つがある。

(1)人材育成
新卒採用社員の育成の第一歩としてインターンシップを活用している企業も少なくない。採用したい学生が入社後になるべく早く戦力になるよう、インターンシップを通してさまざまなことを学んでもらうためだ。

(2)離職防止
新卒採用後、すぐに離職されたのでは企業側の損失が大きい。入社後に「想像していた業務内容と違う」、「企業風土が合わない」などのミスマッチが起こらないよう、職業体験を通して学生に自社を理解してもらいたい狙いがある。

(3)人材の発掘
優秀な人材を採用試験だけで見極めるのは難しい。インターンシップ中の働きを見ることで、企業側は将来有望な人材を見極めることができ、優秀な人材の発掘につながる。


「インターンシップ」にはどのような種類がある? 期間・内容・報酬別にそれぞれ紹介

「インターンシップ」にはさまざまな種類がある。期間や内容、報酬の有無など、気になるインターンシップ制度の種類について詳しく説明する。

●期間

「インターンシップ」の期間は、大きく分けて次の3つがある。

・短期
短ければ1日のみ実施するものがある。これは「1dayインターンシップ」と呼ばれるもので、「応募の先着順で参加できる学生を決定するもの」、「参加基準がなく誰でも参加できるもの」、「テスト等を行い、選考基準を満たす学生のみが参加できるもの」の3つのタイプがある。

・短中期
短中期型のインターンシップでは、2日から1ヵ月程度の就業体験を実施する。企業側が学生に課題を与え、実施後には学生に意見を求めるものが多い。エントリーシートやWebテスト、面接等で選考を行うため、学生側の参加ハードルは高くなりがちだ。選考の際に学生の意欲を知り、実施を通して学生の意見を聞けるというメリットがある。

・長期
年単位でインターンシップを実施する長期間タイプのものもある。これはベンチャー企業で実施されることが多く、主に即戦力となりうる優秀な人材が求められる。大学1~3年生の前期まで、あるいは4年生が就職活動終了後から卒業までの期間、インターンシップに参加するケースが考えられる。

●内容

「インターンシップ」の内容には次のものがある。

・会社説明、セミナー
会社説明、セミナー型のインターンシップは、「1dayインターンシップ」で主に行われる。インターンシップという名ではあるが、会社説明会と同様の内容で実施できる企業側の負担が少ない方法だ。

また、一度に多くの学生と接点を持ちたい企業にも有効な方法といえる。学生個人を見極めることは難しくとも、自社の優位性を学生に広く伝えられるだろう。

・プロジェクト
プロジェクト型では、学生に課題を与え、業務だけでなくディスカッションやディベートに参加してもらい多くのことを体験させる。

課題は企業によって異なるが、商品開発や新規事業の提案など企業にとって重要なものを任せることも多い。プロジェクト型のインターンシップを通して、企業は学生それぞれの発言力や伝達力を知ることができる。

・就業
就業型は、その名の通り学生に実際に働く機会を与えるインターンシップだ。社員と同様に職場内で働くことによって、学生は職場環境や業務内容を理解できる。

企業側は、インターンシップを通して学生への指導を行う社員の成長や職場の環境改善等の効果を得られる。このタイプでは、学生でも行える業務を用意したり、学生が失敗しないようフォロー体制を整えたりと企業側の負担が大きいのが難点だ。

●報酬

さらに、「インターンシップ」には有給のものと無給のものがある。

・有給
有給のインターンシップは、即戦力の学生に労働の対価として支払うもの、採用のための宣伝費と考え支払うもののなどがある。インターンシップで学生が自社の売上に直接貢献することは難しい。学生への給与は採用広報活動における宣伝費と捉えることもある。

・無給
学生を労働力とせず、教育・研修の一環として就業体験を行う場合や、学生に自社を知ってもらうために行うインターンシップでは学生に給与を支払わないことがある。期間が短いものや、学生への教育の意味合いが強いインターンシップでは無給でも参加する学生は多い。

