行政指導の実態

果たして、この行政指導は適切に行われているのか?
昨年秋に、前述の法令改正・施行に関連して、由々しき状況に直面した。私の関与先ではない事業所だが、とある地方労働局雇用環境・均等室が「監督指導」に入っていた。その名目は、男女雇用均等法に基づく「セクシャルハラスメント禁止」規定への適切な対応ということだった。結果的に、当該事業所は「セクシャルハラスメント禁止」規定に違反状態にあるということで、是正勧告がなされ、当該労働局の個別具体的な指導の下、従前の就業規則に「セクシャルハラスメント規程」を付加し、労働基準監督署に変更の届出をしていた。

私から当該事業所へは、昨年の10~11月という時期の監督指導であれば、昨年3月に改正され、今年の1月1日から施行されるマタニティ・ハラスメント等を含めたハラスメント全般に関する雇用管理措置義務を履行するよう指導されるはず、現在の違反状態の是正にとどまらないはずだ、と申し上げた。ところが、あろうことか前述のとおりの監督指導が行われていたのだ。当該労働局に電話しても、「現状の違反状態を是正するための指導を行いました」「仰る、昨年の法改正に伴う雇用管理措置義務は、法律が施行されていませんから、事業所へは情報提供だけにとどめています」の一点張り。

リーガル・マインドの欠如した行政指導

結果的に、当該事業所は昨年末までのわずかな期間は違反状態を改善できたが、年明けとともに新たな法令の施行により、また違反状態に陥ってしまったのである。リーガル・マインドを持った行政官庁であれば、監督指導の時期が法律施行までの準備期間であることを的確に認知し、現状の法令違反の是正にとどまらず、改正法施行時においても法令違反状態にならないような将来へ向けた指導も行うはずである。ここで取り上げた某労働局は自分たちのミッションが「取締り」にあると勘違いしているのかもしれないが、指導された事業所はたまったものではない。

この事例に限らず、最近の行政はあまりにもリーガル・マインドが欠落しているように感じる。
行政を司る行政法には一般法(通則法)が存在しないため、その法源として不文法たる「法の一般原則」(「法律による行政の原理」「比例原則」「平等原則」「信義誠実の原則」「権利濫用の原則」「説明責任の原則」「透明性の原則」など)が重要視される。つまりリーガル・マインドとは、「法律の実際の適用に必要とされる、柔軟、的確なバランスのとれた判断に必要不可欠な法律的素養」と定義できる。よって行政官は個別法の表面的な理解のみではなく、先に挙げたような原理原則を含めた法律の基礎も理解した上で行政を執り行うことが求められるのだ。
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