「インターンシップ」のメリット・デメリットを期間別に解説

ここからは、インターンシップのメリットとデメリットを期間別に解説する。

●短期間の実施によるメリット、デメリット

・メリット
短期インターンシップのうち、会社説明・セミナータイプのものは、手間をかけずに多くの学生に自社を知ってもらえるという利点がある。大学や求人サイトを通して広く募集することで、自社をより多くの学生に認知してもらえるため、採用広報の面からも優秀な方法といえるだろう。

プロジェクト型では、ディスカッションや課題の結果を見て学生の性質を知ることができる。学生それぞれと直接交流できるのもメリットだ。性質や性格を理解できれば、採用後のミスマッチも防げるだろう。

・デメリット
会社説明・セミナータイプのインターンシップは1日で多くの学生に会社について説明を行うだけで、直接的な交流を持てないことから学生個人の性質や性格を知ることはできない。

プロジェクト型では、学生は課題をこなすことが主となり、実際の業務について伝えきれない可能性がある。採用後に、「思っていた仕事内容と違う」といったミスマッチが発生してしまうかもしれない。

●長期間の実施によるメリット、デメリット

・メリット
年単位で実施される長期のインターンシップでは、意欲や能力の高い学生を発掘・採用できるメリットがある。学生個人の能力や性格をじっくりと見て理解でき、さらに採用後のミスマッチを防げるのが利点だ。

職場内で精力的に働く学生がいることで、社員のモチベーションの向上や後進を育成する能力の向上などの効果も期待できる。

・デメリット
長期のインターンシップでは、学生を受け入れる体制の構築や、学生に指導する社員の用意に時間や手間がかかるのが難点だ。また、長期間・長時間の労働によって学生側が労働意欲を失ったり、仕事への責任感が学生本人の負担になってしまったりする可能性もある。

企業が気をつけるべき「インターンシップ」の注意点

「インターンシップ」を導入する企業は、より効果的なインターンシップを実施するために、事前に次の注意点を理解し対策を取ろう。

●目的の明確化

目的が不透明なままインターンシップを実施すると、費用に対して得られる効果が薄まってしまう。なぜ行うのか、どのような効果を得たいのかを明確化し、目的を設定しよう。

「多くの学生に自社を知ってもらいたい」、「採用時のミスマッチを減らしたい」、「優秀な人材を獲得したい」など、目的が明確になればインターンシップの期間や内容も決定しやすい。

●賃金の支払い

有給か無給か、有給ならばいくら支払うのか、事前に決定しておこう。有給の場合、最低賃金を下回るような給与にならないように注意したい。年単位の長期インターンシップを実施する場合、学生が労働者とみなされ労働基準法が適用されることもある。

●情報漏洩

「学生が機密情報にアクセスできる環境になっている」、「顧客情報を管理する業務をさせた」などの場合には、情報漏洩が発生してしまう可能性がある。機密情報の取り扱いには注意が必要だ。

企業機密や顧客情報、個人情報が漏洩しないよう、学生と誓約書を取り交わすのに加え、情報管理体制は万全にしておきたい。学生の過失によって企業側が損害を被った際には、学生に賠償を求めなければならないこともあるだろう。万が一のことを考え、どのような場合に損害賠償請求を行うのか事前に定めておこう。
労働人口の減少によって人材の獲得が難しくなる中、採用に課題を抱えている企業も少なくないだろう。「将来自社に利益をもたらしてくれるかもしれない、より多くの学生に出会いたい」、あるいは「優秀な学生をピンポイントで獲得したい」のなら、「インターンシップ」制度を導入して学生との接点を増やしてみてはいかがだろうか。導入の際には、インターンシップを行う目的を明確化するとともに、賃金の有無や機密情報の取り扱いについて決定し、学生を受け入れる体制を整えよう。
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